高齢者のやりがい・生きがいを見つけよう!

老年期うつ病の作業療法

老年期うつ病の作業療法

■編集 髙橋 章郎

定価 3,300円(税込) (本体3,000円+税)
  • A5判  128ページ  2色
  • 2015年9月24日刊行
  • ISBN978-4-7583-1690-3

自分で生きる力を取り戻そう! 患者のセルフヘルプを作業療法士がプロデュース

「老年期うつ病」の患者数は推計40万人といわれており,特に女性の患者が多く,高齢者の自殺の原因の一つでもある。今後も患者数は増加を続け,また認知症へ進行する割合も高いことから,確実な対策が必要とされている。
老年期うつ病は,発症原因,症状,治療法など,さまざまな点で若年者のうつ病と異なるため,作業療法にも工夫が必要である。作業療法士と高齢患者は,これまでの治療者と対象者の関係である「治す,治してもらう」という役割から共に脱し,作業療法士は高齢患者が自分のことは自分でできるように,患者の生活をプロデュースすることが重要である。
本書は,高齢者が新たな生きがい・役割を見つけるために,作業療法士が地域でできることを実例を通して解説。うつ病に限らず,作業療法士が今後,地域でどのように高齢者とかかわっていけばよいか,その参考となる1冊。


序文

 私がうつ病の作業療法に携わるようになって,十数年が経過した。臨床をスタートしたのは「うつ病はこころのかぜ」というキャッチフレーズがよく聞かれていた時期である。「治す精神科作業療法」というスローガンを掲げ,各症状に作業活動を対応させることでうつ病を治すことはできないかと,試行錯誤の日々を送っていた。数年の後,成果はある程度挙げることができてきた。しかし,実感としては,「治す」という表現は適切ではないと思うようになっていた。同じ時期だったと記憶しているが,うつ病の再発率や長期予後研究の成果が報告され始めると,実感は確信へと変化していく。その成果は,「うつ病の再発率は70%,一度再発すると,その後は90%の確率で再発を繰り返す」というものであった。うつ病は他の精神疾患と同様に慢性疾患であるとして,社会全体でのパラダイムシフトが必要であった。このころから,「治す」というスローガンに加え,「病とともに生きる」というキーワードを加え,臨床に取り組んでいる。医療機関で臨床に取り組んでいる者として,治す,治ることをあきらめてはいない。幸いにも,現実に数多くの治す・治る体験をすることができた。しかし,ある一定の割合で再発を繰り返し,家庭や学校,地域での役割や参加の機会を失い,長期間の治療を要する方も多く存在する。これは入院だけではなく,外来治療においても同様である。病をもちながら生きる,そのためにアプローチするのは,患者本人だけなのだろうか? 変化が求められているのは本人なのだろうか? この日本に,生き方や働き方,存在の多様性が確保されているとはいえないと思い,社会における一つの存在価値として,「お金を稼ぐ」というキーワードを追加したのは,つい3〜4年前のことである。

 本書のテーマは「老年期うつ病に対する作業療法」である。本文中にも出てくるが,老年期の最大の特徴は病や障害が1つではなく,重なるように複数存在するという点にある。人生80年時代を迎え,持病や障害をもちながらも生きることが必要になった。本書には,上記の「治す」「病とともに生きる」「お金を稼ぐ」という各キーワードを実現するためのエッセンスを,ふんだんに盛り込んでいる。1章では日本の人口動態を確認し,超高齢社会が作業療法士にどのような影響を与えるのかを概観した。2章では,老年期の特徴を精神医学的に示し,漢方薬も含めた薬物療法,認知症やせん妄との鑑別などを示している。3章では,作業療法各領域における事例を提示し,アプローチの基本コンセプトを示した。4章では今後の作業療法士のあり方,対象者とともに実現する「幸せになるヒント」を示している。それぞれの領域で働く作業療法士に限らず,興味をもっていただいた多職種,当事者家族の方々へ,明日からの臨床や日常生活に何かよいヒントがあれば幸いである。

 本書の企画がスタートし,2年が経過した。多くの支えがあり出版という日を迎えようとしている。いつも示唆的に私の成長を支えていただいている近藤伸介氏,これからもあらゆる難局をともに切り開いてゆくであろう早坂友成氏,遠藤真史氏,小山智彦氏といった執筆陣の皆様には,今後ともご指導いただければ幸いである。加えて,延々と進まない執筆・編集活動を最後まで辛抱強く,終盤は強力に導いていただいたメジカルビュー社阿部篤仁氏にこのような機会をいただけたことを感謝申し上げる。
 最後に,いつも興味をもって話を聞いてくれる妻,背中を押してくれる家族に感謝します。
「いつもありがとう」

