補体への招待

補体への招待

■編集 大井 洋之
木下 タロウ
松下 操

定価 4,950円(税込) (本体4,500円+税)
  • B5判  232ページ  
  • 2011年4月21日刊行
  • ISBN978-4-7583-0038-4

補体学の最新知見を網羅した待望の“成書”。さまざまな領域で必要とされる「補体の知識と未知なる魅力」を探して,補体の扉を開けてみよう!

補体は生体防御を担う自然免疫として存在し,外界からの微生物などの侵入に対し敏感に反応しているが,様々な要因により生体に不利に働き疾患に関与してしまうこともある。その意味で,補体などの生体防御機構は両刃の剣である。
本書では,近年の補体研究の進展により得られた新たな知見を加味した補体の知識を,基礎編と臨床編の2部構成で提供している。とりわけ臨床編では,補体異常の評価法から始まり,2001年に診断と治療の考え方のガイドラインができ,新しい治療薬も登場した「HAE(遺伝性血管性浮腫)」や「夜間発作性ヘモグロビン尿症(PNH)」などの補体成分欠損が関与する疾患を含め,IgA腎症,膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN),溶血性尿毒症症候群(HUS)や,血液透析,虚血性疾患,加齢黄斑変性,SLEなど,幅広く関連する疾患や病態を取り上げている。
本文以外に,掲載に関連したアレルギーや免疫の情報をコンパクトにまとめた「Side-memo」が内容を補完している。


序文

 この本の序文を書くに至ったことを大変うれしく思います。また出版にあたり多大な御協力を得たことに編集者として改めて感謝申し上げます。
 補体学に携わってきた人は,補体の魅力をもっと多くの人に伝えたい願望をもたれていると思います。しかし,わが国では補体に興味をもつ人が少ないのが現状です。その理由は,わかりにくい分野であるなどの印象をもたれていること,また,近年の補体学の進歩は目覚ましく,このことも補体の扉を開けて入りにくい原因となっていると思われます。
 補体の魅力を伝えたい思いはあってもなかなかチヤンスに恵まれなかったり,日常の業務に追われたり,個々の研究に没頭し時間的余裕を作ることができないものです。特にこの類の本を出版することは大変に困難なことを感じていました。
 毎年1回,補体研究会により「補体シンポジウム」が開催されます。今年で48回となるこの伝統ある会で,様々な分野の補体研究者と交流をもつことができます。この会において諸先輩と接し,補体学の普及には偉大な先人達の努力と苦悩を感じることもありました。
 このような状況のなかで,わが国でもようやく補体成分(C1-INH)の欠損が原因である遺伝性血管性浮腫(HAE)が全国的に注目され始めました。この疾患の認知度が低いために,診断に至らず,原因不明の疾患とされている患者さんの存在が,アンケート調査などにより明らかになったからです。この疾患の重要な治療である補充療法に使用されるC1-INHの製造販売元CSLベーリング社は,HAE患者救済を目的として様々な活動をされています。その企業姿勢と,補体研究者の思いが合流したことも大きな力となり,補体研究会においてHAEのガイドラインが作成され,時を同じくして治療薬が開発された夜間発作性ヘモグロビン尿症(PNH)のガイドラインが作成されるきっかけとなりました(それぞれのガイドラインは,補体研究会ホームページに掲載されています)。
 そのような流れのなかで,補体を多くの人に知ってもらいたい思いから本書が企画されました。補体研究者の方々に声をかけ執筆をお願いしましたところ,すべての方が快くお引き受けくださり,われわれの不安を吹き飛ばしてくれました。編集の作業にあたり,原稿を拝見しながら執筆者の補体に対する深い思いを感じました。同様に読者の方も本書から最新の知識を得るとともに,執筆者の補体に対する熱意を感じられるのではないかと思います。
 この本を手にした読者が,扉を開けて中に入り補体に興味をもたれるなら,執筆者を始め編集や出版にかかわった方々の大きな喜びとなると思います。
 最後にわれわれの意向を尊重し,ともに医療・社会貢献に取り組むCSLベーリング株式会社,篠原直樹氏,板橋 妙氏はじめスタッフの皆様に衷心より御礼申し上げます。

