整形外科医のための

骨のバイオメカニクス解析

CT画像からモデルを作って有限要素法で解析しよう!

骨のバイオメカニクス解析

■編集 稲葉 裕
東藤 貢

定価 7,700円(税込) (本体7,000円+税)
  • B5変型判  164ページ  オールカラー,イラスト20点,写真50点
  • 2017年3月13日刊行
  • ISBN978-4-7583-1373-5

まずは自分で骨のコンピュータシミュレーションをしてみませんか?

骨折をはじめとした整形外科の病態と力学は,密接な関係にある。患者の体内で骨に何が起こっているのかを解析できれば,例えば骨折の予測や,荷重安全域が推測できれば術後リハビリテーションを現在より安全に行うことができる。そのためには,患者の骨をコンピュータ上でできるだけ正確に再現(モデル化)し,シミュレーションをする必要がある。その解析に用いられているのが,有限要素法(FEM)という手法である。
本書では,まずこのFEMを理解するために必要な知識を,工学者がわかりやすく解説している。次に,実際にCT画像からどうやってモデルを作るのか,また作ったモデルをFEMでどう解析していけばいいのか,具体的な手順を追って丁寧に説明している。さらに,その解析結果が妥当かどうか,それを検証する方法についても紹介している。
そして,実際に医師が,臨床でどうシミュレーションを活かせるのか,今後の可能性も含め,今現在の最前線の情報を提供している。
最後にステップアップとして,FEMを利用した英語論文を投稿するとき,どういう構成で書けばいいのか,どこに注意すればいいのか,実際の投稿者と査読者のやりとりを基に紹介している。
これからバイオメカニクスの研究を始める人も,すでに研究を進めている人も,ぜひ読んでほしい1冊である。


序文

―整形外科医から―
 整形外科とは,主に骨,関節,筋肉,靱帯などの運動器を扱う診療科である。運動器疾患では,個々の病態を把握するために詳細な形態観察と力学的評価が必要であり,バイオメカニクス研究は重要な役割をもつ。整形外科分野でのバイオメカニクス研究の歴史は古く,多くの先人達の功績により貴重な知見が得られてきたが,臨床医である整形外科医にとって専門的な工学的知識や計算手法を用いて研究を行うことはハードルが高かった。また一昔前まではモデル作成や解析に膨大な時間を要し,一つの研究を行うのに多くの労力を要した。しかし近年のコンピュータ技術の進歩により,コンピュータソフトウェアを用いた新しい手法が開発され,さまざまな画像情報を用いた詳細な解析が可能となっている。20年前には1か月以上を要したモデル作成も,現在では1日もかからずより詳細なものが作成できるようになり,またソフトウェアもユーザーフレンドリーとなったため,整形外科医にとってもハードルは下がってきたようである。
 しかしこのような背景のなか,新しい問題が出現してきている。ソフトウェアは使いやすくなり複雑な解析を短時間でできるようになったが,その研究目的に適した方法に関する知識がないと正しい解析結果であるかの判断ができないのである。つまり,当然であるがバイオメカニクスに関する知識は重要であり,基本的な知識がないと素晴らしいソフトウェアを使用しても正しい研究はできないのである。しかし,今までバイオメカニクスに関する専門書は存在しても整形外科医にとっては難解で敷居が高いものが多かった。また実際の解析方法や研究の進め方について詳細に説明している成書は少なかった。
 そこで本書は,主に,これからバイオメカニクス研究を開始する,もしくは現在,バイオメカニクス研究を行っているが基礎知識が必要と考えている整形外科研究医を対象に,『骨のバイオメカニクス解析』というタイトルで,有限要素法解析に焦点を絞って作成された。バイオメカニクス研究には有限要素法解析以外にもさまざまな手法があるが,これをきっかけに他の解析手法にも興味を持っていただければ幸いである。
 本書の特徴は,工学系,医学系の研究者がお互いに,わかりやすいように具体例を提示しながら作成した点である。また研究の最終目標の一つである英文雑誌への投稿例についても記載した。整形外科医にとって,工学系研究の英文雑誌への投稿はやや敷居が高いが,本書を参考にチャレンジしていただきたい。ただし本書の内容は,あくまでも研究の具体例であり,validation(検証)の問題,実臨床との整合性の問題など今後の課題点も多い。そのような現状も本書から読み取っていただいて,今後の研究の参考になれば幸いである。
 最後に,発刊のために執筆のご努力をいただいた先生方や矢部涼子様をはじめとしたメジカルビュー社の方々に深謝いたします。

