わかりやすい周産期・新生児の輸血治療

研修医から専門医まで必修の輸血療法と安全対策

わかりやすい周産期・新生児の輸血治療

■編集 大戸 斉
大久保 光夫

定価 6,050円(税込) (本体5,500円+税)
  • B5変型判  248ページ  2色
  • 2009年1月14日刊行
  • ISBN978-4-7583-1055-0

周産期・新生児輸血での緊急時対応,安全対策を病態と関連づけた解説で「みて」「わかる」必携の書

周産期・新生児輸血における緊急時対応,安全対策などを,病態に関連づけた記述で,「みやすく」「わかりやすく」解説した書籍である。
基本的知識の習得から,周産期・新生児医療の臨床に携わる若手医師,指導者としてかかわる専門医まで活用できる,周産期・新生児分野に携わる医療者は必携の書である。


序文

「わかりやすい周産期・新生児の輸血治療」の刊行にあたって

 “周産期の出血”は今もって最大の問題である。妊産婦の1割は3,000mlを超える出血をし,容易に播種性血管内凝固症候群に進展するなど,特異的な病態による周産期医療の難しさと産科医の減少などの構造的な問題がこの領域の医療を困難なものにしている。福島県立大野病院裁判は産科領域にとどまらず,日本全体の医療界に普遍的な問題を提起した。5年前から始まった研修義務制度では産婦人科と小児科が必修科目として組み込まれ,毎年7,500名の新人医師がこの分野を研修する。しかし,それぞれの診療科の研修期間は1〜2カ月間と短く,研修目標に達するのは困難である。とくに,妊産婦と新生児における輸血治療の知識は,重要でありながら習得できていないと推測される。
 2006年大阪で開催された日本周産期・新生児医学会周産期学シンポジウムには周産期臨床現場で働いている医師が全国から数多く参集し,「周産期の輸血療法をめぐって(産科・母体)」のテーマで周産期大量出血への対応について熱く討議を行った。このシンポジウムに参加して,周産期・新生児の出血と輸血に関して疾患の特徴的な病態と十分に関連付けてわかりやすく解説し,現場で役に立つテキストが求められていることを強く感じた。そこで,研修医の基本的知識の習得から,周産期・新生児医療に携わる若手医師やコメディカルの実践的ニーズにも応えられ,かつ指導者として係わる専門医までもが活用できる,必要十分な知識をまとめた単行本「わかりやすい周産期・新生児の輸血治療」を刊行することにした。
 
 本書は周産期・新生児医療に関する輸血が必要となるあらゆる病態とその対応が含まれる。本書の中心的内容である「緊急・大量出血への対応」,および「産科の輸血療法」には現場で実践的に関わっている臨床医が日常の診療を念頭に置きながら執筆した。輸血準備から始まり,各病態の解説,出血対応と輸血の内容は具体的で大いに役立つ。「新生児の輸血療法」では胎児治療,未熟児貧血,交換輸血などはこれまでの知識に新しい見識が加わった。「周産期の免疫・生理」は母子不適合妊娠の病態・管理・治療を中心にして,またDICと血栓症対策など,近年の研究進歩と新しい概念が整理され,現場に還元できる形で執筆された。「知っておきたい輸血療法と安全対策」では自己血,輸血過誤対策,インフォームドコンセント,宗教的輸血忌避への対応,輸血副作用対策など,これらも医療現場で大いに役立つことであろう。
 輸血医学を専門としてきたが,1980年に当時の新生児学会に入会して以来,周産期・新生児医療について多くのことを学ぶことができたので,以下に紹介し,謝意を述べたい。

