子どもの感覚運動機能の発達と支援

発達の科学と理論を支援に活かす

改訂第2版

子どもの感覚運動機能の発達と支援

■編集 儀間 裕貴
大城 昌平

定価 5,940円(税込) (本体5,400円+税)
  • B5判  384ページ  2色,イラスト300点,写真100点
  • 2024年3月3日刊行
  • ISBN978-4-7583-2251-5

子どもの感覚運動機能を基礎から学んで,科学的根拠をもって支援に臨める!

新生児期〜学童期の子どもの感覚運動機能の評価の基本から,臨床に活かせる障害の知識と実践までを網羅する1冊。
改訂にあたっては「感覚運動ワンダリング」をはじめ最新のエビデンスや発達理論に併せて内容をアップデート。また第Ⅲ章「支援に向けての総論」を設けて「睡眠」「口腔・摂食機能」「保育」「学校教育」「特別支援教育」「訪問リハビリテーション」等,支援者にとってより具体的・有用な情報を追加した。
さらに発達障害についてはDCD/ASD/ADHDの3項目に分割してより詳細に解説し,近年クローズアップされている子どもの肥満や痩せの問題や,感覚運動機能の障害から二次的に生じる精神面の障害,社会心理的側面からの解説も追加。
臨床での評価と支援にさらに役立つ改訂第2版!


序文

改訂第2版 序文

 2018年2月に刊行した初版では,人(ヒト)の「発達」が“activity-dependent(活動依存的)”または“experience-dependent(経験依存的)”に起こるメカニズムについて多くの研究知見に基づいて解説するとともに,「発達」の原動力として活動や経験,そしてそれが起こる環境の重要性について理解が深まる内容を整理し,子どものリハビリテーションに関わるセラピストだけでなく,保育や教育を専門とする多くの方々に手に取っていただきました。子どもの発達を理解するうえでの良質な情報源となり,その支援に関わる方々が多くのヒントを得る一助になれたのであれば,著者一同とても幸いに思います。
 2020年に入り,世界は新型コロナウイルスの感染拡大による未曾有の状況へ陥り,同年4月からは日本においても緊急事態宣言が発出され,生活様式が激変しました。子どもたちの“活動”や“経験”も著しく制限され,発達のエネルギーとなる“感覚運動経験”が阻害され,身体的,認知的,社会的な「発達」に及ぼすインパクトの大きさが浮き彫りにされました。療育やリハビリテーション,発達支援を必要とする子どもたちのみならず,すべての子どもたちにとって,十分な感覚運動経験がいかに重要であるかを再認識させられました。
 初版刊行から約6年が経ち,子どもたちが「発達」する環境に大きな変化がありました。また,日進月歩で進む子どもの感覚運動機能に関する研究が,脳科学,神経科学,発達心理学,発達科学,ロボット工学などにおける知見を深化させました。今一度,子どもたちの「発達」が健やかであるために必要な“感覚運動経験”と,それを得るために必要な機能である“感覚運動機能”の理解を深めるため,本書の改訂第2版を刊行します。
 改訂にあたっては,章構成を新たにし,関連分野の第一線で活躍されている研究者に執筆に加わっていただきました。第Ⅰ章「感覚運動機能と発達原理・理論」では,感覚運動機能の理解に必要な発達の原理と理論について詳述し,運動と感覚が紡ぐ「発達」を俯瞰しています。第Ⅱ章「発達総論」では,年齢別に項目を分け,感覚機能と運動機能がそれぞれの時期にどのように発達していくのかについて,最新の神経科学の知見やエビデンス,発達理論に併せて内容をアップデートしました。新しく設けた第Ⅲ章「支援に向けての総論」では,子どもの発達の基盤となる“眠る”,“食べる”,“遊ぶ”ことについて,その発達メカニズムや支援の考え方を解説しています。また,発達支援の実践の場となる“保育”,“学校教育”,“特別支援教育”,“訪問リハビリテーション”にフォーカスし,感覚運動機能の理解に基づいた支援の実際について解説しています。第Ⅳ章「疾患別各論」では,運動の障害によって発達が阻害されやすい代表疾患として“脳性麻痺”,“重症心身障害”,“発達性協調運動症”,感覚の障害によって発達が阻害されやすい代表疾患として“自閉スペクトラム症”,“注意欠如多動症”をピックアップし,各疾患における感覚運動機能の発達特性や,その理解に基づいた発達支援の実際について解説しています。また,近年クローズアップされている“早産・低出生体重”,“小児がん”,“子どもの肥満と痩せや生活習慣病”についてもとりあげ,その概要や発達支援における考え方を解説しています。
 子どもの「発達」を理解し,その「発達」を支援しようとするとき,発達段階や各機能,実践の場,疾患特性などに応じて各章を参照いただくことで,対象としている子どもの「感覚運動機能」の特徴を知る手がかりとなることを期待しています。子どもたちの「感覚運動経験」が健やかであり,その機会が益々充実していくことを願っています。

