先天性心疾患を理解するための

臨床心臓発生学

臨床心臓発生学

■編集 山岸 敬幸
白石 公

定価 10,780円(税込) (本体9,800円+税)
  • A4判  228ページ  オールカラー
  • 2007年10月19日刊行
  • ISBN978-4-7583-0148-0

心臓形態形成・疾患発生を理解し,診断・治療に活かす

本書は,小児循環器の臨床に直結した心臓発生学および最新の分子生物学の知識を提供する書籍である。先天性心疾患の治療に役立つ発生学・形態学についてイラストを交えながら解説しており,心臓の発生過程のどの部分の異常により先天性心疾患が発生するのかについて,部位別かつ時系列的に記述している。
また,心臓発生学・分子生物学の分野に関連して,基礎から最先端のトピックスについても記載している。


序文

“The heart of creatures is the foundation of life, the Prince of all, the sun of their microcosm,
from where all vigor and strength does flow.”-William Harvey, 1628

 先天性心疾患は,出生約100人に1人の割合で発症する心臓発生の異常である。日本だけでも年間10,000 人以上の子どもが,心臓に何らかの病気を持って生まれてくる。心臓は,すべての臓器の中で最初に発生する。高等動物の心臓発生は,いわば進化によって生み出された自然の芸術である。時間的・空間的に秩序だった多くの過程によって,心臓の各部分が順次形成されていく。その神秘的な造形により,生命を維持する高度な循環機能を獲得する。したがって,William Harveyの言葉通り,心臓発生は生命の創成,活力の源であり,それゆえ先天性心疾患は,しばしば生命に直結する。
 心臓発生の研究は,1960年代に端を発し,まず胚の顕微鏡的観察により形態形成の基礎が明らかにされた。1990年以降,遺伝子改変技術を用いた分子生物学的研究が発展し,形態形成に関与する分子とともに,先天性心疾患の原因遺伝子が同定されるようになった。現在,心臓発生は基礎医学研究の中心的課題の一つとなり,Nature,Cell,Scienceなど一流の科学雑誌に論文が掲載され,先天性心疾患の発症機構の解明,心臓再生医療の期待が高まっている。 
 先天性心疾患の臨床では,診断・治療のめざましい進歩により,多く子どもたちが救命されるようになったと同時に,複雑な構造を持つ重症先天性心疾患の診断・治療を行う機会も増え,必要とされる心臓カテーテル検査や治療,外科手術の技術はますます複雑かつ高度になっている。さらに一人でも多くの重症な子どもたちを救命し,安全に検査や治療を進めていくために,基礎的な理論を整理する必要性を感じ,心臓発生学の知識を,先天性心疾患の臨床の現場に直結した形で還元したいと考えた。
 今回,数多くの先生方のご協力を得て,「先天性心疾患を理解するための臨床心臓発生学」を発刊するに至った。本書の核となる「各論1:心臓大血管の形態形成とその異常」の各項は,編集者と若手の小児循環器臨床医が執筆を担当した。日進月歩の心臓発生の分子医学研究について,完璧に解説できているものではないが,多くの先人の素晴らしい業績,特に日本の小児循環器学の師といえる,東京女子医科大学,故高尾篤良先生ならびに故安藤正彦先生が長い年月をかけて確立され,残された「心臓発生学」をお手本として,新しい視点から,発展のめざましい分子医学的研究成果を加えて,臨床の現場で遭遇する先天性心疾患の成り立ち,診断,治療について考察することをテーマとした。読者の方々に興味を持っていただき,今後も最新の知見をupdateしていく機会があれば,誠に幸いと考えている。
 また,各論を理解するための「発生生物学の基礎」を総論に設け,さらに小児循環器学において重要な分子医学・臨床遺伝学の項目を各論に加えた。これらの執筆を,各分野の著名な先生方にお願いし,基礎研究の輝かしい成果と臨床での疑問点や問題点が直結する内容をいただいた。その結果,本書は古典的な心臓発生学と最新の分子医学を,先天性心疾患を中心とする小児循環器学の臨床との関連に重点を置いて解説した,これまでの日本にはなかった,きわめてユニークな一冊に仕上がった。本書が先天性心疾患の臨床に携わる小児循環器医,心臓血管外科医,心臓発生,心臓分子医学に興味を持たれる医師,基礎研究者,病棟や外来での診療を行う小児科研修医,看護師,技師,そして心臓の発生・再生に興味のある学生の方々に,少しでもお役に立っていただければと願う。発刊に際して,多大なご協力をいただき,この新しい企画を常に力強く支援して下さったメジカルビュー社編集部の吉田富生様に心より感謝申し上げ,執筆者の先生方,関係して下さったスタッフの方々に御礼を述べたい。