1. 妊娠・分娩は「輸血と移植の自然モデル」
 輸血医学に足を踏み入れた際に,柴田洋一教授から「妊娠は輸血でもある」とヒントをいただき,以後,妊娠・分娩における母児間相互の輸血現象とその転帰は生涯のテーマとなった。通常の妊娠でも全例にみられる児母間輸血microchimerismが特に分娩時に大量に発生すること(Transfusion 2001),流産ではやや少ないこと(Obstetrics Gynecology 2008) を明らかにした。
2. 母子不適合妊娠は「不適合輸血」
 母子不適合妊娠の解明は輸血医学の発展ももたらした。多くの血液型は不適合妊娠を契機に発見され,その恩恵は輸血患者全体に還元されている。また,アジア人は白人とは異なるDiegoなどの血液型が重要な母子不適合同種免疫抗原となり,欧米の教科書とは別の知識を集積してきた(Transfusion 2006)。アジア人ではRhD陰性血(稀に微量のD抗原を保持する)だけを輸血してもRhD抗体を産生しうることを発見した(Transfusion 2005)。また,新生児血小板減少症の原因となる血小板抗原と重症度・頻度(Transfusion Medicine 2005)や,新生児顆粒球減少症に関与する顆粒球抗原も白人とはかなり異なる(Transfusion 1989)。
3. ウイルスの母子感染は「輸血感染症」
 妊娠・分娩中に母児間輸血が発生すれば,ウイルス感染も生じる。B型肝炎ウイルスは子宮内で輸血現象が発生すると出生前感染が発生すること(Journal of Obstetrics & Gynecology 1996)を初めて明らかにした。C型肝炎ウイルス感染はキャリア母からの児の1割に生じ,そのリスク因子はウイルス濃度であること(New England Journal of Medicine 1998)を見出した。三万人の妊婦とその児を前方視的に追跡し,G型肝炎ウイルスやTTウイルスの感染率と感染様式も明らかにした。最近は,HCV感染母親とその児に関して,取り扱いガイドライン(日本小児科学会雑誌2005,Paeditrics International 2008)としてまとめ,国内外に周知している。
4. 輸血後移植片対宿主病(TA-GVHD)の撲滅
 十数年前まで,日本全体で毎年数百人,新生児だけでも数十人がTA-GVHDのために命を失っていた。ドナーは受血者とHLA一方向適合の関係になると,リンパ球は受血者を一方的に攻撃し,そしていったん発症するとほとんどが死亡していた(Transfusion, 1996, Transfusion Medicine Reviews 1996)。一方向適合になる確率は日本人肉親間で群を抜いて高く,他人種の数百倍にも達することを見出した(Transfusion 1992)。福島医大では世界に先駆け,細胞成分血液にはすべて放射線照射し,今では日本の標準になり,完全に防御可能となった(Transfusion Medicine 2000)。
5. 輸血と関連学会との連携
 輸血医学は他の臨床医学,基礎医学,社会学などのノウハウを取り込んだ総合応用医学の性格を有し,日本輸血・細胞治療学会で責任ある立場の者として,大量出血に対応する総合的対策など関連する学会などと連携を図っていきたい。
 「宗教的輸血拒否に対するガイドライン」は産婦人科,小児科,麻酔科,外科の各学会の枠を超えて法学,倫理学の専門家と共同でまとめ上げた,世界最初の国全体ガイドラインで,臨床現場での混乱を回避し,患者と医療提供者の両者に役立つものと自負している(日本輸血細胞治療学会誌 2008)。

 最後になるが,本書が高度の内容で読みやすく,かつ実践的なスタイルになるには,大久保光夫先生の溢れるアイディアと実行力,メジカルビュー社の原鎭夫,清澤まや,浅見直博各氏の協力が必須であった

2008年12月
福島県立医科大学輸血・移植免疫部
大戸 斉
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目次

