産科危機的出血への対応
改訂第2版
定価 8,580円(税込) (本体7,800円+税)
- B5判 248ページ 2色(一部カラー),イラスト71点,写真18点
- 2024年9月30日刊行
- ISBN978-4-7583-2352-9
電子版
序文
巻頭言
産科危機的出血は,長らく母体死亡原因の第1位で,2010年には約30%を占めていたが,2016年には20%を切り順調に減少してきた。ところが,日本産婦人科医会医療安全部会の妊産婦死亡検討委員会の報告「母体安全への提言2022」によれば,母体死亡は2020年を境に,産科危機的出血は2019年を境に再び微増傾向となり,母体死亡の原因疾患は自殺を除くと2021年以降再び産科危機的出血が第1位になった。世界的に見ても,産科出血は依然として母体死亡原因の第1位で年間15万人が亡くなっている。脳血管障害や羊水塞栓症は迅速かつ適切な治療を行っても母体死亡を回避できない場合があるが,産科危機的出血は早期に診断し,高次医療施設で適切な止血操作と輸液・輸血療法,凝固因子の補充療法を行うことで母体死亡を回避できる疾患である。そのうえ,産科危機的出血では,ローリスクであった症例が急速に生命に危険が及ぶ重篤な状態に陥るので,家族がその病態を理解することはきわめて困難で,患者家族とのコミュニケーションの構築が難しく,医事紛争になることもまれではない。
産科危機的出血による母体死亡を減らすためには,産科危機的出血を早期に診断し,その病態を十分理解したうえで,一次医療施設では応急処置を行ったうえで高次医療施設への早期の搬送,高次医療施設では迅速かつ適切な止血処置,輸液・輸血療法,凝固因子の補充療法などの施行が必要である。
本書は産科危機的出血に対し,早期に診断し,迅速かつ適切に対応することにより,産科危機的出血による母体死亡の減少を目的に,2019年4月1日に第1版を発刊し,多くの産婦人科医や医療従事者から好評を得た。しかし,本書を読み直してみると,重複している項目や加筆が必要な項目が少なからず認められ,さらにこの5年間で新たな知見も報告された。そのうえ,前述したように現在産科危機的出血による母体死亡数が微増傾向にあるため,あらためて本書をより優れたものにし,産科危機的出血による母体死亡数を再び減少させるための一助となるよう改訂を行うこととした。
新たな「産科危機的出血への対応」が,産婦人科医をはじめとする多くの医療従事者の日々の診療に役立つことを祈念している。
2024年9月
埼玉医科大学名誉教授
埼玉医科大学総合医療センター産婦人科客員教授
関 博之
産科危機的出血は,長らく母体死亡原因の第1位で,2010年には約30%を占めていたが,2016年には20%を切り順調に減少してきた。ところが,日本産婦人科医会医療安全部会の妊産婦死亡検討委員会の報告「母体安全への提言2022」によれば,母体死亡は2020年を境に,産科危機的出血は2019年を境に再び微増傾向となり,母体死亡の原因疾患は自殺を除くと2021年以降再び産科危機的出血が第1位になった。世界的に見ても,産科出血は依然として母体死亡原因の第1位で年間15万人が亡くなっている。脳血管障害や羊水塞栓症は迅速かつ適切な治療を行っても母体死亡を回避できない場合があるが,産科危機的出血は早期に診断し,高次医療施設で適切な止血操作と輸液・輸血療法,凝固因子の補充療法を行うことで母体死亡を回避できる疾患である。そのうえ,産科危機的出血では,ローリスクであった症例が急速に生命に危険が及ぶ重篤な状態に陥るので,家族がその病態を理解することはきわめて困難で,患者家族とのコミュニケーションの構築が難しく,医事紛争になることもまれではない。
産科危機的出血による母体死亡を減らすためには,産科危機的出血を早期に診断し,その病態を十分理解したうえで,一次医療施設では応急処置を行ったうえで高次医療施設への早期の搬送,高次医療施設では迅速かつ適切な止血処置,輸液・輸血療法,凝固因子の補充療法などの施行が必要である。
