阪和人工関節センター
TKAマニュアル—Basic Course—

阪和人工関節センター TKAマニュアル—Basic Course—

■著者 格谷 義徳

定価 13,200円(税込) (本体12,000円+税)
  • A4判  154ページ  オールカラー,イラスト100点,写真60点
  • 2019年2月22日刊行
  • ISBN978-4-7583-1867-9

TKAという術式全体のLearning curveを最小にするために,今やるべきこと

近藤 誠先生,新垣 晃先生 絶賛!
「今までの教科書とは違う視点から書かれた,本当のマニュアル本だ。」
近藤 誠先生(貴志川リハビリテーション病院 副院長)
「まさに著者が意図した"TKA for Dummies"と呼ぶにふさわしい内容だ。」
新垣 晃先生(豊見城中央病院 人工関節センター長)
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はじめから手術が上手な医師などいない。技術の上達のためには,症例を重ねる必要がある。しかし「症例を重ねる」ことは,患者にとって厳しい現実を突きつけているともいえる。
本書は,25年以上の執刀医経験をもつ格谷先生が,語りかけるようにTKAの考え方や術式を,その根拠とともに丁寧に解説している。多くの情報があふれる現在,情報の取捨選択のために時間を割くのではなく,「まずはこれだけ」読めばTKAを行うにあたっての最低限の知識を身に付けることができる。そして,本書での最低限の知識は,今後手術を重ねていくうえで選択が可能となるさまざまなTKAの術式にすべて応用できるものである。
増加の一途を辿っているTKAに対し,できるだけ少ない症例で技術を上達させるためにも,これからTKAをはじめる医師や,すでにはじめている医師に是非読んでほしい1冊である。
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本書掲載手術動画は下記となります(Zimmer Biomet社のページで,会員登録が必要です)。
https://www.zimmerbiomet.co.jp/mp/zbt/times/video_library/vanguard_psrp.php


序文

まえがき

 学会で書籍展示を覗いてみると,人工膝関節置換術(total knee arthroplasty;TKA)についての教科書がいくつか出版されています。どれも名のある編者が網羅的に項目を設定し,各章を専門家といわれる多数の著者が分担執筆するという形式です。このような「TKAの専門店街」ともいえる本の問題点は,読み手に問題点を整理し,役に立つ記載を選ぶ判断力がないと助けにはなってくれないということです。そしてこの問題整理能力,判断力こそが,手術の習得を目指す読者層に最も欠如している能力であるという事実は皮肉としかいいようがありません。
 医学関連の教科書には,何年もかけて作られた特有のシステムがあります。出版社から依頼を受けた編者は,多くの知己に執筆機会を分け与える,いわば名誉職で,依頼を受けた執筆者はreviewされないで業績を積み上げることができます。教科書の各章が実質的にpeer review を受けることなく出版されるということは,他章との整合性がチェックされない(私の経験からは編者が各章の内容に口を挟むことはほとんどありません)ことと並んで私には大きな驚きでした。ただ,このようにして出版された教科書が,経験の少ない術者にほとんど役立たないであろうことは容易に想像できます。その意味から,今手術の習得を目指す読者層に必要なのは,「私見」に満ちた,津下先生の『私の手の外科』ならぬ『私のTKA』(僭越な例えであることは承知のうえで)であると考えました。
 TKAの分野には優れた専門家の方が数多くおられます。手術が完結するかのような詳細な術前計画,ミリメートル単位で骨切りを行う最新鋭のナビゲーションなど,手術自体がコンピュータとテクノロジーの急速な発達に支えられ,急速に高度化しています。その一方で手術には,感覚に支えられた奥義といえる部分も重要であることは否定できません。外科的センスのよい,熟練した術者の手術は,簡単そうにみえますが容易にまねできません。本書はそのどちらももち合わせない普通の(私はTKAしかしません(できません)から普通以下かもしれません)整形外科医が,これまた普通のTKA入門者のために書いた本です。わが国ではなぜか(世界的にみてもそうかもしれませんが)このように,著者や読者を冷徹に評価して(書き手は大したことないですが,多くの読者も似たようなものですというスタンスで)書いた本はほとんどありません。あってもあまり売れないかもしれませんが,手術のほとんどが,大多数の一般的凡人整形外科医によって行われるという事実を考えると,このような視点こそが患者さんの利益のために最も必要なものでしょう。ある意味で不愉快なこの本を最後まで読んでいただければ,そのことはわかってもらえると思います。
 なお,本書で述べたことには多くのエビデンスがありますが,あえて文献のリストを作成していません。その理由はまず第一に,公平に最新の文献まで参照するには多大な労力を要し,そんなことをしていたら自分には本書が書けないと判断したからです。二番目は文献の参照自体が一種の技術(アート)であり,自分に都合の良い証拠はいくらでも集められる(と考えた)からです。そして,最後の一番大きな理由は,このエビデンス全盛の時代においてこそ,「私見」にあふれた手術マニュアルの意義があると考えたからです。興味があれば読者御自身で文献をあたっていただきたいと思いますが,その気持ちが沸いてきたころには,たぶん本書は皆さんにとっての役割を終え,不要になっているでしょう。

