産婦人科手術

産婦人科手術 No.17

エキスパートに学ぶ

産婦人科手術 No.17

■編集 日本産婦人科手術学会

定価 7,700円(税込) (本体7,000円+税)
  • B5判  196ページ  
  • 2006年6月12日刊行
  • ISBN978-4-7583-0536-5

第28回産婦人科手術学会記録集

●エキスパートに学ぶ


序文

巻頭言

 私は手術の手ほどきを北里大学病院で蔵本博行先生から受けた。当時蔵本先生も大学院を出たばかりであったから,技術論よりも癌治療の考え方を叩き込まれたと言った方が当たっているかもしれない。
 その後筑波大学に移り岩崎寛和教授,金子 實助教授から広汎子宮全摘術を教えていただいた。岩崎教授の手術は非常に丁寧で,特に子宮頸部から膀胱を剥離する手技は見事だった。私は今でも教えていただいた通りに操作している。金子先生の手術は確実で素早く,その動きは抑揚のあるリズムを刻んでいた。
 しかしながら当時の筑波大学はまだ症例数も少なく,広汎子宮全摘術となると執刀できるのは年に1〜2例であった。
 少し症例数が増え広汎子宮全摘術の全貌がおぼろげに分かり始めた頃に千葉大の高見沢裕吉教授の手術を見学する機会に恵まれた。
 先生は「空気を切る」と言いながら腹膜外腔のスペースを広げ,「受けを作る」と言いながら,鉗子の先がでる場所にくぼみを掘って,その場所に剥離鉗子の先をぴたりと出した。手慣れた見事な手術であったが,それよりも私が気になったのはそのクーパーの持ち方だった。どうも普通とは違っているようだった。が,どう先生が持たれていたのか,その時にはよくわからなかった。
 数年経って経験症例も100例を超え,私も少しこだわりを持って広汎子宮全摘術ができるようになった頃,どうしても野田起一郎教授の手術を見せていただきたいと思い,先生にお願いして近畿大学に見学に行った。先生は丁寧に解説を加えながら,手術を見せて下さった。
 「骨盤臓器の剥離すべき場所は,クーパーの重さだけで全部開けることができる。力は要らない。だから,助手の手が触ると僕はよくクーパーを落とすんだよ」そうおっしゃりながら手術された。ところが私の目が釘付けになったのはそのクーパーの持ち方だった。高見沢教授と全く同じ持ち方をされていたのである。
 しかも後日耳にした話では岡山大学の関場 香教授も同じ持ち方をされているという。
「理由はともかく,クーパーはこう持つことが必須だ」という事だけは判った。
 私は毎晩クーパーを抱いて寝た。
 一カ月もするとクーパーは手に馴染むようになった。
 暫くすると,クーパーの持ち方による操作性の違いが判った。
 通常のクーパーの持ち方ではクーパーは手と硬く一体となる。この時,クーパーを動かす支点は手首のみであるのに対し,野田式の持ち方だと手首から指の根本,指先,更にクーパーまでがしなやかに波の様に連動するのである。
 私は極意の一端を垣間見た気がした。

 このクーパーの持ち方は教科書には書かれていない。また,学会でもこのクーパーの持ち方に関する発表は聞いたことがない。
 多分,高見沢教授と野田教授の手術を見せていただくことがなかったら,私は永遠にこのクーパーの持ち方の秘密に気付かずに終わっていただろう。

 技術を習得するには先人と時間を共有して教えて頂くのが最善である。
 従って,学会という形式で技術を伝承することには限界があると言わざるを得ない。
 しかし,優れた技術を伝えたいと思う先達の気持ちと,ある程度の知識と経験に裏打ちされた学びたいという強い意欲が出会えば,このような形式でも十分に機能するのではないか。学会は場を提供して両者を引き合わせればよい。
 今回の学会では,なるべくその雰囲気に近づけ,参加者に臨場感を味わっていただけるように「エキスパートに学ぶ」という講演形式を考えた。
 講演を担当された先生方はいずれ劣らぬ,私が尊敬する高い技術をお持ちのエキスパートである。
 素晴らしい講演を快くお引き受けくださったエキスパートの先生方にこの場を借りて深甚なる感謝を申し上げると共に,学会の場で多くの技術が伝承されたであろうことを喜ばしく思う次第である。

2006年4月
第28回日本産婦人科手術学会
会長 西田正人
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目次

巻頭言第28回日本産婦人科手術学会 会長 西田正人

主題:エキスパートに学ぶ
直腸腟瘻の手術法 塚本直樹
便失禁を伴う陳旧性会陰裂傷の修復術 嘉村敏治
卵巣癌の手術:腹部大動脈周囲リンパ節の郭清について 薬師寺道明
傍大動脈リンパ節郭清術 鈴木光明
全前置胎盤例における帝王切開術—胎盤を貫通しての児娩出法 平松祐司
古典的帝王切開術 三橋直樹
深部内膜症に対する腹腔鏡下手術 武内裕之
妊孕性の温存,獲得,回復を意識した手術(卵管形成術) 長田尚夫
筋層内筋腫の核出術:筋腫の2分割法を中心に 山下貞雄
高周波切除器を用いた子宮腺筋症切除術 高野克己ほか
ディスカッション

一般演題
術前に内腸骨動脈バルーンカテーテルを留置し帝王切開を施行した子宮頸部筋腫合併妊娠症例 林 嘉彦ほか
手術創部の閉腹操作における工夫 藤井多久磨ほか
前置癒着胎盤に対するcesarean hysterectomyの工夫 山田 隆ほか
子宮・腟壁浸潤を認める進行膀胱癌根治術における子宮および尿道・腟全摘出術の工夫 古谷健一ほか

特別講演
ロボット手術の現状と展望 小澤壯治

企画記事
婦人科領域の周術期静脈血栓症予防 小林隆夫
自己血輸血の適応,方法 落合和彦ほか

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