スタンダード小児がん手術

臓器別アプローチと手技のポイント

スタンダード小児がん手術

■編集 田口 智章
黒田 達夫

定価 16,500円(税込) (本体15,000円+税)
  • A4判  324ページ  オールカラー,イラスト450点,写真300点
  • 2017年8月3日刊行
  • ISBN978-4-7583-0465-8

手術の標準化を目指して—わが国初の小児がんの手術書

わが国での小児がんの発症数は年間2,000〜2,500といわれ,小児の病死原因の第1位となっている。小児がんの約40%は白血病で,その他の小児がんが根治治療として手術療法が適応となる固形腫瘍である。小児の固形腫瘍は神経芽腫,腎芽腫,肝芽腫,胚細胞腫瘍,横紋筋肉腫,悪性リンパ腫,骨・軟部腫瘍,中枢神経腫瘍と種類が多く,また現状では手術療法が標準化されていない。
本書は小児がん手術のエキスパートの執筆による,わが国初の小児がんの手術書である。手術手技の解説に加え,手術を安全・確実に完遂するために必要な術前の画像診断や生検法,術後の対応までを網羅した,小児がん手術に携わる外科医必携の書である。


序文

日本初の小児がん手術書「スタンダード小児がん手術」の出版にあたって

 永年の念願がかなって2013年に「スタンダード小児外科手術」をメジカルビュー社から出版することができ,多くの方々に購読いただいています。この本は専門医や指導医を目指す小児外科医・外科医の手術のイメージトレーニングのみならず,小児科・新生児科・産科・泌尿器科・耳鼻科など小児を扱う多くの診療科の医師と小児診療に関わる多くのメディカルスタッフとの情報共有,患者さんへの説明のツール,さらに医学生や看護学生などの教育にも使っていただいているようです。監修,編集,執筆いただいた先生方,企画編集いただいたメジカルビュー社に深謝申し上げます。
 さてこのたび日本にも小児の血液がんと固形がんの臨床研究を束ねる大きな研究グループ「JCCG Japan Children’s Cancer Group」が中川原章先生の発案で,水谷修紀理事長,福澤正洋副理事長のもとに2015年に結成され,その中に「外科療法委員会」(委員長:田口智章,副委員長:黒田達夫)の設置がきまり,すべての小児がんの外科治療を担当することになりました。小児がんとくに固形がんの治療において,外科手術の果たす役割は大きく,近年,小児がんの治療成績が向上してきた理由は,化学療法のプロトコールに合わせて「適切なタイミング」に「適切な手術」を行うようになってきたことがあげられます。このように治療プロトコールにおける手術は「神業」的手術や「神の手」によるスーパースターしかできない手術ではなく,疾患ごとの標準的手術法の確立が大切です。小児がんはいずれも稀少なものが多く個人個人の手術経験が少ないため,手術の標準化というのはかなり難しい課題といえますが,まず手術の標準化ができないと次のステップに進めませんのであえてこの課題に挑戦することにしました。
 そこで,各疾患委員会(神経芽腫委員会,腎腫瘍委員会,肝腫瘍委員会,横紋筋肉腫委員会,ユーイング肉腫委員会,脳腫瘍委員会,胚細胞腫瘍委員会)の外科療法委員会の代表,小児がん拠点病院の外科医代表,内視鏡外科医代表,移植外科医代表によるJCCG外科療法委員会を構成し標準化に向けて活動開始しました。ちょうどそのころメジカルビュー社の鈴木さんから,スタンダード小児外科手術の第2弾の企画の要望がありましたので,これこそ神の啓示と理解し,小児がん手術の標準化を進めるのにいいタイミングとして,スタンダードシリーズの第2弾「スタンダード小児がん手術」の企画をはじめました。JCCG外科療法委員会で議題としてとりあげ何度も検討していただき,各領域のエキスパートをちりばめて今回のコンテンツができあがりました。
 今回の企画では,小児の固形がんは頭部,眼,頸部,胸部,腹部,四肢とひろく分布し,腫瘍の種類も多様なので,できるだけ網羅的に疾患と臓器をカバーし,手術の内容をわかりやすく解説するためにイラストを多くいれていただくようにお願いしました。また,手術のみならず画像診断や局所療法としての放射線治療,さらに術後の処置や管理にも言及する内容にし,この本一冊で小児がんの局所療法について網羅できるように配慮しました。執筆者一同この手術書が小児がんの治療成績向上に寄与できることを願っています。なおこの手術書の出版にあたりJCCGに強力なご支援いただいたアフラック,ゴールドリボンネットワーク,レモネードスタンドジャパン,がんの子どもを守る会,ザレジェンドチャリティープロアマトーナメントの各団体様に深謝します。

