頭頚部・体幹のスポーツ外傷

頭頚部・体幹のスポーツ外傷

■編集 永廣 信治
西良 浩一

定価 8,250円(税込) (本体7,500円+税)
  • B5変型判  212ページ  オールカラー,イラスト80点,写真120点
  • 2017年9月28日刊行
  • ISBN978-4-7583-1578-4

在庫僅少です。


脳神経外科・整形外科のスポーツスペシャリストが診る頭・首・腰

部活動やレクリエーション,レジャー,プロスポーツなどわれわれがスポーツに接する機会は多く,そこで起こる頭頚部・体幹の外傷は重症化を許せば生命予後を左右しうる。元の競技レベルでスポーツに復帰することは患者の望みであり,そのためには初期診療を含めた適切な診断と治療法の選択,復帰のための指導が欠かせない。
本書では脳神経外科・整形外科の双方の視点から,スポーツ外傷発生の瞬間から現場ではどうすべきか,どのような検査を行い,保存あるいは手術の判断を下すか,いかなる復帰スケジュールを組むか,あるいは引退を促すか,といった治療の流れをスペシャリストの知見で以て詳説する。


序文

 スポーツは,世界の人々の心身の健康や友好発展に貢献する活動の1 つとして世界中に広まり,日本においても東京オリンピック開催が予定され,スポーツに対する社会の関心と期待が高まっている。スポーツはトップアスリートだけでなく老若男女すべての人々が親しむ文化や生活習慣として発展し,スポーツがもたらす効用を上げればきりがないほど多数あるが,一方でスポーツにおいては,さまざまな外傷や障害が偶発的あるいは誤った練習や指導などで必然的に発生する。スポーツによる身体の損傷頻度としては,四肢の筋肉,骨,関節などの外傷や慢性損傷が圧倒的に多いが,命にかかわるような重大な事故も起こりうる。生命や生活にかかわる重大な事故をきたす可能性は,頭部,頚部や腰部を含む体幹の外傷で多い。日本の学校スポーツにおけるスポーツ振興センターの調査によると,スポーツに関連した重大事故のうち,受傷の原因と部位が明らかとなった事故で最も多いのは頭部外傷であり,2番目が脊椎外傷とされている。
 本書は,重大事故や損傷となりうる頭頚部・体幹のスポーツ外傷に焦点を当て,スポーツ関連外傷を取り扱う脳神経外科医や整形外科医,脊椎外科医などの専門家に分担執筆をいただいたが,これまでこのような観点から構成されたスポーツ医学書は少ない。本書は,頭部,頚部,腰部におけるスポーツ外傷の特徴や現況を概説した総論と各部位の主な外傷や損傷について症例を挙げて解説した各論から構成されている。各論においては,各スポーツの特性に応じた解説も含まれ,幅広く基本的な事項ときわめて専門的な内容の両方を含んでいる。2020年の東京オリンピック開催を控え,スポーツによる重大事故対策は大変重要かつ急務の対応課題とも思われ,多くのスポーツドクターやチームドクターおよび関連の医療スタッフにとって有用な参考書となるであろう。
 スポーツ頭部外傷においては,頭蓋骨骨折や頭蓋内血腫,脳挫傷などさまざまな外傷が起こりうるが,重大な事故で最も多いのは急性硬膜下血腫である。スポーツによる急性硬膜下血腫は,柔道やラグビーなどのコンタクトスポーツにおける頭部の回転加速度損傷による架橋静脈断裂によって発生し,発症直後の脳損傷は少ないものの,急速に血腫が形成され頭蓋内圧亢進によって脳を圧迫し重篤となる。従って治療が遅れると手術を行っても死亡や重大な後遺症となりやすいので,一刻を争う対応が必要である。どのようなスポーツのどの場面で急性硬膜下血腫が発生し,発生後にどう対応するとよいのかなど,予防対策も含めてスポーツ医学の進歩によって,少しずつスポーツによる急性硬膜下血腫の実態が明らかとなってきた。またスポーツ関連脳振盪に関しては,軽症ではあるが発生頻度が高く,繰り返し損傷による重大事故の発生や慢性脳損傷への懸念などもあり,国際的にも注目されている。スポーツ関連脳振盪の定義や意義,危険因子や評価法,スポーツへの復帰基準などに関しては,オリンピックの年に開催される国際スポーツ脳振盪会議において専門家により検討され,そのたびに新しい提言が出され国際的な基準として広く認知されてきた。本書でもその内容について一部を紹介している。
 スポーツ頭部外傷の最近の話題の1 つに,慢性外傷性脳症がある。米国ではアメリカンフットボールのプロ選手が,競技引退後に慢性外傷性脳症とよばれる認知症になることが臨床病理学的研究で報告され,選手たちの訴訟問題に発展し,『Concussion』という映画も公開されるなど,社会問題となっている。いまだ慢性外傷性脳症の本態には不明な点も多いものの,スポーツ愛好者の低年齢化や高齢化が進むなかで,脳振盪を含む軽症の頭部外傷の繰り返しや,慢性外傷性脳症の存在などにも注意を向けていく必要がある。
 スポーツ関連脊椎外傷は,四肢麻痺や重度の運動障害を残す可能性があり,その予防と治療も大変重要な問題である。ラグビー,アメリカンフットボールや柔道などのコンタクトスポーツ,スノーボードや体操などの回転競技では,脳振盪や急性硬膜下血腫発生の危険と同時にさまざまな脊椎外傷が発生する可能性がある。脊椎外傷が起こりやすい状況が明らかになれば,ルールの変更や体幹の筋力強化などにより,損傷を予防できる可能性があり,各競技の特性と発生機序を医学的見地から理解し,競技団体への提言なども必要であろう。
 本書によって,スポーツ関連外傷を取り扱う多くの医師や医療関係者の頭部や頚部,体幹のスポーツ外傷に対する理解が深まり,スポーツによる重大な事故の減少につながることを願っている。

