高齢者リハビリテーション実践マニュアル

高齢者リハビリテーション実践マニュアル

■編集 宮越 浩一

定価 5,940円(税込) (本体5,400円+税)

高齢者リハビリテーションに必要な知識を包括的・横断的に解説した実践書

高齢者は病前の状態がさまざまで,入院による廃用症候群も生じやすく,リハビリテーション(以下,リハ)のゴール設定は複雑となる。また,退院後のADLの低下も考慮して,長期的な予後予測と機能維持のプログラムも同時に検討する必要がある。しかも,虚弱高齢者では複数の疾患を抱えていることも多く,合併症のリスクもある。さらに,若年患者は改善に向かうことが多いが高齢者の経過はさまざまであるため,特別なリスク管理も必要である。
このように,高齢者リハでは考慮すべきことが多く,老年医学や各疾患についての幅広い知識と情報収集能力,そしてその情報を整理してリハプログラムに反映できる総合的判断力が必要である。本書は,この総合的判断力を身につけ,高齢者リハを実践するために必要な知識を,包括的・横断的に解説した書籍である。
超高齢社会を迎えたわが国では,リハの現場でも高齢患者はどんどん増えていく。ぜひ本書で高齢者リハの実践力を身につけてほしい。

  • B5判  376ページ  2色(一部カラー),イラスト98点,写真80点
  • 2014年9月22日刊行
  • ISBN978-4-7583-1490-9

序文

編集の序

 わが国は他国が経験したことのない超高齢社会を迎えている。2025年には65歳以上の高齢者が人口に占める割合は30%を超え,2040年に高齢者人口は3,800万人程度でピークになる見込みである。この高齢化率は世界でもトップであり,今後も数十年間以上にわたり維持される見通しである。このため,わが国は世界最先端の超高齢社会であり,他国をリードすることのできる高いレベルの高齢者医療提供体制を構築していく必要性がある。
 高齢化の進行とともに,入院治療の必要な急性期患者数は増加し続けている。その一方で,患者数の増加に対して病床数や医療スタッフ数は充足しているとはいえず,限られた医療資源を有効に活用することが求められる。このためには入院中の合併症を抑制し,患者のADLを低下させず,早期に社会復帰させることが必要となる。また,急性期治療終了後の回復期リハビリテーション(以下,リハ)・維持期リハも求められる。これらの面から,リハの役割は以前にも増して拡大していくものと予想される。
 しかし,高齢者のリハにはいくつかの理由で若年者と異なる難しさがある。加齢による身体機能の低下が基礎にあること,および複数の疾患を同時にもっていることが多く,互いに悪影響を与え合うことから治療が容易ではないこと,そして治療に対する反応や合併症もさまざまであり,治療経過の予測が容易ではないことが多い。また,全身状態が改善傾向にある患者ばかりではなく,不安定であったり,次第に増悪することも少なくない。さらに,高齢者では虚弱であるため廃用症候群を呈しやすく,障害が重度化・複雑化しやすい。これらに伴い患者の障害像は複雑となり,リハプログラムに難渋するケースも数多くみられる。
 また,高齢者では併存疾患の増悪などの合併症も生じやすい。しかも症状が典型的でないことがあり,早期発見や対応が困難となることが少なくない。特に近年では早期リハが一般的になっているため,ハイリスクな患者もリハの対象となっている。このため,リスク管理の面においても特別な配慮が必要である。
 上記に述べた医学的問題だけではなく,発動性の低下や認知症,うつ傾向などの心理的問題もリハに与える影響は大きい。さらに,介護者の高齢化や経済的問題など,社会的な問題も同時にもっていることが多い。そして,高齢者では生命予後が限られていることも多く,リハの目的を考えるうえでは患者や家族のQOLも考慮しなくてはならない。
 このように,高齢者を対象にリハを提供するためには,多面的評価と介入が必要であり,臓器別医療・臓器別リハの考え方のみでは適切なリハは提供できない。これには多岐にわたる知識と高い総合的判断能力を要求される。今後は,このような高齢者リハを提供できる質の高い人材を多数育成することが必要となる。
 本書では,高齢者にリハを提供するにあたって必要な知識を整理することを目的とした。高齢者に多くみられる疾患を主に取り扱い,リスク管理やゴール設定に必要な知識を記述することとした。一部は医学的に難解な内容を含んでいると思われるが,このような知識はメディカルスタッフの教育にたずさわるリハ科医師やリーダー級の療法士,訪問リハにたずさわる療法士には必要になる場面があると考える。
 本書が高齢者のリハを担当する医療従事者の知識の整理に役立ち,全人的医療を実践できる能力をもつ人材の育成に貢献することができれば幸いである。
 最後に,本書を発行するにあたり尽力をいただいたメジカルビュー社の阿部氏にお礼を申し上げたい。

