子どもの感覚運動機能の発達と支援
発達の科学と理論を支援に活かす

定価 5,720円(税込) (本体5,200円+税)
- B5判 320ページ 2色(一部カラー),イラスト200点,写真100点
- 2018年2月3日刊行
- ISBN978-4-7583-1900-3
序文
人(ヒト)の「発達」のメカニズムは,とても複雑で神秘的な現象ともいえます。これを理解しようとするとき,神経系,運動系,認知系,情動系といったさまざまな側面(発達領域)からのアプローチと,胎児期,新生児期,乳児期,幼児期などの各発達段階からといった幅広いとらえ方があります。そして, いずれの側面や段階においても, その「発達」が“activity-dependent(活動依存的)”または“experience-dependent(経験依存的)”に起こることが多くの研究によって明らかにされています。また,最近では環境によって遺伝子のスイッチが変化する“epigenetics(エピジェネティクス)”についても明らかにされ,発達と環境に深い関係があることがわかっています。
では,「発達」の原動力が活動や経験,そして環境であるとするならば,子どもの発達や学習の促進に関わる養育者は,何をみること・考えることが必要でしょうか。また,発達が阻害されている子どもに関わり,その発達をより良い方向へ導こうとするセラピストなどの職種は,何を知る必要があるでしょうか。どのような場面においても,活動を創り出すためには自発的な運動や行動が必要です。そして,経験を生むためには活動に基づいた結果を知ること(知覚)が必要です。本書では,このような運動・活動と知覚の循環を「感覚運動経験」と定義し,感覚運動経験を得るために必要な機能を「感覚運動機能」ととらえています。何らかの疾患が原因となって発達が阻害されている子ども(発達障害児)について,当然ながら器質的な問題点の改善や解決を目指す必要はありますが,一方でその何らかの原因によって発達のエネルギーとなる感覚運動経験がどれだけ制限されているかを考えなくてはなりません。また,感覚運動経験が起こる環境の重要性について考えなくてはなりません。
本書の構成は,第Ⅰ章を「発達総論」として,感覚機能と運動機能の相互的な関連,それらと認知機能との関連,環境との関連などについて発達段階に応じて解説しました。第Ⅱ章は「疾患別各論」として,発達の阻害につながりやすい疾患について,感覚運動機能の評価と発達支援の実際を解説しました。全体を通して,感覚運動経験が「発達」にもつ役割や,その重要性についての理解を深める内容になっています。子どもの発達を理解し,促そうとするとき,発達段階や疾患特性に応じて本書各章を参照いただければ,対象としている子どもの感覚運動機能と感覚運動経験の特徴を知る手がかりとなるでしょう。
日進月歩で進む子どもの感覚運動機能に関する研究と,それに伴って積み重なる知見は,脳科学,神経科学,発達心理学,発達科学などに加え,最近ではロボット工学などにも目を向けて理解を深める必要があり,本書からその必要性を感じとっていただけると思います。本書が,子どもの発達を理解するうえで良質な情報源となり,その促進に関わる方々にとって多くのヒントをもたらすことを期待しています。そして,何より子どもたちの「感覚運動経験」がより良きものとなることを願っております。
2017年12月
著者を代表して 儀間裕貴 大城昌平
では,「発達」の原動力が活動や経験,そして環境であるとするならば,子どもの発達や学習の促進に関わる養育者は,何をみること・考えることが必要でしょうか。また,発達が阻害されている子どもに関わり,その発達をより良い方向へ導こうとするセラピストなどの職種は,何を知る必要があるでしょうか。どのような場面においても,活動を創り出すためには自発的な運動や行動が必要です。そして,経験を生むためには活動に基づいた結果を知ること(知覚)が必要です。本書では,このような運動・活動と知覚の循環を「感覚運動経験」と定義し,感覚運動経験を得るために必要な機能を「感覚運動機能」ととらえています。何らかの疾患が原因となって発達が阻害されている子ども(発達障害児)について,当然ながら器質的な問題点の改善や解決を目指す必要はありますが,一方でその何らかの原因によって発達のエネルギーとなる感覚運動経験がどれだけ制限されているかを考えなくてはなりません。また,感覚運動経験が起こる環境の重要性について考えなくてはなりません。