2019年1月
阪和第二泉北病院 阪和人工関節センター総長
格谷義徳

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本書のコンセプト

 本書には必ずしも正しい主張,事実ばかりが書かれているわけではありません。いきなりの暴言で驚かれたかもしれませんが,その理由はいくつか挙げることができます。
 1つ目は,本書が「正しい」手術を記載することではなく,「TKAという術式全体のlearning curveを最小にする」ことを主眼として書かれているからです。優れた外科的センス(重要な才能ですが,備えている人は限られています)をもち,かつ経験を積んだ術者にとっての「正しい」手術が,経験の少ない術者にとっても正しいとは限りません。誤解を恐れずにいえば,大多数を占める凡人整形外科医が習得を目指すべきは,単純明快(選択肢がないことが重要です,なぜなら判断能力こそが対象読者に一番欠けている部分だからです)で,特別な技能がなくても,安定した成績が得られる術式です。しかしそのような視点から書かれた教科書というのは私が知る限り存在しません。
 2つ目は,私自身がこの狭いTKAの分野においても,すべての最新知識をもっているわけではないことです。人工膝関節置換術には医学はもちろん機械工学,バイオメカニクス,材料学,その他学際的な領域も含めて多くの分野が関係し,各々に優れた専門家がたくさんいます。専門家としてできるだけ多くの知識を吸収しようと日々努力はしていますが,彼らと同じ学問的レベルで常に「正しい」論述をするのは一整形外科医としては困難です。
 最後の理由は,そもそも多くの問題で何が正しいのかがはっきりしないことです。例えば「TKAの良好な成績のためには,正確なアライメントと適切な軟部組織バランスが重要である」という金科玉条的記述に関しても,近年懐疑的なエビデンスが数多く報告されてきました。これは正常膝でも生理的内反といえる集団が存在することや,外側弛緩性があるため,正常膝での屈曲ギャップは長方形でないという事実からみれば当然でしょうが,最近まで注意を引くことはありませんでした。TKAを「正しく」設置することは,成績をさらに向上させるためには重要な研究分野でしょうが,実際の手術に必要なのは「正しさ」の追求ではなく,「誰でも安全に最大限の効果を得る術」を知ることです。
 本書では,私の25年以上の執刀医としての経験を基に,現在若手整形外科医に指導していることをシンプルな論理で解説してみたいと考えました。読者の皆さん(ごく普通の,比較的経験の少ない術者を想定しています)に直接お話しするつもりで書いた,私見に満ちたその名の通りの「阪和人工関節センターTKAマニュアル」です。ですから,皆さんが今までの教科書で読んだ内容とは違うかもしれませんが,ちゃんと読んでもらえれば「その視点から論理的に考えるとそうなるだろう」と納得してもらえると思います。
 TKAは現在,8万件以上が行われる一般的な術式となりました。そして数多くの新しい術者が迷いながら手術を始めています。“Learning curve” という言葉がありますが,実際の手術においてこれは「患者さんを使った練習」にほかならず,手術を受ける立場からは到底容認できるものではありません。その意味から最初に習熟すべきは単純かつ手技的に容易で,安定した成績が得られる術式に限定されるべきであるというのが本書の基本的な考えです。
 現在TKAを指導している私が,最大の目標としているのは,繰り返しになりますが,「TKAという術式全体のlearning curve を最小にすること」です。そしてそれが患者さんにとっても最も重要であることをご理解いただけるなら,あなたのまず知るべきことは,すべて本書に書いてあります。
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目次

手術の前に
 術式選択および機種選択
 術前計画

手術の実際
 手術のセッティング
 皮切および関節の展開
 脛骨の前方脱臼と近位端骨切り
 大腿骨遠位端の骨切り
 大腿骨後顆部の骨切り
 大腿骨・脛骨の仕上げ
 膝蓋骨の置換
 縫合・創閉鎖

手術の合間に
 患者選択・患者さんへの説明
 Mobile bearing(MB)の功罪
 Medial pivot design
 Bi-cruciate stabilized(BCS)について
 アライメントについて: 特にkinematic alignmentについての考え方
 UKAに対する考え方
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