ハイリスクがん患者の化学療法ナビゲーター

すぐに役立つ 合併症があるときの抗がん剤の使い方

改訂第2版

ハイリスクがん患者の化学療法ナビゲーター

■編集 高野 利実
尾崎 由記範

■編集協力 近藤 千紘

定価 4,180円(税込) (本体3,800円+税)
  • A5判  192ページ  2色
  • 2017年10月27日刊行
  • ISBN978-4-7583-1802-0

在庫僅少です。


合併症があっても化学療法ができる。新たな治療,新たなエビデンスを加えた改訂第2版!

がん患者が既往症,合併症をもっている場合は少なくない。しかし,どのように抗がん剤を投与すればよいか明確化されていないことが多く,現場の医師はこのようなハイリスクがん患者に対し,投与量などを調節しながら治療を行っている。
本書は2013年に初版が刊行されたが,その後に適用となった新規薬剤,新規治療法,新たに明らかになったエビデンスを加筆,新規項目を追加した改訂第2版である。最近注目されている免疫チェックポイント阻害薬の使用と,それに伴う有害事象(irAE)についても言及している。
ハイリスクがん患者が多く集まる代表的な市中病院である虎の門病院の医師を中心に,豊富な治療経験をもつ執筆陣により,基礎疾患をもつがん患者の,がんと基礎疾患の両方に対する治療法を解説する。


序文

改訂第2版 序

 がん医療は日々進歩し,多様化しています。
 免疫チェックポイント阻害薬など,新たな作用機序の薬剤も次々と登場し,これまでに経験したことのないような副作用も報告されています。がんのバイオロジーの解明が進むとともに,私たちはこの病気の奥深さと多様性を知り,情報化社会の進化とともに,患者さんの価値観も多様化しています。
 分子レベルから社会レベルまでの様々な側面で「多様化」するがんと向き合うためのキーワードは,「個別化」です。一人ひとりの患者さんの,疾患,病状,合併症,価値観に合わせて最適な医療を追求するのがこれからの医療のあり方ですが,「最適な医療」というのは,従来型の大規模臨床試験から単純に導かれるものではなく,教科書に書いてあるものでもなく,日々の診療現場の中で,患者と医療者が,悩みながら模索しているものです。
 「ハイリスクがん患者(合併症など様々な問題を抱えるがん患者さん)」にがん薬物療法を行うというのは,患者も医療者もギリギリの判断が求められる,特に悩ましい状況です。エビデンスも乏しいですし,普通の教科書に答えは書いてありません。
 『ハイリスクがん患者の化学療法ナビゲーター』と銘打った本書にも,必ずしも,ズバリと答えが書いてあるわけではありませんが,この問題と真正面から向き合った専門家が,悩みの過程を示しながら,各項目を執筆してくれました。唯一の正解はなくとも,患者さんとの話し合いや意思決定に役立つヒントがたくさん書かれています。目標に向かって患者さんと歩む皆様の,道案内役(ナビゲーター)になってくれるはずです。
 2013年に本書の初版を発刊した際には,予想を大きく上回る反響があり,このテーマに対する需要の大きさを知りました。その後,読者の皆様から,「さらにバージョンアップした改訂版を作ってほしい」「免疫チェックポイント阻害薬にも対応してほしい」といった強いご要望をいただき,私たちは,4年間かけて,新しい形を模索してきました。そして完成したのが,この改訂第2版です。
 本書の執筆は,初版と同様,虎の門病院のスタッフを中心に,各領域の最前線の先生方にお願いしました。免疫チェックポイント阻害薬の注意点や副作用対策など,最新の情報も盛り込んでいただき,「かゆいところにも手が届く」内容になっています。最適な医療を実践するためのヒントを得るために,本書をお役立ていただければ幸いです。

