先天性股関節脱臼の診断と治療

先天性股関節脱臼の診断と治療

■編集 尾﨑 敏文
赤澤 啓史

定価 7,700円(税込) (本体7,000円+税)
  • B5変型判  176ページ  2色,イラスト85点,写真235点
  • 2014年3月18日刊行
  • ISBN978-4-7583-1360-5

先天性股関節脱臼を見逃さない! 進行させない!

先天性股関節脱臼は,見逃がすと治療が難航したり変形性股関節症に進行する恐れがある疾患である。予防啓発の浸透で患者数は減ったが,その分診断経験のある医師が減り,1歳を超え歩行が開始されてから脱臼が発見されるケースが近年増加しつつある。本書では,まず脱臼を見逃さないための診断技術と,早期発見症例に対する保存療法を解説し,症状が進行した症例に対する手術療法については,年齢別に適応を記し詳述している。
先天性股関節脱臼のすべてを網羅した集大成としての1冊である。


序文

 先天性股関節脱臼は整形外科医にとって,以前は一般的な疾患であった。日本では昭和40年代以前は発生率1〜2%で患者数は極めて頻度が高かったが,昭和50年代以後は予防活動などにより発生率が約10分の1に減少したと考えられる。さらに最近の少子化もあって全国的に患者数が大幅に減少している。このため先天性股関節脱臼はすでに過去の疾患であると認識している整形外科医も多い。しかし本疾患は依然として重要な整形外科疾患であり,整形外科診療を行っていると,遭遇する機会は常にある。見逃してはいけない,そして対応の遅延は避けなければならない。
 近年,健診や医療機関への受診にもかかわらず,歩行開始後に診断される遅発見例が増加していると耳にする。また誤った初期治療により,難治化した症例も散見される。これらの原因は先天性股関節脱臼の患者減少による健診体制の変化,一般整形外科医の関心度の低下,小児整形外科専門病院などへの集中化による治療の担い手の偏り,そしてそれに基づく多くの整形外科医の診断・治療能力の低下などが基盤にあると推察される。
 岡山大学整形外科では第二代教授の田辺剛造先生が先天性股関節脱臼治療に力を入れられてこられ,また,小児整形外科の教育も重要視されてきたこともあり,今回,先天性股関節脱臼に焦点を合わせた書籍の出版を企画した。本書の中には,多くの先人たちの素晴らしい業績,そしてそれに加えて近年の知見などを組み込むことにより,基礎から臨床まで先天性股関節脱臼全体の知見を網羅し,この本を読んでいただければ先天性股関節脱臼に関して,わが国での今までの仕事の積み上げと現状を理解して頂けるように構成した。
 本書の編集にあたっては,旭川荘療育・医療センターより赤澤啓史氏,岡山大学より遠藤裕介氏が実務を担当し,全国の先天性股関節脱臼症例を中心となって診察されている先生方にご協力を頂いた。この場を借りて御礼を申し上げます。
 本書籍の出版により,先天性股関節脱臼に対する知識を整理していただくとともに,対応の遅れなどが撲滅できることを祈っている。

2014年3月
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科
整形外科学教室教授
尾﨑 敏文
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目次

Ⅰ 先天性股関節脱臼の基礎
先天性股関節脱臼治療の変遷 青木 清
 歴史的人物とアート
  Hippocrates(紀元前460 年頃〜紀元前370 年頃)
  Ambroise Paré(1510? 〜 1590 年)
  Nicolas Andry(1658 〜 1742 年)
  Guillaume Dupuytren(1777 〜 1835 年)
  Charles-Gabriel Pravaz(1791 〜 1853 年)
  Marino Ortolani( 1904 〜 1987 年)
 先天性股関節脱臼の近代史
 日本における新生児健診の普及
 再教育の必要性
 病名の変遷- CDH からDDH へ-
 今後の展望

股関節の発生と発育  西田圭一郎
 骨の発生と形成
 股関節腔の形成

疫学 金 郁喆
 先天性股関節脱臼の発生率
 近年の先天性股関節脱臼の背景因子
 先天性股関節脱臼の発生因子
 先天性股関節脱臼の関連遺伝子

Ⅱ 診断
診断・理学所見のとり方 和田郁雄ほか
 問診
 新生児・乳児期にみられる理学所見
  開排制限
  大腿皮膚溝の非対称
  Allis 徴候(Allis’ sign)
  Ortolani のクリックテスト(Ortolani’s sign)
  Barlow テスト(Barlow’s test)(脱臼誘発テスト)
  telescoping 徴候(ピストン運動現象・Dupuytren 徴候)
  触診による骨頭位(脱臼や亜脱臼位)の評価
  その他
 幼児期(歩行開始期以降)にみられる臨床所見
  跛行
  立位姿勢

