外科医のための循環器必須知識

外科医のための循環器必須知識

■編集 吉野 秀朗

定価 5,500円(税込) (本体5,000円+税)
  • A5判  308ページ  2色(一部カラー)
  • 2011年9月16日刊行
  • ISBN978-4-7583-0211-1

手術時に外科医が必要な循環器知識をコンパクトに掲載。1冊あれば困りません

高齢化が進み各科手術の適応年齢が年々上昇している現在,手術時に循環器領域の疾患を併発している患者が増えている。さらに手術手技,術後管理技術の向上により,手術適応となる患者数も増加しており,非心臓手術実施時に循環器の知識が必須となってきている。また,患者のリスク評価(1 全身麻酔に対するリスク,2 術後に予想される合併症に対するリスク,3 疾患の程度や手術の大きさに対するリスク)が,手術を成功させ周術期の合併症を予防するために非常に重要である。
しかし,現在多くの若手医師が専門分野に特化して研修を行っているため,手術時にリスク評価ができない医師が増えている。また,多くの若手外科医にとって手術時に必要である循環器の知識を身につける体制も病院内で整っていないのが現状である。さらに,本来生死にかかわらない手術の際にも,心血管疾患の合併患者が心不全や心筋梗塞を併発する例も増加しており,近年,医療訴訟も頻発している。このため,現場の医師が過剰な検査を行い,必要な手術を中止する,循環器内科医へ簡単な判断に対しても意見を仰ぎ,判断が遅れる等,さまざまな問題が出てきている。
そこで本書では,手術時に外科医が欠かすことができない必須知識を網羅して解説する。手術前,手術中の注意点,各科ごとの手術時の必須知識を身につけることは若手外科医のみならず,各科の若手医師にとって重要である。