2011年2月
編集者一同
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目次

概 説
 1. 補体系の全体像
  1-1 補体系の全体像(岡田秀親)
   感作ヒツジ赤血球(EA)と比色計/properdin system/補体第二経路/種特異的補体制御膜因子/補体反応の役割

基礎編
 2. 補体活性化と制御
  2-1 補体活性化反応(藤田禎三)
   免疫系との関連/カスケード反応としての補体系/C3の中心的役割/補体系の働き/補体活性化の認識分子/補体活性化経路
  2-2 後期経路(今井優樹、岡田則子)
   後期反応の開始/非酵素的反応によるC5b-9形成/MAC形成時の反応性細胞溶解の制御/宿主細胞上のMAC形成阻害作用を示す膜蛋白/病原微生物のMAC形成阻害作用を示す蛋白/CD59/HRF20発見の経緯/CD59/HRF20欠損とその生物活性/sublytic C5b-9形成と細胞活性化/内皮細胞におけるC7の発現と膜結合性TCCの新たな機能/補体後期経路と病態/補体後期経路のインヒビター
  2-3 補体活性の制御(血清/細胞膜の補体制御因子)(瀬谷 司、長澤滋治)
   H因子(CFH)/C4結合蛋白質(C4bp)/DAF(CD55)/MCP(CD46)/臨床応用
  2-4 補体の産生(松下 操)
   補体成分産生の臓器・細胞
  2-5-1 補体系の進化:無脊椎動物(野中 勝)
   動物の系統/補体因子固有のドメイン構造/刺胞動物の補体系と補体系の起源/前口動物の補体系/後口動物の補体系/TEP遺伝子の進化/一次構造の進化/補体系の進化過程
  2-5-2 補体系の進化:脊椎動物(中尾実樹、杣本智軌)
   主な補体成分の分子進化/補体活性化経路の系統発生/今後の展望

 3. 補体の生物活性
  3-1 炎症(山本哲郎)
   炎症とは何か/臓器炎と膠原病/炎症反応と免疫反応/炎症反応に関与する細胞群/炎症のケミカルメディエーター(化学伝達因子)/補体由来のケミカルメディエーター/感染微生物に対する傷害作用や貪食に関与する補体因子/全身反応に関与する補体系因子
  3-2 食細胞機能の増強(松本美佐子)
   C1q レセプター/CR1(CD35)/CR2(CD21)/CR3(CD11b/CD18)、CR4(CD11c/CD18)/CRIg
  3-3 免疫複合体の可溶化とクリアランス(関根英治)
   補体による免疫複合体の可溶化/補体受容体1(CR1)を介して肝臓や脾臓で処理される免疫複合体/補体受容体1(CR1)の構造と発現/免疫複合体病とは/免疫複合体病の発症機序/ 血清病(serum sickness)/その他の免疫複合体病

 4. 免疫系における補体
  4-1 自然免疫における補体(高橋信二、青柳祐子)
   感染防御の概要/自然免疫において補体が果たす役割/細胞外寄生性細菌に対する自然免疫における補体の役割
  4-2 補体と獲得免疫(井上徳光)
   補体と体液性免疫/補体と細胞性免疫

臨床編
 5. 臨床と補体
  5-1 臨床と補体(大井洋之)
   血清の低補体が認められたとき/血清の高補体が認められたとき/3つの補体活性経路/局所への補体の関与/臨床的研究