本書の構成は,第Ⅰ章を「発達総論」として,感覚機能と運動機能の相互的な関連,それらと認知機能との関連,環境との関連などについて発達段階に応じて解説しました。第Ⅱ章は「疾患別各論」として,発達の阻害につながりやすい疾患について,感覚運動機能の評価と発達支援の実際を解説しました。全体を通して,感覚運動経験が「発達」にもつ役割や,その重要性についての理解を深める内容になっています。子どもの発達を理解し,促そうとするとき,発達段階や疾患特性に応じて本書各章を参照いただければ,対象としている子どもの感覚運動機能と感覚運動経験の特徴を知る手がかりとなるでしょう。
日進月歩で進む子どもの感覚運動機能に関する研究と,それに伴って積み重なる知見は,脳科学,神経科学,発達心理学,発達科学などに加え,最近ではロボット工学などにも目を向けて理解を深める必要があり,本書からその必要性を感じとっていただけると思います。本書が,子どもの発達を理解するうえで良質な情報源となり,その促進に関わる方々にとって多くのヒントをもたらすことを期待しています。そして,何より子どもたちの「感覚運動経験」がより良きものとなることを願っております。
2017年12月
著者を代表して 儀間裕貴 大城昌平
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目次
序章 1
「発達」を知る 大城昌平 儀間裕貴
Ⅰ 発達総論
1 感覚運動機能の初期発達に関わる神経メカニズムと発達理論 儀間裕貴
Ⅰ 感覚運動経験の理解と重要性
Ⅱ 運動の生成(自発運動)と感覚運動経験
Ⅲ 発達メカニズムの理解に必要な発達理論
2 胎児・新生児期 大城昌平
Ⅰ 胎児・新生児の神経系(脳)の発達
Ⅱ 感覚機能
Ⅲ 神経系の発達と胎児・新生児の行動による自己組織化
Ⅳ 感覚運動の発達支援
3 乳児期初期(1〜6カ月) 浅野大喜
Ⅰ 姿勢・運動発達
Ⅱ 発達的意義
4 乳児期後期(7〜12カ月) 山西葉子
Ⅰ 感覚機能の発達
Ⅱ 粗大運動の発達
Ⅲ 発達と動機付けの関係
Ⅳ 手の発達
Ⅴ 社会性の発達
Ⅵ おわりに
5 幼児期(1〜3歳) 島谷康司
Ⅰ 姿勢制御の発達
Ⅱ 歩行の発達
6 幼児期後期(4〜5歳) 木元 稔
Ⅰ 粗大運動の発達
Ⅱ 上肢スキルの発達
Ⅲ 認知・思考の発達
Ⅳ 社会性の発達
7 学童期 岩永竜一郎
Ⅰ 感覚発達
Ⅱ 運動発達
Ⅲ 学校で求められる運動スキル
Ⅳ 感覚運動機能の評価
Ⅴ 発達支援について
Ⅵ 学校における支援
8 遊びの発達 鴨下賢一
Ⅰ 遊びとは
Ⅱ 感覚について
Ⅲ 発達障害
Ⅱ 疾患別各論
1 早産・低出生体重児 藤本智久
Ⅰ 感覚運動発達障害の病態と発達の特徴
Ⅱ 感覚運動発達の評価と診方
Ⅲ 感覚運動発達とディベロップメンタルケア
Ⅳ NIDCAP アプローチに基づく行動発達および感覚運動経験の促進
2 脳性麻痺 樋口正勝 儀間裕貴
Ⅰ 脳性麻痺の定義・病理・病態
Ⅱ 脳性麻痺“児・者”の理解
Ⅲ 感覚運動発達の評価
Ⅳ 感覚運動発達の介入と支援
3 重症心身障害 高塩純一
Ⅰ 感覚運動発達障害の病態,発達の特徴
Ⅱ リハビリテーションアプローチとしての提案
Ⅲ まとめ
4 発達障害:DCD,ASD,ADHD 信迫悟志
Ⅰ 発達性協調運動障害(DCD)
Ⅱ 自閉症スペクトラム障害(ASD)
Ⅲ 注意欠陥多動性障害(ADHD)
Ⅳ おわりに
5 遺伝・神経系疾患(特にDown症) 神子嶋 誠