2024年2月
著者を代表して
儀間裕貴 大城昌平

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第1版 序文

 人(ヒト)の「発達」のメカニズムは,とても複雑で神秘的な現象ともいえます。これを理解しようとするとき,神経系,運動系,認知系,情動系といったさまざまな側面(発達領域)からのアプローチと,胎児期,新生児期,乳児期,幼児期などの各発達段階からといった幅広いとらえ方があります。そして,いずれの側面や段階においても,その「発達」が“activity dependent(活動依存的)”また は“experience-dependent(経験依存的)”に起こることが多くの研究によって明らかにされています。また,最近では環境によって遺伝子のスイッチが変化する“epigenetics(エピジェネティクス)”についても明らかにされ,発達と環境に深い関係があることがわかっています。では,「発達」の原動力が活動や経験,そして環境であるとするならば,子どもの発達や学習の促進に関わる養育者は,何をみること・考えることが必要でしょうか。また,発達が阻害されている子どもに関わり,その発達をより良い方向へ導こうとするセラピストなどの職種は,何を知る必要があるでしょうか。どのような場面においても,活動を創り出すためには自発的な運動や行動が必要です。そして,経験を生むためには活動に基づいた結果を知ること(知覚)が必要です。本書では,このような運動・活動と知覚の循環を「感覚運動経験」と定義し,感覚運動経験を得るために必要な機能を「感覚運動機能」ととらえています。何らかの疾患が原因となって発達が阻害されている子ども(発達障害児)について,当然ながら器質的な問題点の改善や解決を目指す必要はありますが,一方でその何らかの原因によって発達のエネルギーとなる感覚運動経験がどれだけ制限されているかを考えなくてはなりません。また,感覚運動経験が起こる環境の重要性について考えなくてはなりません。
 本書の構成は,第Ⅰ章を「発達総論」として,感覚機能と運動機能の相互的な関連,それらと認知機能との関連,環境との関連などについて発達段階に応じて解説しました。第Ⅱ章は「疾患別各論」として,発達の阻害につながりやすい疾患について,感覚運動機能の評価と発達支援の実際を解説しました。全体を通して,感覚運動経験が「発達」にもつ役割や,その重要性についての理解を深める内容になっています。子どもの発達を理解し,促そうとするとき,発達段階や疾患特性に応じて本書各章を参照いただければ,対象としている子どもの感覚運動機能と感覚運動経験の特徴を知る手がかりとなるでしょう。
 日進月歩で進む子どもの感覚運動機能に関する研究と,それに伴って積み重なる知見は,脳科学,神経科学,発達心理学,発達科学などに加え,最近ではロボット工学などにも目を向けて理解を深める必要があり,本書からその必要性を感じとっていただけると思います。本書が,子どもの発達を理解するうえで良質な情報源となり,その促進に関わる方々にとって多くのヒントをもたらすことを期待しています。そして,何より子どもたちの「感覚運動経験」がより良きものとなることを願っております。

2017年12月
著者を代表して
儀間裕貴 大城昌平
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目次