序文

 「外科医のための循環器必須知識」を編集しようと思い立ったのは,手術直前の循環器診療依頼が増えたためである。循環器診療依頼が増加することそのものは,むしろ喜ばしいことだろう。しかし,診療依頼が手術直前であったり,術前に施行した安静12誘導心電図の結果が不完全右脚ブロックで手術の可否はどうであろうかというあまりに原始的な(?)質問であったり(これが「明日手術する予定」という)するものが増加した。手術する側や麻酔をかける側としては手術中になにかが起こっては困るし,高齢者であれば当然ある程度の循環器疾患を合併していると考えたほうが妥当である。そこで,少しでも疑いがあれば循環器内科に依頼しておいてほうがよいと考えるのは自然である。
 しかし,手術直前に診療依頼があれば12誘導心電図は問題なくても問診診察のみならず,ときには負荷検査も施行せねばならない。とても明日の手術には間に合わないということになる。最も困るのは患者であり,覚悟のうえで入院してきて手術延期を告げられたら,せっかく築いた医師患者関係が壊れてしまう。また,診断群分類包括評価(DPC)を採用している病院としては,入院中に施行する検査はすべて持ち出しになってしまう。
 術前のもっと早期に循環器疾患の合併を簡便にチェックできないだろうかと考えていた矢先に,ACC/AHAからガイドラインが出された。杏林大学医学部付属病院でもすでに術前の循環器診療依頼の基準を設けていた。しかし,その内容は古く,安静時心電図の所見を中心に判定するものであった。狭心症では安静時に心電図異常がないことは常識的であり,単発の心室期外収縮には病的意義がないことは衆知である。
 以前に比べ,手術を受ける人口は高齢化して,その合併症として動脈硬化関連の心血管系疾患が増加した。したがって,これまでの基準ではまったく役立たないため,術前循環器疾患管理の基準を見直す必要があった。
 手術を受ける患者が高齢化してきたことにより循環器疾患を合併症にもつ術前患者が増加したこと,在院日数を短縮しようという医療事情・病院事情のために手術前日入院など手術前の入院日数が短縮したことなどで,手術直前に循環器疾患の有無や程度を把握する時間は入院後にはまったくなくなった。そこで,循環器疾患の既往があったり治療中であったりしても,術前にあらかじめ循環器内科に依頼すべき患者としなくてもよい患者とを判別するシステム,循環器内科への診療依頼が必要な患者は確実に依頼できるシステムを確立したいと考えた。
 それと同時期に,米国心臓病学会/心臓協会(ACC/AHA),日本循環器学会(JCS)が相次いで非心臓手術の循環器診療に関するガイドラインを発表した。また,ヨーロッパ心臓病学会(ESC)も,その後ガイドラインを発表した。これを参考に,杏林大学医学部付属病院では,独自の「非心臓手術の術前循環器診療」に関する診療ガイドラインを作成した。ACC/AHAのガイドラインでは,循環器内科医が診療すべき患者群は,かなり絞った症例群である。われわれは,依頼する外科医の負担をできるだけ減らす目的で,疑わしきは「循環器依頼を」という姿勢を崩さず,循環器診療を依頼する側の外科医の立場で利用できるよう診療ガイドラインを作成した。ACC/AHA,JCSのガイドラインは,循環器を専門にする医師に対する診療ガイドラインである。そこで,非心臓手術を行う外科医に読んでいただけるような内容をまとめたいと考えて本書を企画した。
本書の前半は総論として,術前の循環器診療に関する考え方,診療の流れ,合併する可能性のある循環器疾患についての概要,施行する可能性のある検査の特徴を各専門家に記述していただいた。項目によっては,かなり詳細なものもあり,循環器専門医が読んでも十分参考になるものもあった。術前術後の循環器疾患管理を行うには,腎臓,呼吸,糖尿内分泌の各分野の管理も関係してくると考え,各々の専門の先生にも執筆いただいた。
後半は,具体的症例をあげながら,各々専門的な手術を行ううえでどのような循環器的問題を抱える可能性があるかを外科医側から述べていただいた。本書は,外科医が循環器内科医がいなくても手術できるように,また,循環器内科医に診療を依頼したほうがよい患者とそうでない患者とを区別できるようにと考えて企画したが,本書の後半を読むとむしろ依頼を受けた循環器内科医にとって役立つような内容であった。
最後にお忙しい中,わかりやすく丁寧な内容で執筆していただいた各診療科の先生方に心より感謝いたします。無理なお願いを快く引き受けていただいた,メジカルビユー社の高橋範子さん,吉田富生さんに心から感謝いたします。

平成23年8月
杏林大学医学部循環器内科教授
吉野秀朗
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目次