2017年10月
虎の門病院臨床腫瘍科 高野利実

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第1版 序

 がんを患う人々が増え,がん薬物療法(抗がん剤や分子標的治療薬など)も進歩して,その件数は着実に増えています。生物学が進歩するほどにがんの多様性が明らかになり,患者さんの価値観も多様化し,そして,開発される新薬もまた多種多様となっています。そんな複雑な時代を紡ぎ上げるためのキーワードは,「個別化」であり,一人ひとりの患者さんに,最適な医療を提供することが求められています。
 この潮流の中,がん薬物療法を専門とする医療従事者(医師,薬剤師,看護師など)の育成が進み,がん診療連携拠点病院や外来化学療法室などの環境整備も進んでいますが,まだまだ社会の需要に応じきれていないというのが現状です。実際,多くの医療従事者が,多様化・複雑化する需要の前で,戸惑っているように思います。
 本書は,そんな戸惑いに満ちた医療現場の助けとなるべく,「かゆいところに手が届く」ことを目指して作られました。合併症などさまざまな問題を抱えるがん患者さん(本書では,「ハイリスクがん患者」と称しています)に対し,どのように治療方針を立て,薬物療法を行っていくのか,というのは,日々の診療で頻繁に遭遇する重要なクリニカルクエスチョンですが,これまで,ここに焦点を当てて書かれた書籍はほとんどありませんでした。
「肝障害や腎障害のある患者さんに抗がん剤を投与するにはどうしたらよいのか?」
「肺線維症があったり,腹水が貯留していたり,感染症を併発している場合は?」
「心疾患や糖尿病で治療中の患者さんに抗がん剤を使うときの注意は?」
「 薬剤過敏の既往がある場合や,薬物相互作用のある薬剤を併用している場合の対応は?」
「高齢者や高度肥満患者への抗がん剤投与量は?」
「妊娠中や透析中でも抗がん剤は使えるのか?」
「抗がん剤を受けたあとに子供がほしいという患者さんにはどう答えたらよいのか?」
「歯科や精神科などとの連携は?」
そういった問いに具体的に答えようとするのが本書です。
 「ハイリスクがん患者」は,臨床試験では不適格となっていることが多く,頼るべきエビデンスに乏しいのが現状です。それでも現場では,数少ないエビデンスと経験をもとに,試行錯誤しながら,取り組んでいかなければなりません。
 本書の執筆は,虎の門病院のスタッフを中心に,各領域の最前線に立つ先生方にお願いしましたが,類のないテーマでしたので,執筆は決して容易ではなかったと想像します。できる限りエビデンスに基づくようにはなっていますが,文章の端々には,執筆者の悩みも垣間見られるはずです。読者の皆様が,判断に迷って本書を手にしたとき,明快な答えを見つけられる場合もあれば,悩みを共有するだけに終わる場合もあるかもしれませんが,いずれの場合も,不確実さを抱える医療と真摯に向き合い,患者さんとともに納得できる判断に至るための一助になるはずです。目の前の患者さんに最善の医療を行うため,本書をお役立ていただければ幸いです。

2013年2月
高野利実
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目次

■01 肝障害時の薬物療法  田辺裕子
I 抗がん剤の用量調整
 アルキル化薬/抗がん性抗生物質/白金製剤/代謝拮抗薬/トポイソメラーゼ阻害薬/微小管阻害薬/分子標的治療薬
II がん種別に比較的頻用される薬剤
 
■02 腎機能障害時の化学療法  村上尚加,陶山浩一
I 抗がん剤の用量調節
 白金製剤/アルキル化薬/抗がん性抗生物質/葉酸代謝拮抗薬/ピリミジン代謝拮抗薬/トポイソメラーゼ阻害薬/タキサン/ビンカアルカロイド/微小管阻害薬/分子標的治療薬
II 抗がん剤投与関連の腎障害
 白金製剤/メトトレキサート/ VEGF 製剤・TKI/免疫チェックポイント阻害薬
 
■03 血液透析中の化学療法  村上尚加,陶山浩一
I 血液透析患者における薬物動態の基本
II 抗がん剤の用量調節各論
 ピリミジン代謝拮抗薬/葉酸代謝拮抗薬/アルキル化薬/抗がん性抗生物質(アントラサイクリン系)/トポイソメラーゼ阻害薬/白金製剤/タキサン/ビンカアルカロイド/分子標的治療薬/抗がんホルモン製剤
 
