日常診療に活かす老年病ガイドブック 8

高齢者の退院支援と在宅医療

高齢者の退院支援と在宅医療

■担当編集委員 大内 尉義

定価 9,900円(税込) (本体9,000円+税)
  • B5判  248ページ  2色
  • 2006年6月12日刊行
  • ISBN978-4-7583-0283-8

超高齢社会を迎えるわが国の医師必携シリーズ

超高齢社会の到来に伴い,患者の高齢化も進んでくる。しかし患者が受診する医師は昔からのかかりつけ医などの一般内科医が中心で,「老年病専門医」であるとは限らない。高齢者特有の症候群など,高齢者の特徴をより理解し,実際の診療に反映できることを目的に,老年病のスペシャリストがわかりやすく解説する。
本巻では高齢者では特に重要な退院後の医療の問題を取り上げ,退院支援,さらに在宅医療,介護についての注意点を解説した。

■シリーズ監修
大内尉義

■シリーズ編集
大内尉義/井藤英喜/三木哲郎/鳥羽研二


序文

高齢者の退院支援と在宅医療

大内尉義東京大学大学院医学系研究科加齢医学講座教授

 現在,わが国の65歳以上の高齢人口は2,576.9万人と,総人口の20.2%となっているが(2006年1月;総務省統計局人口推計月報による),高齢人口は今後さらに増加し,2015年には総人口の26.0%が高齢者という超高齢社会を迎えることが予想されている。高齢者は,前期高齢者(65〜74歳),後期高齢者(75〜89歳),超高齢者(90歳以上)に区分される。わが国の人口動態予測では,特に75歳以上の後期高齢者と超高齢者の増加が著しく,現在では総人口の9.2%であるが,2020年までに倍増すると考えられている。すなわち,わが国の高齢人口の増加は後期高齢者の増加が特徴となっている。一般的に高齢前期では元気で活動的な人が多いが,高齢後期以降になると,慢性疾患を有する頻度が著しく増加するとともに,日常生活動作(ADL)など,身体機能に障害を有する者の頻度が増加し,医療とともに介護の必要度が増加する。そこで,このような障害を有する高齢者の医療と介護をどのように適切に行うか,そのシステムを確立することが急務となっている。
 高齢者,特に後期高齢者の著しい増加に伴って疾病構造は変化し,また医療ニーズを有する患者の在宅医療が可能になったことにより,患者が疾病を有しながらも,地域や家庭において自立した生活が送れることが求められるようになった。一方,国民医療費は国民所得の約8%を占め,なかでも国民医療費の3分の1を占める老人医療費の伸びが著しいものとなっている。そのため,国は医療改革を推し進め,病院機能の分化,診療報酬の改定などにより,早期退院の促進が図られている。その結果,平均在院日数は著しく短縮化し,「施設医療」から「在宅医療・介護」への移行が推進されるなど,医療をとりまく状況にはドラスティックな変化が起こっている。このような医療構造の変化は患者,特に高齢者の退院と社会復帰に多くの困難を引き起こしている。たとえば,在院日数の短縮化の進行に伴い,多くの急性期病院においては,早期治療,早期退院の方向がとられ,退院をめぐっての深刻な問題が発生することになる。また,慢性期病院においては,退院後の心身の機能の維持のためのケアの継続をいかに確保するかが問題となる。
 このような状況の下,退院後も安心して療養できる環境の確保を計画的に実施する,いわゆる退院計画discharge planningの必要性が広く認められるようになった。すなわち,地域の医療施設との連携,ネットワークを構築し,訪問看護などの在宅診療を活用することにより,円滑な退院と退院後のQOLを保持した生活を確保するための退院計画に基づく医療支援(退院支援)の必要性が,わが国においても急速に高まっているのである1)。疾患,ADL,家族構成,経済状況など,患者を取りまく医療環境,社会環境全般を考慮して,患者とその家族にとって最も幸福な生活環境を提供することが退院支援の目標であり,在宅医療の実践ともきわめて深い関係にある。具体的には,医師,看護師,Medical Social Worker(MSW)などによる多職種が共同して,転院,施設入所,在宅などの退院先の確保,介護保険サービスの利用,かかり付け医の選定や連絡,調整など,退院後の生活環境,医療環境を整備する支援活動が行われている。
 臨床,教育,研究を担う大学病院においても退院支援は重要である。大学病院の使命は高度先進医療を研究,開発し,それを実施することであるが,公平・公正かつ効率的に行う義務を有しており,円滑で適切な退院の流れを構築することが,大学病院の使命を果たす上で重要な意義を有しているのである。このような背景から,平成9年に,国立大学病院としては初めて,東京大学医学部附属病院に退院支援を行う専門部署として,「医療社会福祉部」(平成17年に地域医療連携部と改称)が設置されたが,その後,このような退院支援を専門に行う部署が殆どの国立大学病院に設置された。
 本書は,このような退院計画,退院支援と在宅医療をテーマにして,第一線の方々に執筆をお願いした。内容は,退院計画,退院支援の歴史,倫理的背景から実際の症例の分析,地域医療ネットワークの構築,在宅医療の組み立て方などの実践的なものまで多岐にわたっており,退院計画,退院支援と在宅医療に関する最新の情報を提供しうると考えている。退院支援は,今後の高齢社会においてきわめて重要な活動であり,本書がわが国における適切な退院支援と在宅医療の普及に貢献することを期待している。

1)大内尉義,村嶋幸代(監修):退院支援—東大病院医療社会福祉部の実践から—.2002,杏林書院,東京.
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目次

序論:高齢者の退院支援と在宅医療
1)退院計画と退院支援の歴史と概念
2)退院支援の具体的なプロセス
  a. 対象者のスクリーニング
  b. ニーズのアセスメント
  c. 退院支援のプランニング
  d. フォローアップの意義と実際
3)退院支援の必要な患者のスクリーニング法の詳細
4)介護保険の仕組みと申請法
5)退院支援の実際
  a. 慢性期病院に向けての退院支援
  b. 施設ケアに向けての退院支援
  c. 在宅に向けての退院支援
  d. 退院支援の奏効した例
6)退院困難例への対処の実際
  a. 医療依存度の高い高齢者
  b. 経口摂取のできない高齢者
  c. 痴呆のある高齢者
  d. 感染症のある高齢者
  e. 終末期にある高齢者
7)在宅医療とその条件(家族,経済…)
8)高齢者の在宅医療と医療スタッフの役割
9)高齢者の在宅医療に向けての住環境の整備
10)高齢者在宅医療の実際
  a. 人工呼吸器の管理
  b. 酸素療法の管理
  c. 経管栄養の管理
  d. IVHの管理
  e. 褥創の管理
  f. 排泄の管理
  g. 尿道カテーテルの管理
  h. 異常行動への対処
  i. 転倒の予防長屋政博
原田 敦
11)デイケア,デイサービスの利用法
12)介護者の健康をいかに守るか
13)在宅医療の質の評価
14)在宅医療へのITの応用
15)退院支援,在宅医療のための地域医療ネットワークの構築
16)在宅医療と地域医療連携:尾道モデル
17)退院支援,在宅医療の推進と医療経済
付録:高齢者の在宅医療,退院支援のための法律一覧
こらむ
 平均在院日数とは
 退院支援におけるMSWの役割
 成年後見制度
 在宅医療とケアマネージャー
 独居高齢者の安全チェック
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