2014年7月
宮越浩一
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目次

PartⅠ 総論
1 高齢者のリハビリテーション:総論
 超高齢社会の今後
 加齢による身体機能・精神機能の変化
 高齢者に対する対応

2 情報収集とリハビリテーションプログラム
 高齢者リハビリテーションにおける情報の必要性
 初診前の情報収集
 初診時評価
 カルテの記載方法
 リスク管理に必要な情報
 予後予測の方法

3 廃用症候群
 廃用症候群の問題
 運動器に生じる廃用
 廃用症候群の発生過程
 廃用症候群の評価
 廃用症候群のリハビリテーションプログラム

4 退院支援
 はじめに
 なぜ退院支援が必要なのか
 退院支援

5 在宅における全身管理
 在宅における疾患管理(頻度の高い疾患,重症な疾患)
 訪問診療導入時の情報収集
 訪問で必要な問診と身体所見
 導入時,維持期の臨床
 緊急性の判断と入院治療のタイミング
 在宅での応急処置

6 在宅におけるリハビリテーション
 維持期の高齢者
 維持期の高齢者のリハビリテーション
 訪問リハビリテーション

7 終末期症例に対するリハビリテーション
 はじめに
 終末期とADL
 終末期の高齢者に対するリハビリテーション
 QOLを重視したリハビリテーションプログラム
 入院中・在宅における終末期症例への対応

PartⅡ 高齢者に多い疾患とリハビリテーションの実際
1 脳卒中
1.高齢者の脳卒中の基礎知識
 はじめに
 分類と管理
 高齢者脳卒中の評価
 合併症:脳梗塞,脳出血,くも膜下出血
 薬剤副作用:抗凝固薬,抗血小板薬に的を絞って
 多発脳卒中:精神機能低下症例
2.高齢者脳卒中のリハビリテーションの実際
 早期リハビリテーションの効果(必要性と方法)
 評価方法
 高齢脳卒中患者のゴール設定
 高齢者脳卒中患者のリハビリテーションプログラムの実際

2 神経変性疾患
1.高齢者の神経変性疾患の基礎知識
 はじめに
 パーキンソン病とその周辺疾患の特徴
2.高齢者の神経変性疾患のリハビリテーションの実際:パーキンソニズムを中心に
 パーキンソニズムを呈する疾患
 高齢パーキンソニズム症例のリハプログラムの実際
 高齢パーキンソニズム症例における早期リハの必要性と方法
 高齢パーキンソニズム症例特有の練習メニュー

3 呼吸器疾患(肺炎,慢性呼吸器不全)
1.高齢者の呼吸器疾患の基礎知識
 高齢者の肺炎
 慢性閉塞性肺疾患(COPD)
 呼吸リハビリテーション
2.高齢者呼吸器疾患のリハビリテーションの実際
 高齢呼吸器疾患患者に対するリハビリテーションの目的
 高齢患者に対するリハビリテーション目標の立て方
 リハビリテーション評価
 リハビリテーションプログラム
 リハビリテーション実施の注意点

4 運動器疾患(骨折,変形性関節症・変形性脊椎症など)
1.高齢者の運動器疾患の基礎知識
 はじめに
 骨癒合に影響を与える因子
 機能予後に影響を与える因子
 全身合併症
 骨折部に生じる合併症
 骨折部位ごとの対応
2.高齢者運動器疾患のリハビリテーションの実際
 はじめに
 高齢者の運動器疾患に対する評価
 高齢者の運動器疾患に対するリハビリテーション
 大腿骨近位部骨折のリハビリテーション
 脊椎圧迫骨折のリハビリテーション

PartⅢ 併存疾患の管理
1 糖尿病
 はじめに
 糖尿病とは
 糖尿病合併症について
 年齢に応じた適切な血糖管理
 実際のリハビリテーションにおける注意点
 低血糖,高血糖への対応

2 心不全
 はじめに
 心不全の定義
 心不全に対する心臓リハビリテーションの有効性
 リハビリテーションの注意点と中止基準
 心不全合併の運動機能障害患者へのリハビリテーションの注意点
 今後の課題