本書は産科危機的出血に対し,早期に診断し,迅速かつ適切に対応することにより,産科危機的出血による母体死亡の減少を目的に,2019年4月1日に第1版を発刊し,多くの産婦人科医や医療従事者から好評を得た。しかし,本書を読み直してみると,重複している項目や加筆が必要な項目が少なからず認められ,さらにこの5年間で新たな知見も報告された。そのうえ,前述したように現在産科危機的出血による母体死亡数が微増傾向にあるため,あらためて本書をより優れたものにし,産科危機的出血による母体死亡数を再び減少させるための一助となるよう改訂を行うこととした。
新たな「産科危機的出血への対応」が,産婦人科医をはじめとする多くの医療従事者の日々の診療に役立つことを祈念している。
2024年9月
埼玉医科大学名誉教授
埼玉医科大学総合医療センター産婦人科客員教授
関 博之
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目次
PartⅠ 総論
1産科危機的出血の疫学
1 ) 母体死亡の原因
2 ) 産科危機的出血への対応指針2022
3 ) 2024年改訂版産科DIC 診断基準
4 ) 産科危機的出血の概念
5 ) 産科危機的出血と診断するための出血量の目安
2輸血の基本(総論)
1 ) 輸血の基本
3凝固線溶系の基礎知識
1 ) 凝固系のしくみ
2 ) 凝固制御系のしくみ
3 ) 線溶系のしくみ
4 ) 凝固線溶系とキニン・カリクレイン系
4妊婦の循環動態の特殊性
1 ) 循環血液量の増加
2 ) 凝固の亢進と線溶の抑制
3 ) 側副血行路の発達
5産科危機的出血の特殊性
1 ) 希釈性凝固障害
希釈性凝固障害とは
フィブリノゲンの重要性
低フィブリノゲン血症による出血症状
2 ) 消費性凝固障害
消費性凝固障害とは(産科領域での消費性凝固障害)
消費性凝固障害を診断・治療するための臨床検査
3 ) 出血量の評価
6産科危機的出血の原因疾患
1 ) 総論:経腟分娩および帝王切開術における対応フローチャート
2 ) 産道損傷
3 ) 弛緩出血
4 ) 常位胎盤早期剥離
5 ) 前置胎盤
6 ) 子宮内反症
7 ) 羊水塞栓症
病型・病因・病態
診断
対応
PartⅡ 実践編
7産科危機的出血の止血法
1 ) 薬物療法
弛緩出血に対する子宮収縮薬
トラネキサム酸(TXA)
2 ) 外科的処置
軟産道裂傷に対する縫合
uterine compression suture
動脈結紮術
子宮内タンポナーデ(ガーゼ・バルーン)
癒着胎盤に対するballoon occlusion 法
transcatheter arterial embolization(TAE)
TAEの合併症
damage control surgery(DCS)とは
damage control surgery(DCS)の実際
8産科危機的出血への輸血療法
1 ) 産科危機的出血に対する輸血療法の特殊性
hemostatic resuscitation
大量出血における凝固障害の発生機序
凝固障害の増悪過程
消費性凝固障害における凝固障害の発生機序と増悪過程
massive transfusion protocolとは
massive transfusion protocolの実際
2 ) 異型適合輸血
濃厚赤血球
新鮮凍結血漿(FFP),濃厚血小板
3 ) point of care testing(POCT)
4 ) フィブリノゲンの補充療法
フィブリノゲン製剤
フィブリノゲンとは
新鮮凍結血漿(FFP)とフィブリノゲン製剤の比較
フィブリノゲン製剤の投与が臨床的アウトカムに与える影響
5 ) 凝固因子補充
6 ) クリオプレシピテート
7 ) 第XIII因子製剤
8 ) 活性型第Ⅶ因子製剤
9 ) プロトロンビン複合体製剤
10 ) トロンボモジュリン製剤
11 ) その他の抗凝固薬およびC1インヒビター
9産科領域における貯血式自己血輸血の利点と限界
1 ) 自己血輸血とは
2 ) 適切な貯血量
10母体救命処置
1 ) 母体救命症例とは
2 ) 蘇生法の実際
心臓マッサージ(胸骨圧迫)
気道確保とバッグ・マスク換気
酸素投与
鎮静・鎮痛
