性差からみた

女性の循環器疾患診療

女性の循環器疾患診療

■編集 天野 恵子
山口 徹

定価 6,050円(税込) (本体5,500円+税)
  • B5判  232ページ  2色
  • 2006年1月10日刊行
  • ISBN978-4-7583-0145-9

女性における循環器疾患診療に必携の書!

本書は,近年明らかになりつつある「性差」の観点から,女性の循環器疾患を詳述している。といっても基礎と診断を中心とした学術書的な内容ではなく,治療にポイントをあてているため,臨床医が読んですぐに役立つ内容となっている。特に「診断と治療」の項目では,女性の年代を3つに区切り,それぞれの年代の女性における適切な治療を述べている。また,高血圧,高脂血症,糖尿病,肥満,喫煙といった心疾患危険因子についても,男性と女性でリスクがどれだけ違うのか,女性においてはどのような指導を行うのが適切かについて詳述している。運動療法,ホルモン補充療法,食事療法,ストレスの解消についても誌面を多く割いている。
また,昨年発表されたAHAの「女性のための心血管疾患予防ガイドライン」,日本総合健診医学会が発表した「女性の基準値」などは座右に置ける資料としても利用価値が高い。
まれな循環器疾患についてもコラムとして網羅しており,この1冊があれば,女性における循環器疾患の全貌が掴めるようになっている。


序文

企画にあたって

天野恵子(千葉県衛生研究所所長)

 性差医療(医学)とは,男女比が圧倒的にどちらかに傾いている病態,発症率はほぼ同じでも,男女間で臨床的に差をみる疾患,いまだ生理的・生物学的解明が男性または女性で遅れている病態,社会的な男女の地位と健康の関連などに関する研究を進め,その結果を疾病の診断,治療,予防措置へ反映することを目的とした医療改革である。
 米国では,1977年に食品医薬品局(Food and Drug Administration;FDA)より「妊娠の可能性のある女性を臨床試験に組み込むことは好ましくない」との通達が出されて以来,女性生殖器および乳腺の悪性腫瘍を除くと,多くの生理医学的研究における臨床試験が対象から女性を除外し,男性をモデルとして計画され,その研究結果があたかも疾病病態が女性でも同じであるかのごとく,何の疑問もなく女性に当てはめられてきた。しかし,1990年代に入り,米国政府は「すべての年齢の女性において,女性に特有な病態についての生物医学研究が行われるべきである」として,国立衛生研究所(National Institutes of Health;NIH)のなかに,女性における疾病の予防・診断・治療の品質向上と,関連する基礎研究を支援する目的で,Office of Research on Women's Health(ORWH)を開設し,性差を考慮した医学(Gender-Specific Medicine)を推し進めてきた。その中心となったのが,循環器疾患である。米国では男女とも死亡原因の第1位は心血管疾患で,女性における心血管疾患による年間死亡率はフランス,韓国,日本の5倍である。また,米国では1985年に心血管疾患による死亡数において女性が男性を凌駕したが,それ以降着実に男性における心血管疾患は減少しているにもかかわらず,女性においては一向に減少傾向が認められない。
 閉経前の女性において虚血性心疾患発症率が低いのはよく知られていることであり,多くの基礎研究から,エストロゲンのもつ心血管系への直接的・間接的保護作用が明らかになっている。エストロゲンは,脂質代謝,血圧,糖代謝といった冠危険因子に対する作用を介した間接作用に加えて,血管に対する直接作用も有し,血管トーヌスや,内皮細胞や血管平滑筋細胞などの血管構成細胞の動態も調節している。例えば,血管内皮からのNOの産生促進,血中PAI-1の抑制,Lp(a)産生抑制,接着因子の発現抑制など動脈硬化の発生・進展を抑制する作用が認められている。家族性高コレステロール血症においてさえも,男性では30歳頃から心筋梗塞が発症するのに対し,女性では閉経前の発症はほとんどみられず,50歳ごろから増加する。しかし,女性の卵巣機能は,50歳をはさむ約10年間で急激に低下し,女性ホルモン(特にエストロゲン)の欠乏は種々の病的状態を引き起こす。脂質代謝異常,高血圧,肥満なども閉経後の女性で増加する疾患であり,動脈硬化の発症を促進し,更年期から数年ないし10年を経て,動脈硬化性疾患をもたらす。
 そのようなタイムラグはあるものの,本質的には女性における動脈硬化のプロセスは男性と変わらないと,つい最近まで考えられていた。2004年5月に発行されたJournal of American College of Cardiology(JACC)の巻頭言に,Pepineによる“Ischemic heart disease in women: Facts and wishful thinking”が掲載された。Pepineは女性における虚血性心疾患の重要性と,女性における虚血性心疾患の診断と治療のジレンマについて語っている。ことに狭心症について,「女性における狭心症は男性と表現形が異なるというよりは,gender-related biasが根本に存在するのではないだろうか?」「男性に当てはまることが,必ずしも女性に当てはまるとはいえないのではないだろうか」という問いかけをわれわれに発している。
 虚血性心疾患における診断・治療・予後・予防・ケアだけでなく,動脈硬化の発症・進展・抑制における性差研究が今,求められている。心疾患全体における性差をすべて網羅しようとすることは紙面の制限ならびに研究がいまだ途上にあることもあり,今回は避け,主として問題を虚血性心疾患に絞り,他の分野についてはコラムとして紹介する程度にとどめている。今後,循環器分野における性差医学・医療の研究が着実に日本人を対象として企画・実行され,成果が積み上げられ,臨床にフィードバックされることを願い,本書を企画した。
全文表示する