2017年8月
徳島大学病院長
永廣信治

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 この度,『頭頚部・体幹のスポーツ外傷』を上梓させていただきました。共同編集者の永廣信治徳島大学病院長(徳島大学脳神経外科前教授)はスポーツと頭部外傷の領域では大変ご高名な先生であり,共同で本書の編集に携われたこと,光栄に存じます。
 さて本書は,頭部,頚部,体幹に焦点を当てており,脳神経外科医と整形外科医共同で執筆した教科書です。現在,多くのスポーツ外傷・スポーツ障害の教科書が販売されておりますが,それらの多くは,整形外科スポーツ単独のものでした。実際のスポーツ現場では頚部や体幹の外傷と頭部外傷が合併することは,珍しくありません。従いまして,整形外科スポーツドクターも頭部外傷の知識をもっておく必要があります。
 私は,頚部と体幹の編集を担当させていただきました。頚部および腰部の総説に続き,各論では頚椎・頚髄損傷などの外傷から,スポーツ活動に伴うminor traumaの集積で生ずる疲労骨折や過労性障害にもスポットを当てました。そしてスポーツ種目特有の外傷・障害として,ラグビー,水泳,ウィンタースポーツを取り上げました。
 私を含め12名で執筆しております。ご依頼した先生方は,いずれもスポーツ医学に造詣の深い方々であり,非常に濃厚な内容となりました。整形外科医にとり大変重要な頚部・体幹のスポーツ外傷・障害の最新の情報に加え,頭部外傷のstate of the art。フィールドで活躍するスポーツドクターにとってバイブルとなりうる新しいかたちの教科書となると確信しております。
 最後になりましたが,東京五輪を控えたこの年に,徳島大学医学部の脳神経外科スポーツドクターと整形外科スポーツドクターで,このような非常にユニークな教科書を編集,上梓できたこと大変喜ばしく存じます。徳島大学病院では,永廣病院長がセンター長となりスポーツ医科学センターが立ち上がります。私も副センター長として参画致す予定です。本書を機会に,徳島大学がますますスポーツ医学に貢献できるよう決意を新たに致しております。そして,本書がスポーツドクターのみならず,スポーツ医学にかかわるすべての関係者に対し,有意義な座右の書となることを期待しております。

2017年8月
徳島大学大医学院医歯薬学研究部運動機能外科学教授
西良浩一
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目次

Ⅰ スポーツ外傷
 スポーツの頭部外傷    荻野雅宏
 スポーツの頚部外傷    山崎正志
 スポーツの腰部外傷と障害    西良浩一
 
Ⅱ 頭部外傷
 急性硬膜下血腫    川又達朗
 急性硬膜外血腫    前田 剛
 頭蓋骨骨折    中山晴雄
 脳内血腫・脳挫傷    末廣栄一,ほか
 脳振盪    川村大地
 慢性外傷性脳症    成相 直
 スポーツによる顔面外傷および眼窩吹き抜け骨折    重森 裕
 小児のスポーツ頭部外傷    荒木 尚
 柔道の競技特性と頭部外傷    溝渕佳史
 ラグビーの競技特性と頭部外傷    佐藤晴彦
 ウィンタースポーツと頭部外傷    福田 修
 ボクシングの競技特性と頭部外傷    野地雅人
 
Ⅲ 頚部外傷
 頚椎・頚髄損傷    前田 健
 頚椎椎間板ヘルニア    中川幸洋
 頚椎捻挫    金岡恒治
 Burner症候群(stingers)    藤谷博人
 ラグビーの競技特性と頚部外傷    坂根正孝
 
Ⅳ 腰部外傷
 腰椎椎間板ヘルニア    山田清貴,ほか
 腰椎分離症    酒井紀典
 発育期骨端輪損傷(後方終板障害)    大鳥精司,ほか
 水泳と腰部障害    半谷美夏,ほか
 ウィンタースポーツと腰部障害    寺島嘉紀
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