■04 間質性肺炎合併症例に対する化学療法  宇留賀公紀
I 抗がん剤別の対策
 アルキル化薬/代謝拮抗薬/抗がん性抗生物質/微小管阻害薬/トポイソメラーゼ阻害薬/白金製剤/サイトカイン/分子標的治療薬
II 抗がん剤以外の対策
III 間質性肺炎が急性増悪した場合の治療
 
■05 心疾患合併症例に対する化学療法  小宮山知夏,児玉隆秀
I がん治療関連心機能障害:CTRCD
 アントラサイクリン系抗がん剤〜Type Ⅰ心筋障害型/分子標的治療薬〜Type Ⅱ心機能障害型/CTRCD 早期検出のためのモニタリング指標/化学療法施行における心血管リスクアセスメントの流れ/ TOPICS 免疫チェックポイント阻害薬と心疾患合併症
II 血栓塞栓症と血管内皮障害
 静脈血栓症/血管内皮障害による合併症
III 不整脈:QT時間延長と心房細動を中心として
 QT 時間延長/心房細動
 
■06 消化器障害,腹膜播種,腹水貯留がある症例に対する化学療法  近藤千紘
I 特に注意する薬剤
 イリノテカン/血管新生阻害薬
II 腹水貯留によるリスク
III 腹膜転移における免疫チェックポイント阻害薬
 
■07 感染症合併・免疫不全症例に対する化学療法  木村宗芳,荒岡秀樹
I 発熱性好中球減少症の診断と治療の原則
 FN の診断の原則/ FN で考慮すべき微生物とその特定方法/FN の治療の原則/FN の治療のその他のポイント/ FN に対するG-CSF 製剤の予防的投与
II 予防薬投与の適応となりうる微生物の予防の適応と予防法の実際
 ニューモシスチス肺炎(PCP)の予防/ B 型肝炎ウイルス再活性化の予防/カンジダなどによる深在性真菌感染症予防/単純ヘルペスウイルス感染症の予防/一般細菌感染症の予防/その他
III がん患者と予防接種
IV 予防の適応ではない感染症への対処法
V 感染症の実像をしっかり捉えるためのポイントとその意義
VI 免疫チェックポイント阻害薬と感染症
 
■08 B型肝炎ウイルス(HBV),C型肝炎ウイルス(HCV)感染合併症例に対する化学療法  中島裕理,三浦裕司
I B型肝炎ウイルス(HBV)感染患者
 スクリーニング/ HBV 再活性化予防のための抗ウイルス薬/抗ウイルス薬の投与期間
II C型肝炎ウイルス(HCV)感染患者
III 肝炎ウイルス感染患者に対する免疫チェックポイント阻害薬
 
■09 化学療法と糖尿病・耐糖能異常  石黒喜美子,森 保道
I 副腎皮質(ステロイド)ホルモン
 ステロイドによる耐糖能悪化の機序/ステロイドによる糖尿病発症・耐糖能悪化/ステロイドによる耐糖能悪化時の血糖変動/治療の考え方:インスリン/治療の考え方:経口薬
II インターフェロン
III アンドロゲン抑制治療薬
IV L-アスパラキナーゼ
V 分子標的治療薬
 IGF-1,およびPI3 K/AKT/mTOR 経路の阻害薬/免疫チェックポイント阻害薬/ABL チロシンキナーゼ阻害薬(ABL TKI)
 
■10 自己免疫疾患合併症例に対する化学療法  長谷川詠子
I 各疾患別の悪性腫瘍合併および臓器障害の特徴
 皮膚筋炎・多発筋炎/関節リウマチ/シェーグレン症候群/全身性エリテマトーデス(SLE)/強皮症
II 免疫チェックポイント阻害薬と自己免疫疾患
 各薬剤の特徴/実際に使用した症例
 
■11 内分泌疾患合併症例に対する化学療法   辰島啓太,竹内靖博
I 甲状腺機能異常症(低下症・中毒症)
 甲状腺機能異常症の概略/甲状腺機能と薬剤
II 副腎皮質機能低下症
 副腎皮質機能低下症の概要/注意点
III 下垂体機能低下症
 下垂体機能低下症の概要/担がん患者におけるホルモン補充の注意点/免疫チェックポイント阻害薬の影響
IV 骨粗鬆症
 骨粗鬆症の概要/骨粗鬆症を治療している患者における注意点/骨密度を低下させる薬剤/その他の注意点
 