2017年6月
JCCG 外科療法委員長 田口智章
同副委員長(胚細胞腫瘍委員長) 黒田達夫
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目次

Ⅰ 術前の検査,処理
術前画像診
 超音波検査(US)/ CT 検査/小児CT検査の診断参考(DRL)レベルについて/ MRI/画像による腫瘍ステージング/核医学検査/RECIST/おわりに
術前化学療法の影響とリスク評価
 小児腫瘍における化学療法と外科治療/リスク要因/術後合併症およびその予防/大量化学療法後の外科治療
3Dプリンターによる手術シミュレーション
 モデル作成/肝臓モデル/まとめ
中心静脈路の確保
 中心静脈路造設方法/中心静脈カテーテル挿入部位/カテーテルの種類,特徴/PICC/実際の手技,注意点/中心静脈路確保における合併症とその対応

Ⅱ 手術のための基礎知識と基本手技
生検手技の基本
 小児固形腫瘍における生検の概要/生検標本のあり方/生検の実際/最後に
四肢骨軟部腫瘍の生検
 生検の適応/生検法/生検における注意点/まとめ
止血法と最新の手術器具
 止血法- 総論- /止血法の実際- 種々の止血法- /最新の手術器具
大出血や周辺臓器損傷の緊急対応
 出血,血管損傷/周辺臓器損傷
胸腔鏡手術と腹腔鏡手術
 セットアップ,デバイスの選択および基本手技/胸腔鏡手術/腹腔鏡手術(副腎腫瘍を想定)
周術期における放射線療法の適応と小児がんに対する陽子線治療の有用性について
 がん治療における外科手術と放射線療法/小児がん治療における外科手術と放射線療法/近年の放射線治療の進歩と陽子線治療/小児やAYA(adolescent and young adult)世代に対する陽子線治療
四肢骨盤骨・軟部腫瘍の切除縁評価
 切除縁評価の意義/切除縁評価の方法/切除縁の概念/切除縁の分類/切除縁評価データに基づく安全な切除縁解析/欧米の切除縁評価との比較/おわりに- 切除縁評価の未来-

Ⅲ 各臓器へのアプローチ法
頸部へのアプローチ
 頸部手術の対象となる疾患と適応/頸部へのアプローチ
縦隔臓器へのアプローチ
 縦隔腫瘍の好発部位/縦隔腫瘍における手術/縦隔腫瘍に対する術式/縦隔腫瘍手術の合併症
四肢へのアプローチ
 切除縁評価・切除計画/再建計画/骨欠損の再建/軟部組織再建/切断・回転形成術/おわりに
肝・胆・膵へのアプローチ
 開腹法/肝門部の脈管の解剖/肝臓を支持する間膜/bear—area /肝静脈の同定と下大静脈靱帯/膵臓へのアプローチ
後腹膜臓器へのアプローチ
 開腹による後腹膜臓器へのアプローチ/側腹部切開による後腹膜臓器へのアプローチ/鏡視下手術による後腹膜臓器へのアプローチ
骨盤臓器へのアプローチ
 理解しておくべき下腹壁の解剖/骨盤へのアプローチ法

Ⅳ 術中の対応,処置
術中照射
 術中照射の生物学的特徴/術中照射の実際/神経芽腫の術中照射/術中体外照射
腹部臓器の放射線治療合併症対策(卵巣移動術と腸管遮蔽手術)
 卵巣移動術と腸管遮蔽手術の適応/卵巣機能温存のための卵巣移動術/腸管遮蔽手術
ナビゲーション手術:体幹
 ナビゲーション手術の実際/われわれのナビゲーション手術の問題点/まとめ
ナビゲーション手術:四肢,脊椎
 脊椎・骨盤腫瘍生検術/悪性骨軟部腫瘍切除術/まとめ

