心疾患と妊娠・出産

心疾患と妊娠・出産

■監訳 丹羽 公一郎

■翻訳 池田 智明
神谷 千津子
赤木 禎治
川副 泰隆
立野 滋
丹羽 淳子

定価 7,150円(税込) (本体6,500円+税)
  • A5変型判  344ページ  2色
  • 2010年12月20日刊行
  • ISBN978-4-7583-0206-7

心疾患をもった女性の妊娠・出産における情報が満載の1冊!

イギリスで刊行され,話題となった「Heart Disease and Pregnancy」の翻訳本。わが国でも心疾患をもった女性の妊娠・出産が年々増加しているが,本分野の専門家は非常に少なく,本分野に関する成書もない。そのため,妊娠・出産が可能であるにも関わらず避妊を奨められたり,妊娠・出産が危険であるにも関わらず妊娠し,重大な合併症を生じることも少なくないのが現状である。
心疾患をもった女性の多くは一般的に妊娠・出産が可能とされているが,心血管系の合併症を認め,妊娠中の治療が必要なこともあり,流産や低出生体重児の頻度が高いとされている。また,中等度リスク以上の疾患においては,産科,循環器科,麻酔科,看護師などの緊密な協力体制と妊娠前カウンセリングが不可欠である。
そこで本書では,心疾患をもった女性の妊娠・出産における各国のスペシャリストがその日々の臨床で蓄積した情報を余すところなく掲載している。わが国の今後の心疾患女性の妊娠・出産の増加を考えると,必須の1冊である。


序文

 医療の発達の恩恵を受けて,心疾患女性の予後は,著明に改善しています。これに伴い,妊娠を希望する心疾患女性は飛躍的に増えています。わが国では,総妊娠数の0.5〜1%は,心疾患女性の妊娠です。心疾患女性は,こどもをもちたいという希望が非常に強いことが多く,一般と比べて若い年齢で結婚することも少なくありません。しかし,自分が心臓病をもっているために,結婚生活,妊娠出産が可能であるか,妊娠出産での注意点はなにか,普通分娩ができるか,こどもに遺伝しないか,育児は大丈夫かなど多くの不安を抱えていることも事実です。また,一般の社会では,心疾患の妊娠出産は困難であると考えられています。実際は,心疾患女性の多くは妊娠出産が可能です。しかし,合併症を認め,治療を必要とすることもあり,専門的な管理が必要です。また,流産や低出生体重児の頻度も高いことがわかっています。心疾患は多彩であり,それぞれの心疾患に特有の病態変化を伴い,妊娠出産中の合併症,注意点が異なることも少なくありません。
 わが国では,心疾患女性の妊娠出産に関する専門家は少なく,この分野に関する成書もほとんどありません。このため,心疾患女性の妊娠の際に,適切なカウンセリングが十分に行われていません。その結果,妊娠出産が可能であるにもかかわらず,避妊をすすめられたり,妊娠出産が非常に危険であるにもかかわらず妊娠して,重大な合併症を生じたりすることもみられています。また,妊娠,出産に際して,的確なアドバイス,治療を受けられない場合も少なくありません。
 英国では,2000〜2002年の母体死亡原因の第1位は,心血管合併症となりました。このため,王立産婦人科学会(the Royal College of Obstetrics and Gyneacology)が中心となり,心疾患女性の妊娠出産の管理が適切に行われるようにするため,心疾患女性の妊娠出産に関する成書を刊行することとしました。そこで,世界中からこの分野の専門家を招集して,心疾患女性の妊娠出産の治療,管理に関する合意事項を策定するための会議を開きました。会議は,2006年の2月13〜15日にロンドンで開かれ,27人の専門家が集まり,3日間にわたりこの分野の多くの項目を集中的に討議しました。その後,それぞれの専門家が担当した項目を多くの文献を含めて包括的にテキストとして作成しました。さらに,成書の刊行に際しては,16人の専門家が加わりました。このようにして,Heart Disease and Pregnancy (Steer PJ, Gatzoulis MA, Backer P eds, Royal College of Obstetrics and Gynecology Press)は,2006年に,世に出ることとなりました。成書は,心疾患女性の妊娠出産の実際,合併症の治療と予防の現状について,現在考えられる最も新しく,患者さんにとって最も適当な管理治療法を提供している解説書と考えられます。成書は好評を持って迎えられていますが,出版元が,Royal College of Obstetrics and Gynecology Pressであるためか,日本では入手が困難です。しかし,日本も心疾患女性の妊娠出産は多くなり,医療関係者,患者さんも含めて,日本語の成書が待ち望まれています。そこで,ロンドン王立産科婦人科学会と交渉の末,日本語の翻訳権を獲得し,日本語版を発刊しました。本書により,心疾患女性の妊娠出産の特徴,対応について理解していただき,その結果,実際の妊娠患者さんに対応する際の参考になると確信しております。最後に,翻訳をしていただきました先生方,Philip Steer MD, Michael A Gatzoulis MD, Philippe Baker MD各先生,そして,メジカルビュー社の吉田さん,高橋さんに深謝致します。

