脊髄損傷に対するPT・OTアプローチ

臨床経過モデルに基づく介入

脊髄損傷に対するPT・OTアプローチ

■編集 藤縄 光留

定価 5,720円(税込) (本体5,200円+税)
  • B5判  324ページ  2色,イラスト150点,写真100点
  • 2022年9月29日刊行
  • ISBN978-4-7583-2084-9

機能の残存パターンごとに脊髄損傷へのアプローチを解説!臨床経過をオリジナルフローチャートで整理しよう!

PT/OTとして脊髄損傷にどう関わるか,どの時期に何をすればいいのかを実臨床に即して解説。
基礎知識編では,機能の残存パターンごとに完全麻痺/不全麻痺/対麻痺とその急性期/回復期,および中心性頸髄損傷という項目立てにより臨床現場で必要な知識を理解でき,また障害別介入法編では「全体の流れ」がフローチャートで示され,PT対象の「基本動作」とOT向けの「ADL」をセットで掲載されているので,どの時期に何をすればいいのかがひと目でわかる。


序文

 脊髄障害は,大きく完全麻痺と不全麻痺に区別される。特に完全麻痺においては,基本動作パターンやADLが健常者とは大きく異なり,その特有の動作をイメージし指導・介入することが必要であり,新人・若手は対応に苦慮する。
 臨床で必要とされる能力とは,リハビリテーションの知識や技術であることはもちろん,入院から退院後までを見渡せる臨床経過(ケースに合わせて,いつ何に介入しなければならないか,どう進めていくかなど)が頭のなかに入っていることでもある。この臨床経過については各施設でクリニカルパス(診療計画表)が考案されており,他部門との関連を含めて活用されている(本書「第1章4 診療計画書(クリニカルパス)概論」参照)。しかし大抵は文字の羅列であることが多く,一目ではわかりづらい。
 そこで本書の第2章には,基本動作やADLの関連性を含めた臨床の流れを,写真とともに臨床経過モデル図として示し,リハビリテーションの全体を一目で把握できるようにした。これは各施設のスペシャリスト達が各自の臨床経験を基に作成しており,モデル図中に記載されたページを開けば各場面における詳細な解説を読むことができる。これが本書最大の特徴であり,副題である『臨床経過モデルに基づく介入』の由来である。担当しているケースが臨床経過のどの時期にいるのかを推定して,今後どのように進めるのかを示す道標になることを願う。
 ただし本モデル図は,脊髄障害者を障害時期(急性期あるいは回復期)と,障害像別(C6BⅡレベルの完全四肢麻痺者,胸髄損傷以下の完全麻痺者,不全四肢麻痺者,中心性頸髄損傷者)に分けて示した,あくまでも理想的な臨床経過図である。各時期にはめざす動作や目安として行い始めるADLを示し,それぞれ次の場面と重複して進められることもある。脊髄障害者は多種多様な臨床像を示すことから,紙面上に1つの経過としてまとめることは困難である。また,各施設のリハビリテーションに対する考え方にも影響を受ける。ここで示している内容は,若手セラピストが臨床経過をイメージしやすいように想定したものであり,あくまでも理想であることを忘れないでいただきたい。臨床ではこれを基に臨機応変に対応する必要があることを念頭に置き,活用するべきである。PTは基本動作介入に,OTはADL介入にと分けて考えることがあるが,本書には職種にこだわることなく,基本動作やADLとの関連性をみて介入してほしいという思いを込めている。PTであればADLを見据えて必要な基本動作や身体運動能力への介入を,OTであればADLに必要な基本動作や身体運動機能が何であるかについても考えながら介入してほしい。その他にも,第1章に脊髄損傷の基礎知識をまとめ,第3章には呼吸器合併症や排尿・排便障害などさまざまな状況における知識・対応についてまとめている。本書がこれから脊髄損傷者に携わるセラピストの一助になり,少しでも脊髄損傷者の社会参加を後押しできれば幸いである。

2022年8月
神奈川リハビリテーション病院
藤縄光留
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目次

