妊娠高血圧症候群 新定義・分類

運用上のポイント

妊娠高血圧症候群 新定義・分類

■編集 日本妊娠高血圧学会

定価 2,750円(税込) (本体2,500円+税)
  • B5判  80ページ  2色
  • 2019年1月18日刊行
  • ISBN978-4-7583-1757-3

妊娠高血圧症候群(HDP)の新定義・分類の変更点,および実臨床での運用上のポイントがわかる一冊

2018年4月に改定された妊娠高血圧症候群の新定義・分類の変更点を知るため,「妊娠高血圧(PIH)の診療指針 2015」の副読本として日本妊娠高血圧学会にて編集された一冊。実臨床における運用上のポイントを解説することを中心に構成されており,「診療指針2015」と合わせて理解することで,妊娠高血圧症候群の診療をアップデートすることができる。


序文

巻頭言

 紀元前2200年に書かれたパピルスに『分娩の日には婦人が舌を噛まぬよう,木片を噛ませる』との子癇の予防処置に関する記載やヒポクラテスによる子癇の記載など,血圧や蛋白尿の評価が可能となる19世紀前半以前においては,人類は痙攣発作(子癇)や浮腫など目に見える症状で妊娠高血圧症候群(HDP)を認識してきた。
 わが国の医学が多大な影響を受けたドイツ学派は,妊娠中毒症を未知の妊娠毒により発症し,浮腫(Ödem)に始まり,妊娠腎(Nephrose),子癇(Eklampsie)へと重症化するものと考えエドネクローゼ(Ödneklose)と総称し,わが国でもこの考え方が知られていた。ドイツ学派の考え方を継承したRippmannらは欧州を中心にOrganization Gestosis(OG)を組織し,妊娠中毒症を浮腫(edema),蛋白尿(proteinuria),高血圧(hypertension)をもたらす妊娠(gest)中の疾患(osis)としてEPH-gestosisと呼ぶことを提唱した。
 一方,米国では1952年にDieckmannらが妊娠中毒症は妊娠によって惹起される浮腫,蛋白尿,高血圧を主徴とする疾患で,重症化すると子癇に至るものと考えた。この考え方は,1976年に組織されたISSHPに引き継がれ,ISSHPはこの3主徴のうち高血圧を重視し,pregnancy induced hypertensionと呼ぶことを提唱した。
 このように欧州と米国で異なった見解を明らかにしていたが,多くの知見が報告され1980年代には次第にOGの考え方よりISSHPの考え方が支持されるようになってきた。一方,1980年代前半には,いまだ明確な定義・分類がなかったわが国も1985年に日本産科婦人科学会が「純粋型妊娠中毒症とは,妊娠偶発合併症の存在によるとは推定しえず,妊娠20週から産褥期(分娩後42日間)までの期間にのみ高血圧・蛋白尿・浮腫などの症状を呈する場合をいう」という定義を提案した。結果的には,ドイツ学派の影響を受けた形の定義・分類であり,その後,病因論的にも臨床的にも高血圧が重要な症状であるとするエビデンスが多数報告されながら,高血圧・蛋白尿・浮腫を3主徴とするとの定義・分類が改定されないまま時が流れた。その結果,わが国の定義・分類は,ISSHPや諸外国のそれと大きく異なることになった。2001年に報告されたISSHPの定義・病型分類は,国際的に混乱していた研究者ごとに異なる対象設定の問題を解決することを目的とした狭義の定義であり,高血圧が最も重要な症状であるとの考え方を基本としたものであった。そのため,わが国でもISSHPや諸外国の定義・分類と整合性を取るべく,2005年に大きく定義・分類が改定され,疾患名も妊娠中毒症から妊娠高血圧症候群に変えられた。2005年以降,改定が行われなかったわが国の定義・分類に対して,ISSHPや諸外国の定義・分類は日々刻々と報告される臨床的・病因論的エビデンスを反映して改定が進められ,再びわが国の定義・分類との整合性が取れなくなってきた。2014年にISSHPは臨床重視の広義の定義・分類を作成した。その基本は,preeclampsiaは妊娠により初めて発症する高血圧と,それに併発する多臓器障害からなる妊娠異常というものになった。近年,わが国からの英文論文の投稿数は飛躍的に増加し,英文雑誌に投稿する際にはISSHPや欧米の定義・分類と整合性の取れない定義・分類を用いることによる不都合が生じる。このため早急な改定の必要性に迫られ,今回の定義・分類の改定に至った。
 今回の改定でISSHPの新定義・分類(2018年)や,米国を含む諸外国の定義・分類との整合性はかなり取れたと考えられるが,未解決の問題も残されている。本学会としては,今後エビデンスを集積し,我が国からの情報発信も含め,より良い定義・分類の構築に努めて行きたい。

2018年12月

日本妊娠高血圧学会
理事長  関 博之
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目次

1 新しい臨床分類について
 妊娠高血圧症候群の定義・分類はなぜ変更されたのですか?  齋藤 滋
 妊娠高血圧症候群の定義・分類の変更点の概要  渡辺員支
 
2 今回のわが国の新分類といわゆる国際分類との異なる点
 国際分類と諸外国の定義・分類の状況  渡辺員支
 superimposed preeclampsiaの捉え方  渡辺員支
 蛋白尿がない妊娠高血圧腎症の診断根拠  渡辺員支
 子宮胎盤機能不全の扱い方  渡辺員支
 
3 重症の記載について
 「重症」という用語の定義  松原圭一
 「軽症」という用語は定義されない根拠  松原圭一
 
4 発症時期
 早発型EO,  遅発型LOの診断基準の変更  田中幹二
 
5 臓器障害
 妊娠高血圧症候群で記載される臓器障害  川端伊久乃
 基礎疾患のない肝機能障害の定義  味村和哉
 進行性の腎障害とは?  森川 守
 蛋白尿の診断と評価  森川 守
 中枢神経障害:脳,神経障害(間代性痙攣・子癇・視野障害・一次性頭痛を除く頭痛など)  中本 收
 血液凝固障害の診断  小出馨子
 胎児発育不全(FGR)の定義,診断と臍帯動脈血流波形異常の診断方法  野平知良
 
6 高血圧合併妊娠
 高血圧合併妊娠とは?  田中幹二
 高血圧合併妊娠の管理  田中幹二
 
7 今後の課題
 白衣高血圧・仮面高血圧  牧野真太郎
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