平成21年11月 
千葉県循環器病センター成人先天性心疾患診療部部長
丹羽公一郎
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目次

SECTION 1 妊娠前のカウンセリングと避妊   
 1.心疾患罹病女性の妊娠前カウンセリング(丹羽公一郎) 
  はじめに/妊娠前カウンセリングに含むべき項目/妊娠した女性,こども,家族の考え方を大切にすることと個々の多様性を尊重すること/十分な理解のうえで選択したことを尊重することと健康上の問題点の理解/妊娠に対する準備/先天性奇形のリスク/結論
 2.心疾患をもつ女性における避妊の意義(神谷千津子,池田智明) 
  はじめに/妊娠に伴うリスクに関する患者へのカウンセリング/心疾患の重症度分類/避妊薬/銅付加型IUD/緊急避妊処置/障害式避妊法/妊娠中絶/結語

SECTION 2 出産前ケア:総論  
 3.正常妊娠における血行動態変化(赤木禎治) 
  はじめに/心血管系の順応/体血管抵抗/心拍出量/血圧/腎臓の生理/子宮血流/ホルモン因子の役割/血管依存性血管拡張反応/結語
 4.心疾患をもつ女性の妊娠期ケア:産科医の観点から(神谷千津子,池田智明) 
  序文/患者のケアを実践する医療機関の特定/リスクの評価/患者に説明すべき事項/妊娠期ケアに関する計画立案
 5.心疾患罹病女性の出産前管理:循環器科医の見方(丹羽公一郎) 
  背景/心疾患の範囲:過去,現在,未来/母体心疾患の症状/出産前管理法の疾患別分類/出生前管理施設に関するガイドライン/UCLHの経験/現状での限界と解決方法
 6.妊娠期における心機能のモニタリング(神谷千津子,池田智明) 
  初回評価/心疾患の特徴と重症度/有害事象のリスク評価/妊娠期ならびに妊娠後にモニタリングを実施する場所と時期/妊娠期における心機能のモニタリングの方法/医療スタッフの連携,管理計画の立案,カンファレンス
 7.妊娠中の心疾患治療薬(川副泰隆) 
  総論/利尿薬/降圧薬/抗不整脈薬/抗凝固薬/妊娠中に頻用される薬物:心疾患女性への影響

 8.妊娠中の外科手術とカテーテル治療(丹羽公一郎) 
  はじめに/人工心肺による胎児,母体リスク/胎児と母体に対する放射線被曝と造影剤のリスク/弁膜症/大動脈解離/冠動脈の侵襲的治療/先天性心疾患/これ以外の疾患に対する種々のインターベンション/結論/キーポイントのまとめ

SECTION 3 出生前:胎児   
 9.胎児心疾患の出生前診断(川副泰隆) 
  はじめに/効果的なスクリーニングに必要不可欠なものはなにか?/心疾患診断後の管理/管理の選択肢と転帰/今日における外科治療の成績/胎児心臓病学における新たなる挑戦/結語
 10.先天性心疾患妊婦における胎児管理と胎児監視(川副泰隆) 
  母体の危険因子/再発危険度/胎児監視/子宮動脈のドプラ血流計測スクリーニング/胎児評価/胎児動脈血流の再分配/胎児静脈のドプラ血流計測/妊娠中に心臓手術が必要となる女性/要約