3 ) アシドーシス・低体温・電解質異常の補正
4 ) 循環血液量を維持するための輸液とモニタリング
5 ) resuscitative endovascular balloon occlusion of the aorta(REBOA)
REBOA の概要
REBOA の実際
11産科危機的出血の搬送システム
1 ) 産科危機的出血の搬送システム
1産科危機的出血の疫学
1 ) 母体死亡の原因
2 ) 産科危機的出血への対応指針2022
3 ) 2024年改訂版産科DIC 診断基準
4 ) 産科危機的出血の概念
5 ) 産科危機的出血と診断するための出血量の目安
2輸血の基本(総論)
1 ) 輸血の基本
3凝固線溶系の基礎知識
1 ) 凝固系のしくみ
2 ) 凝固制御系のしくみ
3 ) 線溶系のしくみ
4 ) 凝固線溶系とキニン・カリクレイン系
4妊婦の循環動態の特殊性
1 ) 循環血液量の増加
2 ) 凝固の亢進と線溶の抑制
3 ) 側副血行路の発達
5産科危機的出血の特殊性
1 ) 希釈性凝固障害
希釈性凝固障害とは
フィブリノゲンの重要性
低フィブリノゲン血症による出血症状
2 ) 消費性凝固障害
消費性凝固障害とは(産科領域での消費性凝固障害)
消費性凝固障害を診断・治療するための臨床検査
3 ) 出血量の評価
6産科危機的出血の原因疾患
1 ) 総論:経腟分娩および帝王切開術における対応フローチャート
2 ) 産道損傷
3 ) 弛緩出血
4 ) 常位胎盤早期剥離
5 ) 前置胎盤
6 ) 子宮内反症
7 ) 羊水塞栓症
病型・病因・病態
診断
対応
PartⅡ 実践編
7産科危機的出血の止血法
1 ) 薬物療法
弛緩出血に対する子宮収縮薬
トラネキサム酸(TXA)
2 ) 外科的処置
軟産道裂傷に対する縫合
uterine compression suture
動脈結紮術
子宮内タンポナーデ(ガーゼ・バルーン)
癒着胎盤に対するballoon occlusion 法
transcatheter arterial embolization(TAE)
TAEの合併症
damage control surgery(DCS)とは
damage control surgery(DCS)の実際
8産科危機的出血への輸血療法
1 ) 産科危機的出血に対する輸血療法の特殊性
hemostatic resuscitation
大量出血における凝固障害の発生機序
凝固障害の増悪過程
消費性凝固障害における凝固障害の発生機序と増悪過程
massive transfusion protocolとは
massive transfusion protocolの実際
2 ) 異型適合輸血
濃厚赤血球
新鮮凍結血漿(FFP),濃厚血小板
3 ) point of care testing(POCT)
4 ) フィブリノゲンの補充療法
フィブリノゲン製剤
フィブリノゲンとは
新鮮凍結血漿(FFP)とフィブリノゲン製剤の比較
フィブリノゲン製剤の投与が臨床的アウトカムに与える影響
5 ) 凝固因子補充
6 ) クリオプレシピテート
7 ) 第XIII因子製剤
8 ) 活性型第Ⅶ因子製剤
9 ) プロトロンビン複合体製剤
10 ) トロンボモジュリン製剤
11 ) その他の抗凝固薬およびC1インヒビター
9産科領域における貯血式自己血輸血の利点と限界
1 ) 自己血輸血とは
2 ) 適切な貯血量
10母体救命処置
1 ) 母体救命症例とは
2 ) 蘇生法の実際
心臓マッサージ(胸骨圧迫)
気道確保とバッグ・マスク換気
酸素投与
鎮静・鎮痛
3 ) アシドーシス・低体温・電解質異常の補正
4 ) 循環血液量を維持するための輸液とモニタリング
5 ) resuscitative endovascular balloon occlusion of the aorta(REBOA)
REBOA の概要
REBOA の実際
11産科危機的出血の搬送システム
1 ) 産科危機的出血の搬送システム
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