患者さんのための 鎮静

なぜよい医療者は鎮静を上手に取り入れられるのか?

患者さんのための 鎮静

■著者 濱口 大輔

定価 3,080円(税込) (本体2,800円+税)
  • B6判  156ページ  2色
  • 2017年3月21日刊行
  • ISBN978-4-7583-0399-6

どうやってもとれない強い痛みに苦しむ患者さんにとって最良の医療とは何か,緩和のプロが考え方を丁寧に示します!

多くの革新的な薬が開発され,治療法も確立されてきているとはいえ,わが国では,3人に1人はがんで死亡する状況であり,再発・転移すれば予後は厳しいものである。
がん疼痛緩和においては1次治療=非オピオイド,2次治療=オピオイド,3次治療=鎮静といえる。かつてモルヒネが最後の治療と言われていたのと同様に現在は鎮静が最後の治療法と言われている。鎮静は患者の意識レベルを落として苦痛を感じにくくすることであり,以前のモルヒネと同様に,患者も医療者も一歩を踏む出すのに躊躇することが多々あるという。しかしながら,患者のことを思うのであれば,オピオイドでも管理できないほどの重篤な苦痛を和らげることは,患者の利益になるというのが著者の考えである。
本書は,医療者・患者がともにメンタルブロックがかかっているケースが多い鎮静治療を,コミュニケーションの取り方も交えながら解説している。


序文

はじめに
 私は,すべての人が穏やかで厳かな最期を迎えられる世の中が理想だと思っています。理想を実現するためには,患者さんがすべての苦痛から解放されている必要があります。そのために緩和ケアを専門にして5 年になりました。関わった患者さんはおよそ1 ,000人。無症状で穏やかな最期を迎えられる方もいました。標準的な症状緩和で苦痛のない最期を迎えられる人もいました。一方で,標準的な症状緩和では苦痛がとれない方もいました。
 無症状の患者さんや症状緩和がうまくいく患者さんは運がよくて,標準的な症状緩和ではうまくいかなかった患者さんは運が悪かったのでしょうか? 患者さんの人生の最期が穏やかになるかならないか,私たちは患者さんの運命に任せるしかないのでしょうか?
 そんなはずはありません! 「苦痛には抗えない,仕方がない」と諦めてしまうことは簡単です。でも,それは本当になす術がない場合のみです。確かに症状コントロールの手法が確立されていなかった昔はそうでした。でも今は違います。先人たちが努力を重ねた結果,新しい治療法が確立されたのです。標準的な症状緩和で対応できないすべての苦痛に対して,苦痛を感じなくなるまで
 薬剤を用いて意識レベルを落とす治療。それが鎮静です。
 緩和ケア病棟では鎮静は特別な治療ではありません。しかし,一般病棟や在宅医療では広く用いられている治療ではありません。現在わが国では緩和ケア病棟で亡くなる患者さんの人数と,その他の病棟や在宅で亡くなる患者さんの人数では,圧倒的に後者が多いです。ですから,鎮静は一般病棟や在宅医療でも必要な治療法なのです。
 鎮静は検査の前投薬として用いられるミダゾラムを用います。つまり特殊な薬剤を用いる訳ではありません。そして持続静注,または持続皮下注という投与方法で行います。技術的に特殊なものでもありません。
 まとめると鎮静は必要性が高く,特別な治療法ではないのです。
 私たちが鎮静という治療手段を身につけると,私たちが担当する患者さんは穏やかで厳かな最期を迎えることができます。そして目の前の患者さんだけではなく,他の病棟,病院全体,近隣の医療機関と鎮静ができる医療者が増えれば,より多くの方が穏やかで厳かな最期を迎えることができるようになります。
 私は緩和ケア医として「誰もがオピオイドを用いて患者さんの痛みをとることができるようにサポートすること」を最初のミッションとしていました。前作『できる!がん疼痛緩和』(メジカルビュー社,2015)を多くの医療従事者の手に取っていただくことができ,オピオイドの具体的な使い方が広まるきっかけとなったことに感謝しております。前書の出版により「鎮静を苦痛緩和に対する有
効な治療だということを広めていく」という2つ目のミッションに取り掛かることができました。穏やかで厳かな最期を迎えられる患者さんを増やしたいという想いに賛同していただけるすべての医療者のお役に立てるよう,鎮静について自分自身の臨床経験とコンサルテーション活動で培った考え方やコツ,講演内容と質疑応答の内容などすべてをまとめ上げ本書が生まれました。
 鎮静に関して知識ゼロ,経験ゼロでもまったく問題ありません。とにかく「患者さんを何とかしたい」という気持ちさえあれば本書は十分理解できます。是非一緒に学んでいきましょう。

