内視鏡画像による急性中耳炎・鼓膜アトラス

内視鏡画像による急性中耳炎・鼓膜アトラス

■監修 森山 寛

■著者 上出 洋介

定価 7,150円(税込) (本体6,500円+税)
  • A4判  96ページ  オールカラー,上製,写真429点
  • 2005年9月28日刊行
  • ISBN978-4-7583-0858-8

急性中耳炎鼓膜所見の新しい診方・とらえ方。急性期病期分類の提案

中耳炎の治療においては体温や痛みなども大切だが,鼓膜所見を徹底して経過観察していくことが必要である。難治化傾向にある現在の乳幼児急性中耳炎を治療していくうえで,鼓膜所見による評価・判断は予後を決める極めて重要な因子である。
本書は中耳炎の流れの中でとらえる鼓膜の重症度分類案を紹介した。その分類に沿い,20万枚あまりの症例写真の中から同一症例の鼓膜所見を詳細に追跡し列挙していくことで,短期間で治癒する例や長期にわたる例,ゆっくり発症してゆっくり治癒していく過程などに加え,他科の医療者にも理解しやすいよう所見の解説を入れ,鼓膜所見の変遷を理解するのに役立つように構成してある。


序文

 筆者が急性中耳炎の鼓膜所見像を時系列で供覧することを思いたった最初の理由は研修医時代に遡ります。一般診療や急患外来で急性中耳炎を最初に診察したとき,中耳炎があることは理解できるものの,その病態が中耳炎の一連の流れの中のどの段階にあるのかが分からなかったことであります。それは次の段階としての治療法にもかかわることになります。すなわち,鼓膜切開が必要なのか,抗菌薬と鎮痛薬を投与するべきなのか,あるいは鎮痛薬のみでよいのか,皆目見当がつかなかったことにあります。さらに,拡大耳鏡では判定医と相談するにしても所見の取り方にも違いが出てきます。このような問題はできるだけ早期に解決できればという思いが今まで続いていました。
 1995年に開業しましたが,大学時代から身につけていた鼻・副鼻腔内視鏡手術の技術を鼓膜所見に応用し,中耳炎に限って撮影した鼓膜所見を当時流行していたプリクラにしてカルテに貼付していました。時代の発展に伴ってコンピュータも驚異的に進歩し,高速で画像処理のできるファイリングシステムが開発され,1998年から採用しました。
 画像ファイリングの最も優れた点の1つは,同一人物の鼓膜所見を一瞬で時系列に画面上に揃えることができることにあります。鼓膜の変遷が写真レベルで手に取るように分かります。第2点は使用している機種にもよりますが,画像にキーワードをつけておくことで別の患者であろうとすべてのデータの中から縦断的に同じキーワードを検索し,その画像を揃えることができるという点であります。病期分類を提案した基礎はここにあります。
 1990年代初頭より指摘された耐性菌問題は1990年代後半より急速に表面化し,臨床上大きな問題となってきました。この中耳炎の治療においては体温や痛みなども大切ですが,鼓膜所見を徹底して経過観察していくことが必要であります。難治化傾向にある現在の乳幼児急性中耳炎を治療していくうえで鼓膜所見による評価,判断は予後を決める極めて重要な因子であると考えます。
 今回提案します鼓膜所見による病期(Stage)分類は,急性中耳炎の一連の流れを理解するうえで参考になる資料と思っています。提示してある鼓膜所見は,筆者の診療所において過去6年間にコンピュータ上に保存された鼓膜画像約12万件(24万枚)から選りすぐったものです。さらに,この試案は「第32回日本耳鼻咽喉科感染症研究会」(2002年9月広島),「第12回日本耳科学会総会」(2002年10月東京)において口演いたしております。この分類を行うにあたり基本となったのは,山中 昇編(和歌山県立医科大学耳鼻咽喉科教授)「変貌する急性中耳炎」(金原出版)であり,急性中耳炎の重症度分類を行うものでした。これに対し,私は中耳炎の流れの中で捉えようとしたものであります。5段階分類は拡大耳鏡のみでは難しいという評価もありますが,将来鼓膜内視鏡が日常診療で採用されることは容易に察しがつきます。ある程度詳細な分類も大切かと思います。
 本書を作成するに当たり企画の根本をなすものとして,一人ひとりの患者の鼓膜所見を詳細に追跡し列挙しているところにあります。短期間で治癒する例や長期にわたる例,ゆっくり発症してゆっくり治癒していく過程などに加え,他科の医療者にも理解しやすいよう所見の解説を入れ,鼓膜所見の変遷を理解するのに役立つようにしています。これが本書の基礎となる−Chronology of acute otitis media−の意味しているところです。
 しかしながら,この病期分類は私が個人的に提唱したものであり,日本耳鼻咽喉科学会,その他の関連学会または成書などとはまったくかかわりがないことをお断りします。加えてこの分類による臨床上のいかなる問題に対しても筆者は責任を負いかねますので,個々の裁量でご判断下さるようお願い申し上げます。

2005年9月
上出洋介
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目次

1章 画像ファイリングシステムと鼓膜画像 
 1 画像ファイリングシステム
 2 ファイリング装置と周辺機器
 3 鼓膜画像
2章 単純急性中耳炎−発症から治癒まで,その意義と分類 
 1 急性期病期分類の提案
 2 急性期病期分類の意義
 3 炎症消褪期の考え方
 4 炎症消褪期の遺残性貯留液の考え方
 5 急性中耳炎の鼓膜所見の変遷−発症から治癒まで
 6 急性中耳炎の鼓膜所見の変遷−新しい考え方
3章 急性中耳炎の鼓膜所見変遷の実際 
 1 短期日で治癒した症例
 2 2週間あまりで治癒した症例
 3 1カ月にわたる貯留液の変化
 4 左右の病態が違う症例
 5 緩慢な経過をたどった乳児症例
 6 改善途中で再燃した症例
 7 難治性中耳炎−保育園による遷延例
 8 難治性中耳炎−滲出性中耳炎が基礎にある症例
 9 反復性中耳炎−兄弟発症例
4章 種々の鼓膜・中耳粘膜病態 
 1 鼓膜裏面の肉芽組織
 2 鼓膜裏面の肉芽組織−その他の症例
 3 鑑別すべき病態
 4 鼓膜瘢痕とその形成過程−画像ファイリングを用いたレトロスペクティブな検討
 5 鼓膜瘢痕とその形成過程−その他の症例
 6 鼓膜の組織学的構造と炎症に伴う構造変化
 7 肺炎球菌により強い粘膜浮腫を示した症例
 8 軽度粘膜浮腫と治療例
 9 中等度粘膜浮腫と治療例
 10 肺炎球菌による高度粘膜浮腫と治療例
 11 肉芽様粘膜と治療例
 12 中耳粘膜の臨床病態分類の試み
5章 当院における急性中耳炎データ 
 1 各年齢における中耳炎の頻度と病期分類
 2 保育園関連データ
 3 鼻咽腔培養検査
 4 保存的治療
 5 Natural History
 6 観血的治療
 7 治癒に関する院内データ
 8 治療開始後の鼓膜(中耳)病態の変化
 9 文献
 
COLUMN
 鼓膜切開の瘢痕について
 水疱性中耳炎,水泡性鼓膜炎の鼓膜所見
 砂粒の移動からみた外耳道上皮のmigration
 剥離した鼓膜上皮の移動
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