はじめに  大戸 斉
この本の特徴と注意点 大久保光夫
1 緊急輸血・大量輸血への対応 
 危機的出血と周産期医療
  分娩および帝王切開による出血の実態
  危機的出血への対応ガイドライン
  救命を最優先した輸血療法のために
2 産科の輸血療法 
 経腟分娩(自然分娩)・帝王切開術(既往帝王切開を含む)での輸血準備
  周産期における輸血準備(当センターでの対応)
  妊産婦死亡減少のために
 多胎妊娠の病態と輸血
  多胎妊娠
  多胎妊娠のリスク
  多胎妊娠と輸血
  双胎の分娩に必要な準備(帝王切開を中心に)
  分娩と出血に関しての注意
 子宮外妊娠での輸血
  子宮外妊娠出血性ショックの管理
  輸血の準備
  輸血の開始時期
  輸血製剤の選択
  輸血後の管理
 自然流産,人工流産,子宮内容除去術の輸血準備
  自然流産と人工流産
  子宮内容除去術と輸血
  子宮内容除去術で出血が増加する要因
 子宮筋腫,腺筋症,腫瘍合併妊娠での輸血
  子宮筋腫合併症妊娠と分娩時大量出血
  子宮筋腫合併妊娠と弛緩出血
  子宮筋腫合併妊娠と帝王切開率
  帝王切開時の子宮筋腫核出術
  子宮筋腫合併妊娠と前置胎盤,癒着胎盤,常位胎盤早期剥離
  子宮内膜症(子宮腺筋症)合併妊娠
 前置胎盤の病態と輸血
  前置胎盤とは
  前置胎盤の病態
  前置胎盤の管理
  前置胎盤の輸血療法
  患者・家族へのインフォームドコンセント
 癒着胎盤の病態と輸血
  癒着胎盤の分類
  癒着胎盤の疫学と診断
  常位(非前置)癒着胎盤の対応
  前置癒着胎盤での周術期出血対策
  ショック対策と輸血治療
 常位胎盤早期剥離の病態と輸血
  常位胎盤早期剥離とは
  臨床症状
  診断が決定したら
  帝王切開術中の輸液・輸血
  術後の輸液・輸血
 産後出血への対応
  分娩時の異常出血の頻度と対策
  出血時の初期対応
  輸血のタイミング
  危機的大量出血での対応
 手術の偶発合併症と出血への対応
  手術と妊産婦の偶発合併症
  帝王切開術
  子宮破裂修復術
  急速遂娩術
  出血量の評価と輸血療法の開始
  DICの治療
  コラム:周産期の大量輸血について
3. 新生児の輸血療法 
 胎児(治療)輸血
  胎児貧血の診断
  胎児輸血の実際
 未熟児貧血とその対応
  低出生体重児が貧血に陥りやすい背景
  出生後の時期と貧血
  未熟児貧血の治療
  同種血輸血回避の試み
 新生児の交換輸血
  交換輸血とは
  適応疾患
  方法
  輸血量
  使用製剤
  合併症
 新生児への血小板輸血
  新生児血小板減少症の原因
  NAIT
  新生児に対する血小板輸血の適応
  新生児に対する血小板輸血の実際
 新生児のGVHD,高カリウム血症の予防
  新生児のGVHD
  高カリウム血症予防
 新生児への輸血手技(輸血法)の実際
  適応
  新生児への輸血手技(輸血法)の実際
 新生児外科手術時の輸血
  新生児外科疾患における輸血の必要性
  新生児外科疾患における貯血式臍帯血自己血輸血
  コラム:産婦人科で活躍する! 女性医師から研修医のみなさんへ
4 周産期の免疫・生理
 母児免疫
  母児免疫とは
  非古典的HLA-G分子と妊娠
  母児間の細胞交換とキメリズム
  NIMAに関する話題
 血液型不適合妊娠
  赤血球の血液型不適合
 赤血球不規則抗体検査
  妊娠初期および周産期における不規則抗体検査の臨床的意義
  妊婦の血液型,不規則抗体検査や抗体価測定のタイミング
  新生児溶血性疾患を起こす抗体と意義の低い抗体
  不規則抗体検査法
 RhD因子陰性妊婦の管理
  抗D抗体未感作妊婦の管理
  抗D抗体既感作妊婦の管理
 まれな血液型
  まれな血液型とは
  臨床上重要な「低頻度の血液型」
 抗血小板抗体
  新生児同種免疫性血小板減少症とは
  鑑別疾患
  妊婦の抗体産生
  新生児血小板減少症の重症度に影響する因子
  母親と患児への対応・治療
 ITP合併妊娠 
  ITP合併妊娠について
  妊婦がITPに及ぼす影響
  ITPが妊娠に及ぼす影響
  妊娠・分娩管理
 凝固・線溶系の生理
  凝固・線溶系とは
  妊産婦の凝固・線溶系の特徴について
  新生児の凝固・線溶系の特徴について
 播種性血管内凝固症候群(DIC)
  播種性血管内凝固症候群(DIC)とは
  産科DICの特徴
  産科DICになりやすい基礎疾患
  診断
  治療方針
  DICが発症したら
 静脈血栓塞栓症(VTE)の病態と対策
  静脈血栓塞栓症(VTE)とは
  VTEの病態
  産婦人科におけるVTEの頻度
  妊産婦に対するVTE予防
  VTEのリスク評価
  VTEの一般的な治療
  VTE合併妊産婦への対応
 HBV母子感染予防対策
  HBV感染小児の病態
  HBV母子感染の疫学と感染例の自然経過
  厚生省『B型肝炎母子感染防止事業』の成果
  『B型肝炎母子感染防止事業』の変更と健康保険給付対象への移管
  『B型肝炎母子感染防止事業』の変更後,現時点での問題点と課題
  コラム:研修医へのアドバイス
  小児科の魅力! 女性医師として働く現場から
5 知っておきたい輸血療法と安全対策
 自己血輸血—妊婦を対象として—
  自己血輸血とは
  妊婦の自己血貯血の実際
  妊婦の自己血における問題点
 臍帯血移植
  さい帯血バンク
  臍帯血採取
  臍帯血の調整・保存
  臍帯血採取に必要な書類
  臍帯血の検査
  臍帯血の提供
  臍帯血移植の実際
 血液製剤の適正使用ガイドライン
  血液製剤の使用指針の背景
  赤血球濃厚液の適正使用
  FFPの適正使用
  血小板濃厚液(PC)の適正使用
  アルブミン製剤の適正使用
  新生児への血液製剤投与に際して注意すること
 血液凝固因子製剤
  血液凝固異常症と血液凝固因子製剤
  血液凝固第Ⅷ因子製剤
  血液凝固第Ⅸ因子製剤
  血友病インヒビター治療薬
  血液凝固第XIII因子製剤
  乾燥濃縮人活性化プロテインC製剤
  その他の凝固因子製剤
 輸血感染安全対策
  輸血後感染症の現況
  細菌感染
  非微生物の輸血後感染:プリオン病の懸念
  血漿分画製剤の感染安全対策
 輸血過誤防止対策
  輸血過誤とは
  輸血過誤の発生原因
  輸血過誤の防止対策
 インフォームドコンセント
  「承諾書」から真の「インフォームドコンセント」
  インフォームドコンセント概説
  輸血とインフォームドコンセント
  同意能力について
  今後の方向性
 宗教的輸血拒否者への対応
  宗教的輸血拒否者の存在
  産科における輸血療法の歴史
  エホバの証人と輸血拒否の根拠
  インフォームドコンセントと愚行権
  分娩における輸血の頻度
  担当医の取るべき対応
 輸血副作用とその対策
  輸血副作用とは
  免疫学的輸血副作用
  非免疫学的輸血副作用

あとがき
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