第1部 総論   
I 術前評価   
  術前評価としてのACC/AHA,ESC,日本循環器学会ガイドラインより (吉野秀朗) 
   外科手術に心血管系併存症が増加しているか/高齢者の心血管系併存症/ACC/AHA 2007 Perioperative Guidelines/術中・術後の合併症/術前管理でなにが重要か/非心臓手術の術前循環器評価の手順/緊急手術/心血管系疾患の不安定性(活動度)/手術の危険度/4METs以上の運動耐容量/4METs以上の運動能力が不明な場合
II 術前管理   
 術前にチェックしなければならない循環器疾患  
  虚血性心疾患(狭心症・心筋梗塞) (吉野秀朗) 
   術前管理で最も注意しなければならないのは・・・/非心臓手術の循環器管理の目標/心筋虚血の発生機序:高度狭窄病変による虚血と不安定粥腫の破綻による急性閉塞/急性心筋梗塞の診断/心筋虚血のメカニズムと心電図診断,治療と対応/術中・術後の急性心筋梗塞の診断/PCI既往のある手術予定患者の場合/手術予定患者がPCIを必要となった場合
  心筋疾患 (坂田好美) 
   心筋疾患/拡張型心筋症/肥大型心筋症/閉塞性肥大型心筋症の治療/不整脈の治療/たこつぼ心筋症
  弁膜疾患 (坂田好美) 
   弁膜疾患/大動脈弁狭窄/大動脈弁閉鎖不全,大動脈弁逆流/僧帽弁狭窄/僧帽弁閉鎖不全,僧帽弁逆流症
  脚ブロック,その他の心電図異常 (四倉正之) 
   心筋梗塞の左室ストレインパターンが要注意/心電図に経時的変化がみられたら急性の心疾患を疑う/ST-Tの異常は原因がはっきりしないことも多い/右脚ブロックは問題なし,左脚ブロックは要注意/QT延長は要注意
  頻脈性不整脈,徐脈性不整脈,致死性不整脈 (池田隆徳) 
   不整脈の分類と種類を理解する/自覚症状と身体所見から不整脈の種類を推察する/不整脈の誘発を探る/不整脈を疑った患者の術前診断/術前治療の必要性を検討する
  肺塞栓症・深部静脈血栓症 (佐藤 徹) 
   急性肺血栓塞栓症/治療/予防
  大動脈・末梢血管の異常,頸動脈狭窄 (吉野秀朗) 
   術前に大動脈・末梢血管の異常,頸動脈狭窄をチェックしなければならない意味/診察と検査/大動脈・末梢血管の異常,頸動脈狭窄をもつと判断された場合
  先天性心疾患,肺高血圧疾患 (佐藤 徹) 
   肺高血圧疾患/先天性心疾患
 術前にチェックしなければならない全身疾患  
  その他 危険因子1  
  糖尿病 (田中利明,石田 均) 
   糖尿病患者数の増加と手術のリスク/血糖管理の重要性/術前の糖尿病の評価/管理方法
  その他 危険因子2  
  CKD (要 伸也) 
   慢性腎臓病の概念/保存期腎不全患者における術前の腎機能評価と周術期管理/慢性透析患者における周術期の管理
  その他 危険因子3  
  呼吸器疾患と呼吸機能 (和田裕雄,後藤 元) 
   術前に呼吸機能を評価する目的/外科手術や全身麻酔が呼吸に与える影響/呼吸生理学と術前評価/留意すべき呼吸器系基礎疾患
 手術を行うにあたって  
  術前診療上(身体所見)の注意点 (佐藤 徹) 
   心血管系診察の評価/診察法
  緊急手術の場合の対応 (吉野秀朗) 
   高齢患者の手術リスク/リスク評価の決め手/問診,診察,基本的検査が大切
  循環器内科医にどのように依頼するか (吉野秀朗) 
   手術に際しての循環器管理の目標/循環器内科医への診療依頼/術中管理/術後管理
  インフォームド・コンセント (谷合誠一) 
   インフォームド・コンセントの方法
 各種循環器検査の特徴  
  負荷心電図 (四倉正之) 
   術前の負荷心電図の主な目的は冠動脈疾患の診断だがルーチンでの実施は不必要/運動負荷法はトレッドミル,エルゴメータ,マスター2段階法の3種類
  心エコー検査 (坂田好美) 
   安静時経胸壁心エコー検査/負荷心エコー検査/経食道心エコー検査
  核医学検査 (山崎聡子) 
   意義/核医学検査の特徴/検査の流れ/負荷のしくみ/運動負荷/薬物負荷/画像の読みかた/核医学検査から心事故を予測する/核医学検査の長所とその限界
  MRI,CT (吉野秀朗) 
   循環器領域で用いられるMRI検査/Multi-detector CTを用いた冠動脈造影(冠動脈CT検査)による術前評価/負荷心エコー検査や負荷心筋シンチグラフィ検査の必要性/心筋負荷方法の選択
  心臓カテーテル検査 (林田健太郎) 
   意義/心臓カテーテル検査の種類,適応疾患/冠動脈の解剖/冠動脈造影の実際/非心臓手術の術前評価としての冠動脈造影の適応/術前評価の重要性
 術前内服薬の中止のポイントと術中の注意  
  抗凝固薬 (谷合誠一) 
   抜歯/体表の小手術/白内障手術/内視鏡検査・生検などの処置/大手術の術前/術前のステント療法について
  抗血小板薬 (真鍋知宏) 
   術前の注意点/抗血小板薬中止について/術直前と術中の対応
  抗狭心症薬 (吉野秀朗) 
   手術に際していつ中止するか/周術期でのβ遮断薬の使用/いつ再開するか
  抗不整脈薬 (池田隆徳) 
   抗不整脈薬の種類と特徴を理解する/各不整脈における指標頻度の多い薬剤を知る/抗不整脈薬の副作用を理解する/抗不整脈薬を中止するときのポイント/抗不整脈薬を中止した場合の術中の注意事項
  周術期の高血圧管理と降圧薬 (吉野秀朗) 
   術前血圧コントロール/臓器障害や心血管障害/周術期の血圧コントロール/術前高血圧症例/手術中の低血圧
  杏林大学方式:非心臓手術の術前管理 (吉野秀朗) 
   これまでの術前循環器依頼/新しい循環器診療依頼システム/杏林大学医学部付属病院の問診票と管理フローチャートシート/杏林方式の欠点と展望
III 術中管理    
  麻酔の生体への影響と安全性 (飯島毅彦) 
   手術および麻酔の生体に及ぼす影響と安全性/麻酔により循環器はどのような影響を受けるか/手術内容と麻酔法の選択/抗凝固療法による麻酔法への影響
  全身麻酔,腰椎麻酔,局所麻酔 (飯島毅彦) 
   麻酔の3要素/全身麻酔か局所麻酔か?/全身麻酔の特徴/脊髄クモ膜下麻酔/硬膜外麻酔/区域麻酔
  血圧,脈拍管理 (飯島毅彦) 
   なにを目標に循環管理をするか?/手術中の循環作動薬/予防的な薬剤投与
  体液管理(水分バランス,血液バランス) (飯島毅彦) 
   体液管理の指標/大量晶質液輸液の弊害
  術中の狭心症・心筋梗塞 (吉野秀朗) 
   手術中の急性心筋梗塞/急性心筋梗塞の治療/高度な冠動脈狭窄による心筋虚血/術前から冠攣縮性狭心症と診断治療されている症例/周術期における急性心筋梗塞の予後/周術期における急性心筋梗塞を発見するために
  不整脈出現時 (池田隆徳) 
   放置してよい不整脈と対応すべき不整脈/高度な徐脈に対する対処法/心室頻拍発現時の対処法/ランジオロールの特徴