目次

第I部 女性と男性はどこが違うのか?    
 1.病理学的見地からみた女性の動脈硬化  洲鎌芳美,上田真喜子 
 2.生理学的見地(physiology)からみた違い   
  a.正常の場合(妊娠も含む)  楠元雅子
  b.病的な場合(心不全)  百村伸一
 3.疫学的見地(epidemiology)からみた違い  上島弘嗣 
 4.薬物動態(pharmacokinetics)からみた違い  上野和行 
 5.女性ホルモンについて  秋下雅弘,大内尉義 
第II部 診断と治療    
 1.虚血性心疾患   
  a.閉経前  河野宏明
  b.中高年期  清野精彦,小川晃生,安武正弘,高野照夫
  c.老年期  坂井 誠,大川眞一郎
 2.不整脈  山下武志 
 3.心不全  百村伸一 
第III部 心疾患危険因子の治療   
 1.高血圧  平田恭信
 2.高脂血症  山下静也
 3.糖尿病  野田光彦
 4.肥満  増田大作,下村伊一郎
 5.喫煙  飯田真美,藤原久義
第IV部 循環器病手術治療における性差   
 1.冠動脈インターベンションにおける性差  飯島雷輔,山口 徹
 2.外科治療における性差  高梨秀一郎,福井寿啓
第V部 ライフスタイル・ストレスと心疾患   
 1.運動の心疾患一次予防効果と心臓リハビリテーションの心疾患二次予防効果  齋藤宗靖
 2.ストレス(うつ)と心疾患  天野恵子
 3.心疾患予防のための栄養指導  倉貫早智,中村丁次
第VI部 参考資料   
 1.日本総合健診学会「性別・年齢別の基準範囲」解説  大櫛陽一
 2.AHA 「女性のための心血管疾患予防ガイドライン2004年」解説  藤井崇史,松崎益徳

コラム   
 脳卒中クモ膜下出血における性差  加藤庸子
 脳梗塞における性差  福田賢治,井林雪郎
 大動脈瘤の性差  松尾 汎
 下肢動脈閉塞における性差  松尾 汎
 先天性心疾患における性差  中澤 誠
 頸動脈の肥厚における性差  平田久美子,吉川 純一
 弁膜症における性差  石蔵文信
 WISE(Women's Ischemia Syndrome Evaluation)Study  天野恵子
 ホルモン補充療法(HRT)の有用性  佐久間一郎
 ARIC(The Atherosclerosis Risk in Communities)Study  天野恵子
 Raynaud症候群における性差  
全文表示する