Ⅴ 各小児がんの手術手技
神経芽腫/基本
 概要/ IDRF/初期治療方針/低・中間リスク群/高リスク群/周術期に注意すべき点
神経芽腫/原発部位別
 生検/後縦隔原発腫瘍/副腎原発腫瘍/後腹膜原発腫瘍
腎芽腫
 片側腎臓摘出による腫瘍全摘術/腫瘍生検の適応と術式/腎温存による腫瘍摘出術(nephronsparingsurgery)/転移巣に対する外科治療
肝芽腫/基本
 概説/治療戦略の歴史/外科治療のための画像診断/外科治療戦略
肝芽腫/肝切除―小児肝腫瘍に対する手術の実際
 生検/根治的肝切除(肝移植を除く)
肝芽腫/肺転移―肝芽腫の肺転移に対する病巣切除術
 手術の実際/インドシアニングリーン(ICG)蛍光法/ ICG 蛍光法の実際
肝芽腫/肝芽腫における生体肝移植
 皮膚切開〜肝周囲間膜剥離/肝門操作/短肝静脈処理〜肝全摘/レシピエント肝静脈形成,肝静脈再建/門脈再建/肝動脈再建/胆道再建/閉腹/おわりに
胚細胞腫瘍/基本
 発生/病理学的分類/病期分類/リスク分類/治療の概要/胚細胞腫に対する外科手術の考え方/まとめ
胚細胞腫瘍/性腺腫瘍-性腺胚細胞腫瘍
 小児精巣腫瘍/小児卵巣腫瘍
胚細胞腫瘍/性腺外腫瘍-性腺外胚細胞腫瘍の手術
 縦隔の胚細胞腫切除/新生児胚細胞腫瘍/後腹膜胚細胞腫瘍
横紋筋肉腫/基本
 発生部位・臨床症状/診療のアルゴリズム
横紋筋肉腫/眼窩・頭頸部・傍髄膜
 側頭下窩の解剖/側頭下窩腫瘍切除
横紋筋肉腫/四肢・体幹
 生検後の全摘手術:PRE あるいは化学療法後全摘術の選択/下腿に発生した横紋筋肉腫症例/前腕に発生した横紋筋肉腫症例/複数回再発をきたしている下腿発生横紋筋肉腫症例/in-transit転移
横紋筋肉腫/泌尿生殖器
 膀胱・前立腺/傍精巣
横紋筋肉腫/胸腔内・後腹膜・肝胆道
 後腹膜/胸腔内/肝胆道
横紋筋肉腫/骨盤・会陰・肛門周囲
 会陰,肛門原発腫瘍/会陰/肛門周囲/後腹膜・骨盤部原発腫瘍
悪性リンパ腫瘍(前縦隔悪性リンパ腫生検を含む)
 概要/悪性リンパ腫各病型の好発部位/生検部位による生検適応の判断/生検・手術の実際/生検組織,切除組織の処理
骨軟部腫瘍
 悪性骨軟部腫瘍の切除計画/切除後再建/切除時の神経血管温存/おわりに
中枢神経腫瘍/脳腫瘍
 総論
  胚細胞腫/髄芽腫/上衣腫
 外科治療の基本
  脳腫瘍の外科治療の目的/手術準備/手術法/開頭以外の手術/術後管理と摘出率の評価
中枢神経腫瘍/脳腫瘍:各部位での外科療法
 大脳半球
  術前準備/手術の実際・術中操作/術後管理
 側脳室(モンロー孔部を含む側脳室)
  術前評価/側脳室に発生する腫瘍の手術進入法
 第三脳室前半
  代表疾患とその特徴/術前検査/術中モニター/注意すべき合併症および術後管理/手術アプローチ
 第三脳室後半(松果体部,中脳背側,小脳上面)
  術前評価/手術の実際
 後頭蓋窩(小脳,第四脳室,延髄・橋)
  後頭蓋窩の解剖/術前評価/術中操作/術後管理
中枢神経腫瘍/脊髄腫瘍
 診断/部位別の脊髄腫瘍/治療
網膜芽細胞腫
 網膜芽細胞腫の治療概要/網膜光凝固(レーザー治療)/網膜冷凍凝固/小線源治療/選択的眼動脈注入/硝子体注入/眼球摘出術/義眼床形成手術/眼窩内容除去術/まとめ

Ⅵ 術後の処置・手術
検体の取り扱い,保存
 総論/各論/おわりに
膀胱・尿路の再建(尿路臓器摘出後)
 術前準備/非禁制型尿路変向術/禁制型尿路変向術/新膀胱造設術/結腸導管から禁制型尿路変向,新膀胱へのconversion/膀胱拡大術/術後管理
透析法(腹膜透析・血液透析)
 腹膜透析/血液透析
胸腹壁の再建
 胸壁欠損の場合/腹壁欠損の場合/再建総論/メッシュの種類/有茎皮弁/胸壁再建術/腹壁再建術/合併症/おわりに
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