第2部 各論   
  消化器外科 (小林敬明,杉山政則) 
   疾患特有の注意点・患者の特徴/手術時における循環器問題の特徴
  呼吸器外科 (関 恵理奈,呉屋朝幸) 
   呼吸器外科手術における循環器管理/腫瘍浸潤・進展による循環器への影響
  整形外科 −人工関節置換術後の周術期静脈血栓症の予防− (森脇孝博,小寺正純,市村正一) 
   術前検査/術中・術後の予防法/今後の展望
  泌尿器科 (奴田原紀久雄) 
   抗凝固・抗血小板療法中の泌尿器科疾患患者の処置・手術/泌尿器科疾患そのものが循環器障害と結びついているもの/まとめ
  眼科 (平形明人) 
   眼科における疾患特有の注意点・患者の特徴/眼科手術時における循環器的問題の特徴
  耳鼻咽頭科 (増田正次,甲能直幸) 
   耳鼻科手術は出血と窒息のリスク管理を要する/鼻処置・手術における注意点/循環器疾患を有する症例への鼻処置・手術/頸部手術における注意点/循環器疾患併存例に対する頸部手術後の創管理
  脳神経外科・脳卒中科 (脊山英徳,塩川芳昭) 
   頸動脈狭窄症の脳虚血発症様式と治療/脳主幹動脈閉塞症の脳虚血発症様式と治療/術前循環器評価/術中,術後の合併症/クモ膜下出血に伴うたこつぼ心筋症
  産婦人科 (谷垣伸治,岩下光利) 
   最も大きな変化−妊娠/循環器疾患を有する妊婦の管理/分娩管理
  形成外科 (多久嶋亮彦) 
   植皮術/有茎皮弁形成術/血管柄付き遊離組織移植術(遊離皮弁術)
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