2007年10月
慶應義塾大学医学部小児科講師
山岸敬幸
京都府立医科大学大学院医学研究科小児循環器・腎臓病学講師
白石 公
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目次

I—総論
1.心臓大血管の発生(概説) 山岸敬幸
  [トピックス]系統発生からみた心臓形態形成 森島正恵 
2.発生生物学の基礎
  発生・形態形成の基礎 今中恭子・佐藤 恒・白石 公 
  組織の成り立ち 浅妻右子・白石 公
  発生にかかわる分子 荒巻 恵・山岸敬幸 
  発生学的研究法:モデル動物マウス 三部 篤
  [トピックス]マウスを用いた細胞系譜解析法 山岸敬幸・山岸千尋
  遺伝子解析の基礎 上砂光裕
  [トピックス]心臓形成細胞の初期分化と再生医療 湯浅慎介・福田恵一

II—各論

1.心臓大血管の形態形成とその異常
  正常心 白石 公
  [トピックス]洞房結節の成長,加齢に伴う組織学的変化 白石 公
  [フォーカス]胎児循環から新生児循環への移行 吹田ちほ・白石 公
  左右軸の決定とその異常・内臓錯位症候群 白石 公・安井 寛
  [フォーカス]レチノイン酸誘導性heterotaxyモデルマウスからわかること 安井 寛
  心臓のルーピング 白石 公
  [トピックス]心ループ形成と筋原線維形成 白石 公 
  体静脈の発生と異常 白石 公
  肺静脈の発生と異常 白石 公
  左右心室の形成とその異常 前田 潤・山岸敬幸
  心内膜床の形成とその異常 白石 公
  [トピックス]これまでに鶏胚心より明らかにされてきた心内膜床形成(EMT)の細胞生物学/遺伝子改変マウスより明らかとなった心内膜床形成の分子メカニズム 白石 公
  心房・心室中隔の形成とその異常 古道一樹・山岸敬幸・白石 公
  [トピックス]心房・心室中隔欠損の原因候補遺伝子 古道一樹・山岸敬幸
  流出路の発生とその異常 山岸敬幸
  [トピックス]二次心臓形成領域 山岸敬幸・山岸千尋
  大動脈弓の発生とその異常 内田敬子・山岸敬幸
  半月弁の発生と弁形成の分子機構 土橋隆俊・山岸敬幸
  冠動脈の発生とその異常 中川雅生 
  [トピックス]PEOおよび心外膜から冠血管への分化と心筋への分化 中川雅生
2.肺動脈の分子医学 山元康敏・白石 公・浅妻右子・山岸敬幸
  [トピックス]遺伝性出血性毛細血管拡張症 白石 公・浅妻右子・山元康敏
3.動脈管閉鎖の分子機構 横山詩子・南沢 亨
4.心臓刺激伝導系の発生・分子医学 宮川-富田幸子
5.イオンチャネルの構造と不整脈の分子医学 古川哲史・黒川洵子 
6.心筋の構造と心筋症の分子医学 市田蕗子 
7.先天性心疾患を合併する染色体異常・奇形症候群 大木寛生・山岸敬幸
8.先天性心血管疾患の疫学と遺伝カウンセリング 松岡瑠美子
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