■12 薬剤過敏  長谷部 忍
I 過敏反応に注意を要する薬剤
 タキサン/白金製剤/代謝拮抗薬/トポイソメラーゼ阻害薬/抗がん性抗生物質/その他の抗がん剤/分子標的治療薬(モノクローナル抗体)/免疫チェックポイント阻害薬
II 過敏症の予防と対策
III アレルギー歴のある患者
 アルコール過敏症/薬剤アレルギー/その他
 
■13 薬物相互作用  大野能之
I 代謝過程における相互作用
II トランスポーターを介した相互作用
III 吸収過程における相互作用
IV 相互作用に注意が必要な抗がん剤の例
 葉酸代謝拮抗薬/ピリミジン代謝拮抗薬/プリン代謝拮抗薬/トポイソメラーゼ阻害薬/タキサン/ビンカアルカロイド/分子標的治療薬/抗がんホルモン製剤/プロテアーゼ阻害薬
 
■14 妊娠中の化学療法  尾崎由記範
I 妊娠中に合併するがん
II 妊娠中の化学療法:総論
 胎盤通過性/妊娠時期と胎児へのリスク/胎児への長期的リスク
III 妊娠中の化学療法:各論
 アントラサイクリン系薬剤(抗がん性抗生物質)/アルキル化薬/タキサン系薬剤/代謝拮抗薬/ビンカアルカロイド/分子標的治療薬
IV 制吐薬・G-CSF製剤
V 胎児モニタリングと分娩
VI 免疫チェックポイント阻害薬
 
■15 妊孕性温存と化学療法  東梅久子,有本貴英
I 化学療法が妊孕性に及ぼす影響
 がん・生殖医療カウンセリング/卵巣機能/造精機能/妊孕性と催奇形性に影響する因子
II 化学療法と妊孕性温存
 対象/方法/インフォームド・コンセント/化学療法開始の遅延/凍結保存配偶子・性腺の使用/化学療法と妊孕性温存の課題
 
■16 高齢者と化学療法  内山美友紀,三浦裕司
I 高齢者の定義
II 高齢による臓器機能の変化
 肝機能/腎機能
III 評価方法
 ComprehensIve GerIatrIc Assessment( CGA)/G8 スクリーニングツール/化学療法毒性予測モデル
IV 高齢者と免疫チェックポイント阻害薬
 
■17 肥満と化学療法  増田 淳,内藤陽一
I 背景
II 抗がん剤投与の原則
 抗がん剤投与量は実体重で計算する/有害事象出現時の対応/投与量の計算
 
■18 歯科治療と化学療法  水谷(吉村)美枝子,杉崎順平
I 化学療法に伴う口腔内の有害事象
 口腔粘膜炎/口腔感染症/味覚障害/口腔乾燥/ニューロパチー/骨吸収抑制薬関連顎骨壊死(ARONJ)
II 化学療法における歯科治療
 虫歯の治療/歯周病の治療/親知らずの抜歯/ARONJ
III 口腔ケアの内容とその意義
 口腔内評価/口腔清掃/含嗽/保湿/疼痛コントロール/特殊治療
IV 医科と歯科の連携,病院と歯科医院との連携による口腔ケアの体制づくり
 医科・歯科の連携/歯科医院との連携/周術期口腔機能管理料の導入
 
■19 精神症状と化学療法  田中容子
I 症状器質性精神疾患の患者に対する化学療法
II 内因性精神疾患の患者に対する化学療法
III 心因性精神疾患の患者に対する化学療法
IV 正常範囲のこころの反応を呈する患者に対する化学療法
V 精神疾患をもつ患者に対するインフォームド・コンセントと同意能力
VI 認知症を有する患者におけるインフォームド・コンセントと同意能力
VII 未成年の患者に関する治療同意能力

case report
 肝障害患者さんに対する化学療法の症例  増田 淳
 腎機能障害を有する症例に対する化学療法  大木遼佑
 透析患者さんに対する化学療法の症例  中島裕理
 免疫チェックポイント阻害薬投与中の下痢・大腸炎の症例  尾崎由記範
 化学療法中に急性B型肝炎を発症した症例  高橋萌々子
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