第1章 脊髄損傷の基礎知識
 1  脊髄損傷の病態や障害像  [吉川憲一]
  脊髄損傷の病態
  脊髄損傷の原因
  一次損傷と二次損傷
  脊髄損傷の疫学
  脊髄の神経伝導路と損傷型
 2  脊髄損傷における特異的な検査測定  [長谷川隆史]
  概要
  ISNCSCI
  Frankel分類
  改良Frankel分類
  Zancolli分類
 3  予後予測  [古関一則]
  脊髄損傷後の機能回復予測
  完全麻痺者における予後予測
  不全麻痺者における予後予測
 4  診療計画表(クリニカルパス)
 A 概論  [出田良輔]
  概要
  医療者用クリニカルパス
 B 完全四肢麻痺  [村井 聖]
  頸髄損傷完全麻痺(ASIA motor level=C6)
 C 完全対麻痺  [植村 愛]
  胸腰髄損傷完全麻痺(ASIA motor level=T1-T6)
 D 不全麻痺
  概要
  受傷後経過期間・麻痺(筋力)回復・ADL回復の3Dイメージ図
  不全四肢麻痺のクリニカルパス紹介
  動作練習の段階付け
  リハビリテーション・パスモデルの修正進行

第2 章 障害像別 臨床経過と基本動作・ADL介入
 1  総論  [藤縄光留]
  完全麻痺と不全麻痺の介入について
  歩行介入の進め方(ロボットを含む機器導入と基本動作など既存介入の棲み分け)
 2  急性期の介入
 A 完全麻痺  [古賀隆一郎,本多佑也,岩橋謙次]
  【臨床経過モデル図】
  【身体機能】
  概論:入院~リハビリテーション介入まで
  ベッドサイドリハビリテーション
  身体機能へのアプローチ
  【ADL】
  ベッドサイドの環境設定
  出棟リハビリテーション
  ADL練習
 B 不全麻痺   [山本昌明,京谷政昭]
  【臨床経過モデル図】
  【身体機能(床上での離床ポイント)】
  はじめに
  急性期リハビリテーションの注意点
  離床のフローチャート
  離床開始前の情報収集
  離床開始
  胸腰椎損傷に対するリハビリテーションの注意点
  【ADL】
  ADLを見据えた介入
  概要とポイント
  食事
  QOL(コミュニケーション)
  スマートフォン・タブレット操作
 3  回復期の介入
 A 完全四肢麻痺  [藤縄光留,浅沼 満,一木愛子]
  【臨床経過モデル図】
  【基本動作】
  リクライニング車いす乗車-車いす上でできる動作練習
  標準型車いす乗車/駆動
  車いす上での姿勢変換・除圧動作練習
  寝返り
  長座位姿勢変換(バランス)・起き上がり動作
  長座位プッシュアップ
  長座位移動
  複合運動:前方(後方)移乗
  端座位バランス/プッシュアップ/側方移動練習
  側方移乗練習
 ADL
  食事動作
  書字・スマホ・整容動作
  ベッド上での寝返り・起き上がり
  更衣動作:上衣
  更衣動作:下衣
  更衣動作:靴・靴下
  排尿動作
  ベッドへの移乗動作
  排便動作
  自動車関連動作
  入浴動作
 B 完全対麻痺  [澤田あい,浅井直樹,高橋大樹]
  【臨床経過モデル図】
  【基本動作】
  標準型車いす,乗車,駆動
  寝返り
  長座位バランス,起き上がり
  プッシュアップ(長座位)
  床上移動
  移乗介助(トランスファーボード利用)
  端座位バランス
  端座位でのプッシュアップ・側方移動
  側方移乗
  床-車いす間移乗
  車いす応用操作
  立位,歩行
  【AD】
  寝返り動作
  起き上がり動作
  ベッドへの移乗動作
  更衣動作
  排尿動作(自己導尿)
  排便動作
  入浴動作
  自動車運転
  生活関連動作(調理)
 C 不全麻痺  [藤縄光留,松本琢磨]
  【臨床経過モデル図】
  【基本動作】
  概要
  改良Frankel分類C1期
  改良Frankel分類C2期(背臥位で膝を立てることができる)
  改良Frankel分類D1期
  改良Frankel分類D2期
  【ADL】
  概要
  排泄
  入浴
 D 中心性頸髄損傷(上肢機能)  [對間泰雄]
  【臨床経過モデル図】
  【上肢機能】
  介入概念
  ポジショニング
  抗重力への準備(上肢の関節可動域訓練と運動学習)
  各種機能的電気刺激(FES)
  各種装具療法
  支持機能
  肩・肘・手指の複合動作
  把握・つまみ・巧緻動作
  上肢機能と立位活動
  上肢機能の自己管理
  【ADL】
  介入概念
  ベッド上動作
  起居動作
  移乗動作
  食事動作
  下衣動作
  上衣動作
  排尿動作
  排便動作
  入浴動作
  IADLでの上肢機能
 