 6. 補体欠損
  6-1 補体異常の評価法(畑中道代、北村 肇)
   補体の測定法/個々の成分における蛋白測定値と活性測定値の意味/データの解釈/補体異常症例の補体学的解析法/経験した興味深い症例について
  6-2 補体欠損と感染・自己免疫疾患(西坂浩明、堀内孝彦)
   補体欠損症の臨床像/補体欠損と感染/補体欠損と自己免疫疾患
  6-3 C1インヒビター欠損と遺伝性血管性浮腫(HAE)(堀内孝彦、山本哲郎)
   HAEの分類/HAEの疫学/HAEの臨床症状/HAEの病態/C1インヒビターの遺伝子異常/HAEの検査/HAEの治療
  6-4 発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)(木下タロウ)
   血管内溶血のメカニズム:補体系の自己非自己識別の破綻/DAFとCD59欠損のメカニズム:GPIアンカー生合成の異常/GPIアンカーの生合成/GPI-GnT欠損を起こす遺伝子レベルの異常/PNHにおけるクローン性拡大/Pig-a変異細胞の拡大と自己免疫性骨髄不全/PNHの3段階発症モデル/PNHクローンの良性腫瘍性拡大:HMGA2遺伝子の活性化/PNHの検査/PNHの新しい治療法:ヒト化抗C5モノクローナル抗体(エクリズマブ)

 7. 補体と疾患
  7-1 IgA腎症(遠藤守人)
   IgA腎症腎組織での補体成分の沈着/IgA腎症の補体活性化の初期反応/IgA腎症の多様性と補体反応/IgA 腎症における補体活性化反応とその制御/IgA 腎症での補体反応による組織障害
  7-2 膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)(大井洋之)
   補体系からみたMPGNの診断/MPGNの血清中に認めるC3NeF/C3NeF、低補体とMPGNの関係/MPGNにおけるC4NeFの出現/3つの異なった性質のC3NeF/自己免疫疾患としてのMPGN/H因子欠損症とMPGN
  7-3 溶血性尿毒症症候群(HUS)(鵜沼 智、南学正臣)
   aHUSとalternative pathway/各補体の遺伝子異常/aHUSの発症契機/aHUSの診断/aHUSの経過・予後/aHUSの治療
  7-4 血液透析と補体(水野正司)
   透析膜や回路素材の生体適合性と補体/末梢血中の好中球減少と補体の活性化/マイクロバブル形成と補体の活性化/凝固系と補体/ESRD患者のHDにより補体活性系の異常がもたらす、その他の影響の可能性
  7-5 虚血性疾患と補体(高橋 実)
   虚血再灌流での組織障害の機序/虚血モデル動物/補体初期活性化経路/古典経路の関与/レクチン経路の関与/第二経路の関与/臓器特異的虚血再灌流の組織障害/ヒトにおける虚血性疾患
  7-6 眼科と補体(岩田 岳)
   眼の基本的構造と機能/眼における補体の存在/角膜疾患と補体/ぶどう膜炎と補体/糖尿病網膜症と補体/視神経シナプスの構築と緑内障における補体/加齢黄斑変性と補体
  7-7 SLE と補体(塚本 浩)
   補体欠損症とSLE/SLEの病態形成における補体の役割/SLE診療における補体系検査の解釈/補体の制御を介したSLEの治療

 8. 病態と補体
  8-1 クリオグロブリン(大澤 勲)
   クリオグロブリン血症の原因疾患/クリオグロブリン血症の分類/クリオグロブリン血症の病態/クリオグロブリン血症の臨床症状/クリオグロブリン血症の検査結果/クリオグロブリンの検出方法/クリオグロブリン血症の治療/クリオグロブリン血症の予後
  8-2 MACと尿蛋白(遠藤守人)
   糸球体におけるMAC形成とその制御/MACによる組織障害と尿蛋白/尿中C5b-9と尿蛋白
  8-3 尿細管間質障害と補体(松尾清一、水野正司)
   背景/蛋白尿による尿細管間質障害と補体/膜補体制御因子と、C3a/C5aレセプターの腎での局在/尿細管局所における補体成分の産生とこれによる腎障害/補体による尿細管間質障害の機序/結語
  8-4 プロペルジン(大澤 勲)
   構造/産生/機能/臨床的意義/治療応用
  8-5 cold activation現象(北村 肇、畑中道代)
   cold activation 現象の特徴/低温による活性化の証明/補体プロフィール/頻度と疾患/血漿採取のための抗凝固剤について/活性化因子の本体/どんなときに疑うか、疑ったら何をするか?

索引
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