3 慢性腎臓病,腎不全
 CKDとは
 腎代替療法(透析)
 CKDの把握の仕方
 代表的な管理項目とリハビリテーションにおける注意点
 透析患者の注意点

4 末梢動脈疾患(PAD)
 PADとは
 PADの疫学
 PADの臨床症状
 PADの診断
 PADの治療戦略

5 認知症・せん妄
 認知症
 せん妄

6 がん
 はじめに
 がんのStage分類と生命予後
 がん治療における高齢者の包括的評価尺度(CGA)の応用
 高齢がん患者に注意すべき障害(特にADL低下に関連した障害)
 おわりに

7 医薬品による影響
 はじめに
 薬効分類による薬理作用
 加齢による影響
 医薬品相互作用
 おわりに

PartⅣ リハビリテーションに伴うリスク管理
1 意識障害
 意識障害の評価
 意識障害の原因
 意識障害と失神

2 血圧変動,不整脈
 はじめに
 高齢心疾患患者の血圧管理
 リハ中に起こりうるイベント:血圧上昇
 リハ中に起こりうるイベント:血圧低下
 高齢者の不整脈の特徴
 リハ中に起こりうるイベント:新たな不整脈の発症
 『リハ安全ガイドライン』について

3 めまい(vertigo, dizziness, faintness)
 はじめに
 リハビリテーション中のめまいへの対応
 高齢者のめまいの特徴
 めまいを伴う代表的な疾患
 めまいに対するリハビリテーション(Epley法)

4 浮腫
 はじめに
 浮腫
 浮腫の原因の鑑別
 重要な疾患と対応

5 水・電解質異常,脱水
 身体の恒常性
 水分の代謝と水分摂取
 脱水
 気温の上昇:熱中症
 血清電解質
 起立性低血圧
 おわりに

6 消化器疾患
 はじめに
 急性腹症のABC
 生命にかかわる腹痛の鑑別方法と対応

7 悪心・嘔吐
 悪心・嘔吐の機序
 悪心・嘔吐を生じやすい病態
 吐物の性状・嘔吐の出現時期
 嘔吐への対応
 嘔吐によって起こりうる重大な合併症

PartⅤ 高齢者に多い問題への対応
1 低栄養
 はじめに:高齢者に多い低栄養
 栄養状態の評価
 サルコペニアの評価と対応
 経管栄養の適応と問題点

2 嚥下障害
 はじめに
 高齢者の嚥下障害の全体像
 機能評価:嚥下障害の全体像(期モデル)と栄養情報連絡書
 高齢者の経口摂取再開と食事形態のステップアップ
 摂食嚥下のゴールの共有化と多職種地域連携
 呼吸予備能の評価
 経口摂取のみで栄養摂取できない症例へのチームアプローチ
 介助者の問題と社会的ゴールの確認
 嚥下障害の地域連携の可能性
 おわりに

3 排尿障害
 高齢者リハビリテーションにおける排尿障害の知識の必要性
 正常な排尿機能
 排尿障害の原因
 排尿障害の評価法
 排尿障害の治療方法

4 感染症・発熱
 高齢者の発熱(原因と頻度)
 肺炎
 誤嚥性肺炎
 尿路感染
 ワクチン,各種予防
 医療従事者の感染予防

5 転倒対策
 はじめに
 高齢者の転倒の特徴
 転倒と社会的問題
 転倒評価
 転倒を繰り返す症例への対応

PartⅥ 症例紹介
1 脳卒中
 症例
 入院時におけるリハビリテーション計画
 本症例の経過
 まとめ

2 大腿骨頸部骨折に認知症を合併した症例
 症例
 入院時(手術前)におけるリハビリテーション計画
 術後の経過
 まとめ

3 第12胸椎圧迫骨折に併存症を有した症例
 はじめに
 症例
 退院時におけるリハビリテーション計画
 本症例のリハビリテーションの実際
●運動療法
 まとめ

4 肺炎
 はじめに
 症例1
 症例1の経過
 症例2
 症例2の経過
 症例3
 症例3の経過
 症例4
 症例4の経過

5 心不全:重度大動脈弁狭窄症により心不全を繰り返した症例
 症例概要と入院時現症
 入院時におけるリハビリテーション計画
 入院後の治療経過
 リハビリテーション概要:リスク管理とゴール設定
 リハビリテーションの経過
 最終転帰
 まとめ
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