第3章 脊髄損傷者に必要な対応
 1  呼吸障害と呼吸器合併症  [須堯敦史]
  脊髄損傷者の呼吸障害の特徴
  受傷後急性期の呼吸状態
  呼吸器合併症
  呼吸に不利な身体状況と対処
  呼吸障害に対するリハビリテーション介入
  高位頸髄損傷者に対する人工呼吸器管理
  人工呼吸器離脱のためのアプローチ
 2  排尿,排便障害  [野上雅子]
  排尿障害
  排便障害
  脊髄損傷者の排泄支援におけるセラピストの役割
 3  起立性低血圧  [那須田依子]
  概要
  自律神経障害と機能解剖
  起立性低血圧への臨床的対応と考え方
 D 中心性頸髄損傷(上肢機能)  [對間泰雄]
 4  褥瘡  [森田智之]
  脊髄障害者に発生する褥瘡の特徴
  褥瘡の知識
  褥瘡発生予防策
 5  痙縮  [愛知 諒]
  概要
  評価方法
  治療法
  痙性麻痺に対する介入事例紹介
 6  高齢者  [有地祐人]
  受傷年齢の高齢化による疫学的な変化
  脊髄損傷者の平均余命の延伸
  高齢脊髄損傷者の麻痺型と高位の特徴
  高齢脊髄損傷者へのリハビリテーションの展開
  年齢の違いによる頸髄損傷運動 完全麻痺者のADL自立度について
  脊髄損傷者の加齢に伴うさまざまな問題
  高齢脊髄損傷者の予後
 7  脊髄損傷後疼痛としびれ  [佐藤剛介]
  概要
  脊髄損傷後疼痛の分類
  脊髄損傷後疼痛の疫学
  脊髄損傷後の神経障害性疼痛の発生機序
  脊髄損傷後疼痛の評価
  脊髄損傷後疼痛への介入
 8  車いす,クッションの選択  [延本尚也]
  概要
  車いす
  クッション
  まとめ
 9  ADL自助具・福祉用具  [廣田祐樹]
  概要
  食事・整容の自助具・福祉用具
  更衣のADL自助具・福祉用具
  排泄・入浴のADL自助具・福祉用具
 10 歩行補装具  [江口雅之]
  歩行補装具の概要
  補装具の目的
  完全麻痺者の適応下肢装具
  装具の特徴
  長下肢装具を用いた歩行再建へのアプローチ(不全運動麻痺)
  下肢機能の評価と膝継手の選択
  短下肢装具を用いたアプローチ
  歩行補助具と機器
  歩行補助具を選択する場合の注意
 11  ロボティクスアプローチ  [鳥山貴大]
  ロボティクスアプローチの概要
  HALⓇ
  ReWalkTM
  今後の展望・課題
 12  住宅改修  [江原喜人]
  住宅改修の概要
  出入口の改修ポイント
  トイレの改修ポイント
  浴室の改修ポイント
  住宅改修支援時の注意点やポイント
 13  在宅期リハの現状や課題,支援の実際  [川村享平]
  概要
  在宅期におけるリハビリテーション支援
  当事業所での支援
  当事業所における外出や交流の支援
  今後の展望・課題
 14  高位完全四肢麻痺者(C4)の在宅生活  [藤縄道子]
  概要
  症例紹介
  住宅改修・福祉用具の紹介
  補装具の紹介
  利用しているサービスの紹介
 15 介助指導  [平田 学]
  概要
  安全な介助法習得に向けて―介助指導のための確認事項
  生活場面における移動・移乗介助とは
 16  社会環境訓練  [松本琢麿]
  概要
  基礎体力
  移動能力
  コミュニケーション力
  情報収集
  金銭管理
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