 本書をここまで読んでいただきありがとうございます。あなたは苦痛をどうしても取りきることができない患者さんがいてお困りだと思います。そして鎮静という解決策にたどりついたのだと思います。  
 鎮静は緩和ケアの教科書の中で独立した章として扱われています。今まで,どうすれば臨床経過のなかで適切なタイミングで鎮静ができるようになるのか,患者さんが苦痛から解放されるのかという観点で書かれた本はありませんでした。
 
 緩和ケアを専門としない医療者が,鎮静という治療で患者さんを強い苦痛から解放するには,4つのポイントを押さえるとうまくいきます。
 ・私たち医療者が鎮静を理解し,必要なときにすぐ開始できる準備や工夫をする
 ・鎮静を理解した医療者が,患者さんや家族と鎮静が必要なときに開始できる関係をつくる
 ・患者さんの苦痛を取るための鎮静の具体的な指示の出し方を身につける
 ・鎮静開始後の対応を身につける

 本書は4つのポイントを専門家がいなくてもできるように,具体的に,かつ実践的に使えるシンプルな内容にまとめてあります。あなたが患者さんに鎮静が必要なのか判断ができ,必要な患者さんに多職種と連携して適切に鎮静ができ,患者さんが苦痛から解放されるようになるための道標になれば幸いです。
 それでは,あとがきでお会いしましょう。

 最後に本書を執筆するにあたり,多くの方々にお力添えを頂きました。
 これまでに出会った患者さんとご家族,医療従事者,家族,そしていま本書を手に取ってくださっている皆様に心から感謝を申し上げます。
 また手稲渓仁会病院の廣上 潤先生,船越健司先生,石井奈津子先生には勉強会を通じて貴重な意見をたくさんいただきました。そして菊池真弥先生の的確なアドバイスとご協力なくして本書は完成しませんでした。この場をお借りして御礼申し上げます。
 また企画段階からご尽力くださった石田奈緒美氏をはじめ,株式会社メジカルビュー社の皆様に心から感謝いたします。

2017年2月21日
濱口 大輔
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目次

Ⅰ部 鎮静を始めるまで—医療者としてできること
 0章 鎮静を始めるまで 医療者としてできること
 1章 鎮静をマスターするための4つのステップ
  1 なぜ鎮静に苦手意識をもつのか?
  2 鎮静を学ぶ4ステップ
 2章 鎮静を理解する
  1 鎮静って何?
  2 なぜ鎮静を学ぶのか?
  3 鎮静の意外なメリット
 3章 治療の流れを理解する
  1 苦痛の強さに応じて症状治療は変化する
  2 苦痛は常に強くなる
  3 鎮静の理解を深めるためのイメージ
  4 各症状に対する治療の流れ
   4-1 疼痛
   4-2 呼吸困難
   4-3 全身倦怠感
   4-4 悪心・嘔吐
   4-5 せん妄
   4-6 スピリチュアルペイン
 4章 苦痛と治療の関係
  1 苦痛と治療のバランス
  2 弱い苦痛と各種治療との関係
  3 強い苦痛と各種治療との関係
  4 ものすごく強い苦痛と各種治療との関係
 5章 鎮静を速やかに行うために私たち医療者ができること
  1 鎮静を開始するときの手順
  2 関係作り
  3 コミュニケーションの注意点
  4 「まだ早い」の真意を探る
 
Ⅱ部 鎮静を開始する
 0章 鎮静を開始する
 1章 鎮静の適応
 2章 薬剤の選択について
 3章 患者さんへの説明
  1 説明のタイミング
  2 説明の目的を明確にする
  3 苦痛のテンポを読む
 4章 テンポの速い苦痛の場合の説明の具体例
  1 悪い例
  2 もう一歩の例
  3 良い例
 5章 テンポの遅い苦痛の場合の説明の具体例
  1 悪い例
  2 良い例
 6章 カンファレンス
  1 カンファレンスの目的
  2 タイミング
  3 何を、どのように
 7章 意思決定支援
 8章 処方
 
Ⅲ部 鎮静開始後の注意点
 0章 鎮静開始後の注意点
 1章 増量
 2章 二次治療の継続
 3章 予防
 4章 家族との接し方
 5章 投影に注意する
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