精神科作業療法 
運動プログラム実践ガイドブック

精神科作業療法 運動プログラム実践ガイドブック

■編集 髙橋 章郎
早坂 友成

定価 4,620円(税込) (本体4,200円+税)
  • B5判  192ページ  2色
  • 2016年12月29日刊行
  • ISBN978-4-7583-1723-8

運動を作業療法の手段とするために

近年,精神疾患に対する運動の効果が注目されている。従来,作業療法士による精神疾患に対する治療は精神的/心理的アプローチが中心であったが,運動がストレスを軽減させQOLを向上させるというエビデンスが多数報告されるようになってきた。
本書は,これまで自身の作業療法に運動を取り入れていなかったOTが,ゼロから運動プログラムを始められるように,懇切丁寧に解説した実践書である。運動の効果についてのエビデンスから,精神疾患・運動の基礎知識,薬物療法と運動との関係,具体的な運動プログラムの導入方法,事例紹介と,運動プログラムの初心者に必要となる知識・技術を余すところなく含めている。
ぜひ本書を,精神科作業療法の臨床現場で役立ててほしい。


序文

 日本の高齢化は世界に類のない速さで進んでいる。生活から経済,あらゆる面に影響を及ぼし,そのひずみが顕著になり,実感せざるを得ない状況である。後期高齢者の自動車事故も多発している。しかし,過疎の進む地方では自動車がなければ生活はできない。過疎地域における電車やバスなどの公共交通機関の多くは不採算路線であり,運営母体が事業からの撤退を発表し,地方からの人口流出に拍車をかけることが予想される。労働者人口も減少の一途を辿っている。首都圏を中心に病院,病床の数が足りなくなり,あらゆる状態の人々が地域で混在する社会が到来しようとしている。人口減少とともに高齢化率は上昇し,労働者人口が減る。国は医療費や社会保障費の削減を進めており,これまでの医療,保健,福祉体制の継続が難しいことは,読者も理解していることと思う。このようななかで私たち作業療法士に課せられる最大のミッションは何であろうか。それは,どのような疾患や障害をもっていても,どれだけ年を重ねたとしても,納税者として在り続けることを可能にすることであると私は考える。これは個人のみの話ではなく社会,経済産業構造としてもである。働き続け,納税者であり続けるには,絶対条件ではないものの身体的機能を最大限引き上げておく必要がある。加えて,脳の器質的な変化や認知機能障害などさまざまな要素を検討する必要がある。働き方の選択肢も社会のなかに最大限確保しておく必要があり,社会構造も大きな変化が求められる。
 以上の時代背景と社会的な要請を踏まえ,まず最初に精神障害(特に統合失調症)患者の身体的現状と,運動の生物・心理・社会的な概要を医学的な視点から示した。次いで,精神科作業療法における,運動プログラムの位置付けと意味,全国5施設における運動プログラムの実際と事例報告を示している。最後にまとめとして治療構造も含めた治療的意義について示した。運動プログラムとは,単に身体を動かし,ストレスの発散や身体的耐久性の向上を目指すものではない。私たちが目指すのは対象者のリカバリーであり,運動は目的ではなくリカバリー達成のための手段である。リカバリー志向の精神科作業療法運動プログラムを一貫したコンセプトとして記したのが本書籍である。執筆を快諾してくださった執筆陣の先生方にはこの場を借りてお礼を申し上げる。特に熊本地震の直後,震災対応で勤務先での当直が続くなか,コンセプトに賛同を頂き執筆頂いた田尻先生には足を向けては寝られない。最後に,なかなか進まない私の執筆,編集活動をメジカルビュー社編集部,髙橋祐太朗氏,阿部篤仁氏,両氏に強力に推し進めて頂いた。両氏にも感謝を申し上げる。
 本書が対象者のリカバリーを推進し,上記したミッションの一助になることを確信している。

2016年11月
季節外れの大雪の降る茨城県つくばみらい市の自宅マンションにて
髙橋章郎
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目次

Ⅰ 精神科作業療法で身体性を意識する意味
 今,どうして身体的アプローチなのか?
  はじめに
  入院中の精神障害者とは
   二極化する入院患者
   あなたはどこで作業療法していますか?
   高齢化した統合失調症患者
   患者の自由度が増せば肥満度もあがる
   50歳代まではメタボリックシンドローム対策,60歳代からは低栄養対策

Ⅱ 精神科作業療法における運動プログラムの位置付け
 運動の意味
  回復の糸口は生活・活動のなかに
  精神科作業療法プログラム内での位置付け
  作業療法士の独自性とは
  作業活動の特性
   障害はどこにあるのか?
   作業活動内に再現される行動特性
  集団と個別のかかわりのバランス
  リカバリー志向の運動プログラムへ向けて
 人は身体を生きている
  自分の身体への意識
  脳と身体
   脳への注目
   身体への注目
  脳と身体の関係性