SECTION 4 出産前:心疾患母体   
 11.人工心臓弁(赤木禎治) 
  はじめに/生体弁/機械弁/未分画ヘパリン/ワルファリン/低分子容量ヘパリン/アスピリン/結論
 12.Marfan症候群,大動脈縮窄を含む大動脈拡張性疾患(丹羽公一郎) 
  臨床的問題点の概要/妊娠中の正常な大動脈機能/大動脈拡張性疾患とその関連疾患/Marfan症候群/大動脈縮窄/大動脈二尖弁/Turner症候群/Ehlers-Danlos症候群
 13.僧帽弁狭窄と大動脈弁狭窄(丹羽公一郎) 
  僧帽弁狭窄/大動脈弁狭窄
 14.右心病変(丹羽公一郎) 
  はじめに/一般的な概念/先天性右心病変/まとめ
 15.妊娠と肺高血圧:致死的な状況の新しい治療法(丹羽公一郎) 
  はじめに/PHの定義/PHの分類/PHの病態生理/臨床症状/PHの診断/PHの疫学と治療/PH患者の妊娠時治療/妊娠,出産,出産後の心血管系の適応/妊娠中の管理:歴史的な観点/妊娠時の管理:新しい方法/PHの妊娠:実際的方法/その他の事項/結論
 16.心筋症(丹羽公一郎) 
  はじめに/周産期心筋症(PPCM)/拡張型心筋症(DCM)/肥大型心筋症(HCM)/結論
 17.虚血性心疾患(丹羽公一郎) 
  はじめに/急性心筋梗塞の治療/心臓手術/出産/心筋梗塞の既往/結論
 18.周産期の不整脈(立野 滋) 
  器質的心疾患を伴わない不整脈/先天性心疾患に伴う不整脈/抗不整脈薬/先天性心疾患に合併する不整脈の疾患別特徴/不整脈が母体および胎児へ及ぼす影響/不整脈患者の人工妊娠中絶/妊娠中の母体管理/分娩時の管理および麻酔/複数の専門医およびコメディカルによるチーム医療/出産後の管理/授乳/結語
 19.母体心内膜炎(丹羽公一郎) 
  はじめに/定義/心内膜炎の頻度/妊娠時の心内膜炎/心内膜炎の病理/診断/危険因子/予防方法/妊娠中の心内膜炎の予防,診断,治療方法/結論

SECTION 5 分娩時ケア   
 20.心疾患をもつ妊婦−周産期に関する知見(神谷千津子,池田智明) 
  はじめに/産科的検討事項/局所麻酔,局所鎮痛/全身麻酔/麻酔方法の選択/母体のモニタリング/人的資源/結語

SECTION 6 分娩後ケア   
 21.心疾患をもつ女性の産褥期管理(神谷千津子,池田智明) 
  はじめに/健常女性の産褥期における生理学的変化/心疾患をもつ褥婦に関係するリスク/心疾患別にみた産褥期の合併症/高度の心疾患をもつ褥婦の管理/結語
 22.妊娠が心疾患罹病女性の長期予後に及ぼす影響(丹羽淳子) 
  重要性/妊娠の長期予後に与える影響を判定することの難しい理由/現在そして将来の研究

SECTION 7 合意事項とまとめ   
 23.心疾患患者における妊娠後の長期予後(立野 滋) 
  はじめに/心室機能不全/周産期心筋症/結合組織疾患と大動脈二尖弁/生体弁患者/結語
 24.51回研究班会議−心疾患と妊娠−から提唱された合意事項(丹羽公一郎) 
  包括的な合意事項/上記以外の合意事項

Appendix    
 ニューヨーク心臓協会心機能分類(A New York Heart Association)(丹羽淳子) 
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