Ⅰ Down症候群の病態
Ⅱ 感覚運動の発達(乳幼児期を中心に)
Ⅲ 感覚運動発達の支援への視点
6 整形疾患 楠本泰士
Ⅰ 感覚運動発達障害の病態,発達の特徴
Ⅱ 感覚運動発達の評価と診方
Ⅲ 感覚運動発達の治療介入,指導と支援
7 小児がん 宮城島沙織
Ⅰ 小児がん
Ⅱ 感覚運動発達障害の病態と発達の特徴
Ⅲ 感覚運動発達の評価
Ⅳ 感覚運動発達の治療介入,指導と支援
「発達」を知る 大城昌平 儀間裕貴
Ⅰ 発達総論
1 感覚運動機能の初期発達に関わる神経メカニズムと発達理論 儀間裕貴
Ⅰ 感覚運動経験の理解と重要性
Ⅱ 運動の生成(自発運動)と感覚運動経験
Ⅲ 発達メカニズムの理解に必要な発達理論
2 胎児・新生児期 大城昌平
Ⅰ 胎児・新生児の神経系(脳)の発達
Ⅱ 感覚機能
Ⅲ 神経系の発達と胎児・新生児の行動による自己組織化
Ⅳ 感覚運動の発達支援
3 乳児期初期(1〜6カ月) 浅野大喜
Ⅰ 姿勢・運動発達
Ⅱ 発達的意義
4 乳児期後期(7〜12カ月) 山西葉子
Ⅰ 感覚機能の発達
Ⅱ 粗大運動の発達
Ⅲ 発達と動機付けの関係
Ⅳ 手の発達
Ⅴ 社会性の発達
Ⅵ おわりに
5 幼児期(1〜3歳) 島谷康司
Ⅰ 姿勢制御の発達
Ⅱ 歩行の発達
6 幼児期後期(4〜5歳) 木元 稔
Ⅰ 粗大運動の発達
Ⅱ 上肢スキルの発達
Ⅲ 認知・思考の発達
Ⅳ 社会性の発達
7 学童期 岩永竜一郎
Ⅰ 感覚発達
Ⅱ 運動発達
Ⅲ 学校で求められる運動スキル
Ⅳ 感覚運動機能の評価
Ⅴ 発達支援について
Ⅵ 学校における支援
8 遊びの発達 鴨下賢一
Ⅰ 遊びとは
Ⅱ 感覚について
Ⅲ 発達障害
Ⅱ 疾患別各論
1 早産・低出生体重児 藤本智久
Ⅰ 感覚運動発達障害の病態と発達の特徴
Ⅱ 感覚運動発達の評価と診方
Ⅲ 感覚運動発達とディベロップメンタルケア
Ⅳ NIDCAP アプローチに基づく行動発達および感覚運動経験の促進
2 脳性麻痺 樋口正勝 儀間裕貴
Ⅰ 脳性麻痺の定義・病理・病態
Ⅱ 脳性麻痺“児・者”の理解
Ⅲ 感覚運動発達の評価
Ⅳ 感覚運動発達の介入と支援
3 重症心身障害 高塩純一
Ⅰ 感覚運動発達障害の病態,発達の特徴
Ⅱ リハビリテーションアプローチとしての提案
Ⅲ まとめ
4 発達障害:DCD,ASD,ADHD 信迫悟志
Ⅰ 発達性協調運動障害(DCD)
Ⅱ 自閉症スペクトラム障害(ASD)
Ⅲ 注意欠陥多動性障害(ADHD)
Ⅳ おわりに
5 遺伝・神経系疾患(特にDown症) 神子嶋 誠
Ⅰ Down症候群の病態
Ⅱ 感覚運動の発達(乳幼児期を中心に)
Ⅲ 感覚運動発達の支援への視点
6 整形疾患 楠本泰士
Ⅰ 感覚運動発達障害の病態,発達の特徴
Ⅱ 感覚運動発達の評価と診方
Ⅲ 感覚運動発達の治療介入,指導と支援
7 小児がん 宮城島沙織
Ⅰ 小児がん
Ⅱ 感覚運動発達障害の病態と発達の特徴
Ⅲ 感覚運動発達の評価
Ⅳ 感覚運動発達の治療介入,指導と支援
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新生児期から学童期の子どもの感覚運動機能の,基本から臨床に活かせる障害の知識と実践までを網羅した1冊
本書は,子どもの感覚運動機能に焦点を当て,正常発達と疾患別に大きく分け,臨床での評価と支援に活かせる1冊である。
Ⅰ章「正常発達」では年齢別に項目を分け,それぞれの時期に運動機能と感覚機能がどのような発達をしていくか丁寧に解説。Ⅱ章「疾患別各論」では,低出生体重児や発達障害など,リハビリテーションの対象となる疾患(障害)を取り上げ,評価と支援を解説。子どものリハビリテーションで必要になる感覚と運動の理解から,両者がどのように関連しているか,疾患(障害)をもつ子どもでは,両者がどのような状態になっているかなど,イラストや写真を交えて丁寧に解説している。
脳科学の発展により,発達に関する最新情報が続々と出てきているが,それらの内容も盛り込んだ実践書である。