2017年2月
横浜市立大学整形外科准教授
稲葉 裕
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―工学者から―
 バイオメカニクスは,固体力学と流体力学を生体に応用する学問領域であり,固体力学に限っていうと,硬い組織を対象とする整形外科との相性がよく,特に骨のバイオメカニクスは長い歴史を有している。古くは,単純に骨のさまざまな部位に負荷を加えて,弾性率や強度のような骨のマクロな「材料定数」的データを取得する研究が主に行われていたが,顕微鏡の発達とともにミクロな組織とその複合構造が明らかになり,バイオメカニクスもミクロ化していった。さらには,骨リモデリングにおける骨関連細胞の役割が細胞生物学的に明らかになってくると,「細胞のバイオメカニクス」という新しい分野も登場するようになってきている。このように,骨のバイオメカニクスは,単純なマクロな力学挙動を対象とした研究から,細胞,組織,骨の部位,骨格を対象とするマルチスケールな研究へと拡大しており,これらのスケールが異なる力学的応答を相互に関連付ける研究の必要性がますます増している。
 さて,骨の複雑なマクロあるいはミクロな構造を考えると,実験的に観測するのは大変困難であり,さらに試験体として人の骨を用いた実験も限られた施設でしか行えず,研究を進めるのは容易ではない。一方,昨今のコンピュータの高性能化に伴い,ミクロな領域からマクロな領域まで複雑な現象をモデル化しシミュレーションすることが可能になってきており,コンピュータを利用した骨のバイオメカニクス研究は,基礎研究や臨床研究としても有用な知見を与えることが期待される。最近では,CT画像を利用した三次元的に骨構造をモデル化する方法も開発され,骨の計算バイオメカニクス研究がますます発展するものと期待される。
 このように,マルチスケール化し複雑化した骨のバイオメカニクス研究における計算バイオメカニクスの役割はますます重要となってきているが,それを実行するには,医学,生物学,固体力学,計算工学を含む広範囲な知識が必要となっているのも事実であり,骨のバイオメカニクス研究に取り組もうとする研究者にとってハードルは高いものとなっている。医学と生物学に精通した医学者には,工学的要素は荷が重く,一方,工学者にとっては,医学や生物学的な要素が大きな負担となってしまう。したがって,医学者と工学者が手を取り合い協力して骨のバイオメカニクス研究に取り組むことが理想的であるが,自分の専門分野の知識しか持ち合わせていないと,コミュニケーションをとることが難しいという問題がある。
 本書は,骨のバイオメカニクスに興味がある整形外科医の読者に,できるだけわかりやすくCT画像を利用した有限要素法(CT-FEM)の基礎を学んでもらおうという意図の下,CT-FEMを用いた骨のバイオメカニクス研究で実績がある研究者が分担で執筆しまとめたものである。医学者と工学者で担当することで,医学的にも工学的にもバランスがとれた内容となることを意識している。本書の内容をある程度理解していただければ,工学系研究者との会話もスムースに行えるようになり,共同研究が進展することが期待される。興味はあるが,これまでなかなか手を出せなかった方々も,本書がきっかけとなって,この分野に新しく参入していただくことになれば,誠にうれしい限りである。

2017年2月
九州大学応用力学研究所准教授
東藤 貢
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目次

1.有限要素解析のための基礎知識
骨の構造・疾病とバイオメカニクスの関係稲葉 裕ほか
 骨の構造とバイオメカニクス
 骨の疾病とバイオメカニクス
  変形性関節症/骨折 /骨粗鬆症 
 骨評価