Ⅰ 感覚運動機能と発達原理・理論
1 人間発達の原理と感覚運動機能  儀間裕貴
  Ⅰ「 発達」とは
  Ⅱ「 動く」ということ
  Ⅲ 運動の生成(自発運動)と感覚運動経験
  Ⅳ 発達初期の感覚運動経験
  Ⅴ 発達のカスケード
2 発達理論の構築:感覚運動機能の発達と神経メカニズムを中心に  金沢星慶
  Ⅰ 感覚運動機能の発達の理解に向けて
  Ⅱ 感覚運動機能の発達に関連するさまざまな観点
  Ⅲ 創発現象としての発達,世界の認識の始まり
Ⅱ 発達総論
1 胎児・新生児期  大城昌平,田中なつみ
  Ⅰ 胎児・新生児期の発達特徴
2 乳児期初期(1~6カ月)  浅野大喜
  Ⅰ 乳児期初期の発達特徴
3 乳児期後期(7~12カ月)  山西葉子
  Ⅰ 乳児期後期の発達特徴
4 幼児期前期(1~3歳)  島谷康司
  Ⅰ 幼児期前期の発達特徴
5 幼児期後期(4~5歳)  木元 稔
  Ⅰ 幼児期後期の発達特徴
6 学童期  岩永竜一郎
  Ⅰ 学童期の発達特徴
Ⅲ 支援に向けての総論
1. 発達の基盤とその支援
1 睡眠の発達と感覚運動経験の支援  豊浦麻記子,若林秀昭,菊池清
  Ⅰ 睡眠の発達と神経機構
  Ⅱ 睡眠と感覚運動機能の関連
  Ⅲ 睡眠の発達支援の理論と実際
2 口腔・摂食機能の発達と感覚運動経験の支援  小島賢司
  Ⅰ 口腔・摂食機能の発達と神経機構
  Ⅱ 口腔・摂食機能と感覚運動機能の関連
  Ⅲ 口腔・摂食機能の発達支援の理論と実際
3 遊びの発達と感覚運動経験の支援  塩津裕康
  Ⅰ 遊びの発達と神経機構
  Ⅱ 遊びと感覚運動機能の関連
  Ⅲ 遊びの発達支援の理論と実際
2. 実践の場における発達と支援
1 保育における感覚運動経験の支援の実際  カルマール良子
  Ⅰ 保育における発達のみ方・とらえ方
  Ⅱ 保育における感覚運動機能
  Ⅲ 保育における感覚運動の発達支援の理論と実際
2 学校教育における感覚運動経験の支援の実際  池田千紗
  Ⅰ 学校教育における発達のみ方・とらえ方
  Ⅱ 学校教育における感覚運動機能
  Ⅲ 学校教育における感覚運動の発達支援の理論と実際
3 特別支援教育における感覚運動経験の支援の実際  松田雅弘
  Ⅰ 特別支援教育における発達のみ方・とらえ方
  Ⅱ 特別支援教育における感覚運動機能
  Ⅲ 特別支援教育における感覚運動の発達支援の理論と実際
4 訪問リハビリテーションにおける感覚運動経験の支援の実際  長島史明
  Ⅰ 訪問リハビリテーションにおける発達のみ方・とらえ方
  Ⅱ 訪問リハビリテーションにおける感覚運動機能
  Ⅲ 訪問リハビリテーションにおける感覚運動の発達支援の理論と実際
Ⅳ 疾患別各論
1. 運動の障害に対する感覚運動経験の支援
1 脳性麻痺  川崎詩歩未,大畑光司
  Ⅰ 障害特徴
  Ⅱ 脳性麻痺と感覚運動障害
  Ⅲ 感覚運動経験
  Ⅳ 社会性
2 重症心身障害  高塩純一
  Ⅰ 発達と障害特徴
Ⅱ 障害と感覚運動機能のつながり
  Ⅲ 感覚運動の発達支援に関連する理論的背景
  Ⅳ 理論を活かした支援の実践
3 発達性協調運動症(DCD)  信迫悟志
  Ⅰ 発達と障害特徴
  Ⅱ 障害と感覚運動機能のつながり
  Ⅲ 感覚運動の発達支援に関連する理論的背景
  Ⅳ 理論を活かした支援の実践
2. 感覚の障害に対する感覚運動経験の支援
1 自閉スペクトラム症(ASD)  松島佳苗
  Ⅰ 発達と障害特徴
  Ⅱ 障害と感覚運動機能のつながり
  Ⅲ 感覚運動の発達支援に関連する理論的背景
  Ⅳ 治療理論や科学的知見を活かした支援の実践
2 注意欠如多動症(ADHD)  岩永裕人
  Ⅰ 発達と障害特徴
  Ⅱ 障害と感覚運動機能のつながり
  Ⅲ 感覚運動の発達支援に関連する理論的背景
  Ⅳ 理論を活かした支援の実践
3. その他の疾患・病態に対する感覚運動経験の支援
1 早産・低出生体重児  有光威志
  Ⅰ 発達と障害特徴
  Ⅱ 感覚運動の発達支援に関連する理論的背景
  Ⅲ 理論を活かした支援の実践
2 小児がん  宮城島沙織
  Ⅰ 発達と障害特徴
  Ⅱ 障害と感覚運動機能のつながり
  Ⅲ 感覚運動の発達支援に関連する理論的背景
  Ⅳ 理論を活かした支援の実践
3 子どもの肥満と痩せ,生活習慣病  楠本泰士
  Ⅰ 発達と障害特徴
  Ⅱ 障害と感覚運動機能のつながり
  Ⅲ 感覚運動の発達支援に関連する理論的背景
  Ⅳ 理論を活かした支援の実践
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