画像診断  皆川 寛ほか
 画像所見
 単純X線
 超音波検査
 関節造影
 CT
 MRI

コラム①スリング

Ⅲ 保存療法
保存療法の変遷 服部 義
 先天性股関節脱臼の保存療法の夜明け
 Lorenz 法
 Lorenz 法の反省とリーメンビューゲル法
 その他の保存的整復法
  overhead traction 法
  その他の方法
 日本における保存療法の歴史
  保存療法の夜明け
  自然整復の報告
  Rb 法の導入
  overhead traction 法
  徒手整復ギプス固定法

リーメンビューゲル(Rb)法  伊藤錦哉ほか
 Rb 法について
 Rb 治療の実際
  Rb 法の適応
  装着法
  装着後の管理
 Rb 治療成績
 より安全な治療を目指して

overhead traction 法 服部 義
 OHT 法の歴史
 名古屋大学医学部整形外科学教室におけるOHT 法の変遷
  1962 年〜
  1975 年〜
  1987 年〜
  1998 年〜現在
 OHT 法の適応
  Rb 法不成功例
  遅診断例
 現在行っているOHT 法の実際
  第1 段階:水平牽引4 週間
  第2 段階:垂直外転牽引1 週間
  第3 段階:開排位膝上牽引1 週間
 全身麻酔による関節造影ギプス固定
 後療法
 OHT 法の成績

牽引による整復̶開排位持続牽引整復法̶ 尾木祐子ほか
 FACT の実際
  第1 段階:水平牽引
  第2 段階:開排牽引
  第3 段階:骨頭進入過程
  第4 段階:ギプス固定
  第5 段階:安定化
 治療成績

コラム②手術道具

Ⅳ 手術療法
手術療法の変遷  青木 清
 観血的整復術の近代史
 整復障害因子
  腸腰筋
  短外旋筋群,内転筋
  関節包
  大腿骨頭靱帯,pulvinar
  関節唇
  寛骨臼横靱帯

年齢からみた観血的整復の適応と考え方 赤澤啓史
 1 歳未満
 1 〜 3 歳
 3 〜 5 歳
 5 〜 6 歳以上

◆各観血的整復術の適応と基本的な手技

Ludloff 法 若林健二郎ほか
 概要
 適応
 手術法
  体位
  皮切
  展開
  腸腰筋切離
  関節包の処置
  関節内処置
  整復
 術後の固定,後療法

前方法 薩摩眞一
 手術適応(病態と年齢)
 手術手技
  手術体位
  皮切
  関節包に至るまでの展開
  関節包の展開
  関節内操作
  整復および関節包の縫縮
 後療法

広範囲展開法(田辺法)①ー基本的な考え方ー 遠藤裕介ほか
 広範囲展開法(田辺法)の年齢的適応と考え方
 手術手技
 皮切
 アプローチの実際
 田辺法術後のギプス固定について
 トラブルシューティング
  大腿骨頭が臼内に入らず後上方に引っ張られる場合
  術中造影で求心位が得られていない場合
  介在物が存在しないにもかかわらず整復の安定性が悪い場合

広範囲展開法(田辺法)②ー応用ー 赤澤啓史

広範囲展開法(田辺法)③ー問題点ー 遠藤裕介
 変形性関節症
 術後の外旋制限

高年齢発見の症例に対する手術ー症例呈示と手技のコツー 西須 孝
 手術適応の年齢と術式
 術式
 症例

◆遺残性亜脱臼に対する手術

遺残性亜脱臼とは 赤澤啓史
 定義と評価
 治療の適応と方法

乳児期以降の遺残性亜脱臼に対する手術①
Salter 骨盤骨切り術 薩摩眞一
 背景
 手術適応
 介在物の有無と関節内操作の併用
 手術手技
  体位
  皮切
  展開
  骨盤骨切り
  遠位骨片の移動
  移植骨片の挿入と固定
  閉創とギプス固定

乳児期以降の遺残性亜脱臼に対する手術②
Pemberton 骨盤骨切り術 和田晃房
 適応
 手術手技
  体位
  皮切
  展開
  骨切り手技

乳児期以降の遺残性亜脱臼に対する手術③
骨盤骨切り+大腿骨骨切り術 和田晃房
 適応
 大腿骨頭にPerthes 病様変形をきたした症例
 関節弛緩が著しく早期に亜脱臼の進行した症例
 症例

思春期以降の遺残性亜脱臼に対する手術①
triple osteotomy 二見 徹
 適応
 手術手技
  準備と体位
  坐骨骨切り
  恥骨骨切り
  腸骨骨切りと臼蓋の移動
  後療法

思春期以降の遺残性亜脱臼に対する手術②
Sakalouski 骨盤骨切り術 西須 孝
 本術式の特徴と適応
 手術手技
  体位
  皮切
  坐骨の骨切り
  恥骨の骨切り
  腸骨の骨切り
  骨片の回転と固定
 後療法
 症例

思春期以降の遺残性亜脱臼に対する手術③
寛骨臼骨切り+大腿骨骨切り併用手術 遠藤裕介ほか
 手術の適応
 手術手技とポイント
 症例
 本術式の問題点
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