Ⅲ 精神疾患と運動,生活
 精神疾患に対する運動の効果
  はじめに
   身体的不活発のリスク
   運動の活用
  運動と健康関連体力の基礎知識
   身体活動と運動
   体力:健康関連体力・運動技能関連体力
   健康関連体力
   運動強度
   運動の種類
  運動の生物・心理・社会的作用
   運動の生理的作用
   運動の心理的効用
   運動の社会的意義
  うつ病と運動
   日本うつ病学会治療ガイドライン
   英国NICE ガイドライン
   コクラン・レビュー
   TREAD 研究
   SEEDS 研究
   病態生理学研究
  統合失調症と運動
   運動関連のエビデンス
   統合失調症の身体症状
   HeAL Japan
   運動実施時の留意点
 コラム「精神疾患に対する運動プログラム:当事者の立場から」

Ⅳ 運動プログラムの実践方法
 運動プログラムの組み立て方
  運動プログラムの目的
  運動,スポーツの種目選択
  運動強度のコントロール
  個別の運動から集団で行う運動へ
  ウォームアップとクールダウン
  休憩,水分補給
 運動導入の可否
  はじめに
  プログラム導入のための検討ポイント
   身体的観点から
   精神的観点から
  当日の運動の可否を検討するポイント
   環境要因
   個人的要因
 プログラム実施前の準備
  カルテ,服薬チェック
   患者の既往歴,運動経験を知っておく
   カルテでプログラム1週間前〜前日の様子を確認 睡眠,不穏,トラブルなど
   服薬チェック
  病棟での様子
   申し送りや病棟ミーティングに参加,そして病棟内を歩いて患者をみる
   ラジオ体操で病棟での様子を観察
 リスク管理
  熱中症
   熱中症の予防
   熱中症が疑われる際の対処
  外傷
   緊急性を要する外傷
   RICE 処置
  応急処置に必要な物品
 施設上の留意点
  道具の準備
   素材の規格
   道具の数
   人の道具化
   創意工夫した道具
  場所の設定
   開放度
   公共施設の活用
   安心で安全な場の設定

Ⅴ 運動プログラムの実際:事例報告
 トレッキングやフットサルによる運動プログラム: 若宮病院(山形県)の場合 
  病院概要
  作業療法部門の紹介
  プログラム紹介
  治療コンセプト
  各運動プログラムの説明
   「エンジョイ系」プログラム
   「チャレンジ系」プログラム
  事例紹介
   一般情報
   作業療法経過
   考察
 ストレッチとウォーキングによる運動プログラム: 近森病院(高知県)の場合
  病院概要
  作業療法部門の紹介
  プログラム紹介
   あたまならし
   からだならし
   こころなら
   ひとならし
   治療プログラム
  運動プログラムの説明
   MS ジム
   登城倶楽部
   ソフトバレー
   ゆるりと体操
   マインドフルネス
  事例報告
   一般情報
   作業療法経過
   考察
 三角ベースボールによる運動プログラム:成増厚生病院(東京都)の場合
  病院概要
  作業療法部門の紹介
  プログラム紹介
   ストレスケア治療専門病棟
   アルコール依存症治療専門病棟
  治療コンセプト
   ストレスケア治療専門病棟
   アルコール依存症治療専門病棟
  運動プログラムの説明
   運動プログラムの概要
   運動プログラムの目的
   運動プログラムの流れ
  事例報告1
   一般情報
   作業療法過程
  事例報告2
   一般情報
   作業療法過程
   考察
 ストレッチとサーキット・トレーニングによる運動プログラム:杏林大学(東京都)の場合
  病院概要
  作業療法部門の紹介
   実施形態
   その他
  プログラム紹介
   職能回復プログラム
   集団活動
   芸術活動
   運動療法
  治療コンセプト
  各運動療法の説明
   ストレッチ
   トレーニング
  事例報告
   一般情報
   作業療法経過
   考察
 うつ病の作業療法プログラム(タンネンホフ病院モデル):桜が丘病院(熊本県)の場合
  病院概要
   「からだ」の治療
   「こころ」の治療
   「環境」の治療
  作業療法部門の紹介
  プログラム紹介
  治療コンセプト
   ドイツのタンネンホフ病院モデルからのアレンジ
   チームで共有したこと
   作業療法のポイント
   治療目標設定
   朝の職患ミーティング
  運動プログラムの説明
   水踏み
   物理療法
   補足
  事例報告
   一般情報
   作業療法経過
   考察
 コラム「精神疾患に対する運動プログラム:当事者の立場から」

Ⅵ 治療構造分析
 運動プログラムの効果
  気分の回復
  体力向上とエネルギー配分の学習
  生活リズムの改善
  非言語的交流
  個人と集団
 各種目の利点
  ストレッチ
  トレーニング
  「歩く」と「走る」
  スポーツ
  対戦
  ゲーム
 各疾患のポイント
  統合失調症
  うつ病
  双極性障害
  摂食障害
  アルコール依存症
  認知症
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