超高齢社会は全領域の作業療法士にとって最大のチャンスであると…。
通勤途中,満員の武蔵野線車内にて。

2015年8月
髙橋章郎
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目次

1章 現代の高齢者を知る
 現代の高齢者を知る
  超高齢社会
   老年期うつ病の再燃
   高齢化社会から高齢社会,超高齢社会へ
  収容型医療の限界
   退院後の受け入れ先施設の不足
   受け入れ先の職員の不足
   高齢者の地方移住?
  対象の喪失と発達課題の剥奪
   これまでの高齢者の発達課題
   新たな対象・発達課題の獲得
  平均寿命の延長の意味することは?
   なかなか死ねない社会
   高齢者の生きる力
  現代の高齢者はどのような時代を生きてきたのか?

2章 老年期うつ病を知る
 老年期うつ病を知る
  老年期うつ病の症状
   うつ病の症状
   老年期固有の特徴
   うつ病発症の契機
   老年期うつ病の特徴
   老年期うつ病の鑑別診断
  老年期うつ病の生活機能障害
   国際生活機能分類(ICF)と援助論
   生活機能からみた老年期うつ病
  老年期うつ病の治療
   休養
   薬物療法
   精神療法
   くらしを支える援助

3章 老年期うつ病に対する作業療法
 事例報告① 大腸癌手術をきっかけに,うつ病を発症した60歳代の症例
  施設紹介
   プログラムのキーコンセプト
  一般情報
  ICF各要因について
   健康状態
   心身機能/身体構造
   活動
   参加
   環境因子
   個人因子
  経過
   大腸癌手術をきっかけに退職,心身両面に多彩な症状が出現
  作業療法の経過
   導入期
   継続期:前期
   継続期:後期
   終結期
  考察
   MCIの段階での積極的な身体活動
   生き方の多様性
 事例報告② 認知症混在例(介護老人保健施設)
  施設紹介
  事例
   一般情報
   ICF各要因について
  経過
   仕事に打ち込んだ日々から一転,妻も仕事も失い閉じこもりの生活に
   生きる希望を失い抑うつ状態になったAさん:「稲作」活動の導入へ
   導入期(1カ月目):現実との接点として散歩や水やりを行った時期
   継続期(3カ月目):稲作を通して社会とAさんがつながり始めた時期
   終結期(6カ月目〜):役割関係を自ら卒業し,新しいAさんに生まれ変わった時期
  考察
   人と自然とともに生きる環境の創造:稲作文化にある「共生社会」のあり方
   どのような「存在」としてクライエントの前に現れるか
   希望へと導く「作業体験」:そして新たな自己の生成へ
  まとめ
 事例報告③ 地域連携・訪問支援
  はじめに
  地域連携やまちづくりを実践する那須フロンティアの活動紹介
   那須フロンティアの概要
   地域住民と那須フロンティアが協動で取り組む地域交流,地域連携の一例
   ゆずり葉が担う地域の相談支援
  事例:父親の介護と自分のこれからの生活の不安を吐露したAさんへの地域連携と訪問支援の実際
   基本情報:初回訪問面接,民生委員,医師,保健師などからの情報共有より
   生活歴・受診歴
   Aさんの父親の情報
   支援につながった経緯
   主訴
   Aさんの生活状況
   課題の焦点化と目標設定
   支援の経過
  地域連携と訪問支援における作業療法
   地域連携や仕組みづくり(間接支援)における作業療法士の役割
   訪問支援(直接支援)で大切にしたい作業療法のあり方
  おわりに
 アプローチの基本とポイント
  対象者の理解
   元気な頃の自分と比較する
   体への漠然とした不安
   誰かのために生きてきた人生
   人生が終息する恐怖
  アプローチの方向性,留意点
   生活を見直す機会とする
   構造化の留意点
  作業選択のポイント
   馴染みの作業
   物語をつくる
   段階づけ
   作品にすべてが集約される
   作品を完成させるということ

4章 超高齢社会で作業療法士は何をすべきか?
 超高齢社会で作業療法士は何をすべきか?
  作業療法士の今後の方向性
   高齢者,みんなが病気なわけじゃない
   働きたいけど働く場所がない!?
  生活習慣病予防と介護予防の分岐点
  長生きの秘訣:社会的関係性,つながることの大切さ
  ソーシャル・キャピタル(社会関係資本)の発現
  作業療法士は地域の黒子にもなる
  作業療法士ができること
  元気になる作業活動を通してお金を稼ぐ
   高齢者が自分たちで稼ぐ
   作業療法士は黒子? たくらみの黒幕?
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