骨解析のための力学を知ろう東藤 貢  
力学とバイオメカニクス
 力学の基礎
  剛体の力学/材料力学/弾性力学/弾塑性力学
  粘弾性力学/異方性弾性力学
 力学挙動の近似解析法
 最後に

有限要素法の基礎を理解しよう山本創太
 有限要素法の原理
 有限要素解析の手順
 有限要素モデルの構築,要素の特性
  有限要素の種類/有限要素を選ぶ
 材料モデルを選ぶ
 動解析か,静解析か
 時間積分法
 まとめ

2.骨解析のための応用
CT画像からモデルを作る小関道彦 
 「完璧なモデル作り」はあきらめよう
 かたちのモデリング
  モデル化の方法/かたちをモデル化することで解析できること 
 物性のモデリング
  モデル化の方法/物性をモデル化することで解析できること 
 力学条件のモデリング
  モデル化の方法/生体内の力学状態をモデル化することで解析できること 
 入力データの信頼性
 おわりに

骨折をいかに表現するか東藤 貢 
 骨折と力学
 力学の基礎
  実験による強度評価/主応力による強度評価/相当応力による強度評価/「強度」を規定するその他の力学パラメータ シミュレーションによる骨折の表現
 骨折の解析例
 今後の展望

骨リモデリングをいかに表現するか田原大輔 
 骨リモデリングを「マクロ」に解析に表現する
  骨リモデリングによる骨密度の変化をヤング率の変化として解析に表現する/解析事例
 骨リモデリングを「ミクロ」に解析に表現する
  ミクロな骨梁形態変化を計算モデル上で表現する/解析事例

解析結果の妥当性を検証する松浦佑介
 妥当性検証試験の実際
 骨の有限要素解析で発生しうるばらつきの要因
  モデル作成因子/撮影因子/検体要因
 モデル作成因子によるばらつき
  メッシュサイズ/モデルの材料特性/境界条件/
  骨折の定義/解析ステップ間隔
 撮影因子によるばらつき
 CTの機種・撮影条件/CTの周囲の環境因子/検体要因によるばらつき
 骨質による影響 /軟部組織の質的ばらつき

3.臨床への応用
骨折手術後の強度評価への応用佐野博高 
 骨折治療における生体力学的問題
 整形外科医による臨床的評価
 モデルの作成方法
  モデルの作成/解析の実行
 症例提示
  症例1/症例2
 現在の解析手法の問題点
  骨折部の正確なモデル化/生体内に挿入されたインプラントの形状抽出/CT画像における金属によるアーチファクトの影響/仮骨の物性定数
今後の課題

肩関節領域に応用する佐野博高
肩関節の機能と代表的疾患
腱板断裂の発生機序解明に対する応用例
  腱板断裂の発生要因とCT- 有限要素法応用の目的/正常腱板モデルの作成と解析の実際/応力集中部位と腱板断裂発生部位の関係/今後の課題
腱板断裂手術に対する応用例
  腱板修復術用アンカーの引き抜き強度の予測/バーチャル引き抜き試験の実際/アンカーの弛みのリスクは予測可能か/今後の課題
 おわりに

股関節領域に応用する稲葉 裕ほか
 股関節疾患とその治療
  股関節の機能/股関節の疾患/股関節の手術
 人工股関節全置換術における有限要素法
  有限要素法を用いた解析
 寛骨臼回転骨切り術における有限要素法
 有限要素法を用いた大腿骨近位部骨腫瘍における骨折予測

脊椎領域に応用する東藤 貢ほか 
 骨粗鬆症と骨折
 椎体圧迫骨折に関連する解析例
  椎体形成術前後の比較/椎体単独モデル解析によるT12 とL2 の比較/年齢が異なる患者の椎体形成術後の比較
 今後の展望

Step up 英文雑誌への投稿
Q & A から学ぶ,アクセプトされる論文の書き方 池 裕之ほか 
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