高齢者の転倒予防ガイドライン

高齢者の転倒予防ガイドライン

■監修 鳥羽 研二

定価 3,850円(税込) (本体3,500円+税)
  • i_cdrom.jpg
  • B5判  176ページ  2色(一部カラー),CD-ROM付き
  • 2012年7月4日刊行
  • ISBN978-4-7583-0485-6

転ばぬ先のガイドライン:転んでからでは遅すぎる!

原因の8割以上が転倒である大腿骨頸部骨折は年々増加しており,寝たきりの主因となっている。長寿科学総合研究事業転倒予防ガイドライン研究班では,いかに転倒を予防するか,転倒危険因子21項目に対するケアプランを作成,転倒予防手帳を作成・配布している。
今回のさらなる研究で転倒予防効果があると言われている因子について,エビデンスを提示したガイドラインを作成した。「転倒予防手帳」PDFの入ったCD-ROM付き。


序文

転倒予防ガイドライン
―今なぜ必要か―

鳥羽研二

 転倒骨折は,寝たきりの3番目の原因として重要である。
 骨折予防効果のある骨粗鬆症薬が登場して久しいが,依然として大腿骨頸部骨折は増加している。高齢人口の伸びを考慮しても,骨折の原因の86%を占める転倒予防対策が不十分であることは明らかである。
 従来「転倒は事故」,骨折は「骨粗鬆症を基盤とする疾患」という硬直したとらえ方がなされてきた。このため,転倒は自宅では個人の責任,病院の敷地に一歩入ったとたんに医療機関の責任という奇妙な構図に誰も異論を唱えず,「転倒」が内的因子と外的因子の双方から起きる症候であるにもかかわらず,外的因子は「バリアフリー」,内的因子は施設や院内の「事故防止委員会」などがもてはやされ,リスクマネージメントの対象とされてきた。転倒の危険因子のうちのどれが重要かを判定して,その順に予防対策を立てるといった科学的アプローチが決定的に欠けており,医療政策にも,街づくりにも生かされてこなかった。
 転倒のリスクの評価は,施設入所者をベースに組み立てられており,環境要因への配慮がない(Morse Fall Scale[1989], STRATIFY[1997])。本ガイドラインの端緒はこのような反省に立って,2000年から始まったミレニアムプロジェクトの骨運動器研究の複数の研究班の班長が一同に集まり,「地域住民に適応できる転倒リスク評価の標準版」を作成することから始まった。
 この完成版が「転倒スコア:Fall Risk Index;FRI」である。
 転倒スコアは環境要因も得点化し,再現性,妥当性,有用性を検討した,唯一のリスク評価法である(鳥羽:日老医誌,2005)。また従来,重心動揺計,一分間歩行テストなど,特殊機器や検査員が必要な方法が省略可能となった点も重要である(松林,2008年長寿報告書)。
 本スコアを用いて,全国7地域2,500名以上で調査した結果は,衝撃的なものであった。従来,危険因子とされた「段差」は転倒者と非転倒者で差がなく,町のバリアフリーを進める行政の根拠は崩れたと言っても過言ではない。
 転倒スコア下位項目は各ケアプラン策定の項目になる。虚弱の強い集団での予防体操の効果はきわめて限定的で(大河内,2007年報告書),前期高齢者では転倒予防効果が認められた(鳥羽,2007年長寿報告書)。以上から,運動介入は持続性を担保するため,家庭でも取り入れられ,短時間で気軽にでき,転倒関連筋骨格系に対し,重点的な作用をもつ方策が求められる。
 転倒スコアの研究から,重要な5つの因子が抽出され,猫背やつまずきが危険因子として抽出されたことから,姿勢と転倒,脳と転倒に着目して研究が継続され,歩行と転倒の動的観察に基づき,足関節筋力と柔軟性,膝関節屈曲,脊椎後彎と転倒の関連を明らかにし,姿勢による転倒危険度を測定する「Dorsiflex meter」が開発され,実用に至っている(Toba, et al: GGI, in press)。
 また,転倒のメカニズムの研究から,重点的に行うべきストレッチ,筋力向上の部位が示され,簡便な転倒予防体操や有効な履物が明らかになった。バランス,つまずきと脳虚血の関連を調査し,血圧や脳循環の影響が明らかになり,予防薬開発への基礎的データとなった。筋肉減少の新たな血液マーカーとしてビタミンC,MuSKを発見した。
 高齢者の転倒は疾患であり,事故ではない。転倒は,身体的要因(内的要因)と環境因子(外的要因)によって起きると解説されてきた。ところが,われわれの日本7地域の住民調査で,転倒者と非転倒者の環境要因を比較したところ,家の中の段差は「段差あり」が両者とも69%で全く差がなく,階段の使用も,坂道も差がなかった。差があった項目は「家の中が片付いていない」,「家の中が暗く感ずる」といった,整頓や照明の工夫で対処できるものであり,事故というより身体的原因に起因する「疾患」,「症候群」として転倒をとらえ,転倒予防にかける経費は,バリアフリーより身体的な工夫を生かした「予防医療」に注がなくてはならない。
 以上,10年間の研究班の集大成として転倒危険者を簡単に予測し,転倒数を減少させる有効な方法を確立し,ガイドラインを策定するに至った。
 本ガイドラインには,内外の文献から,転倒の危険因子や予防方法に関し,質の高い研究結果に基づくエビデンスを検討する「ガイドライン」本来の系統的知識集約といった部分と,転倒のもつ重要性を再認識していただく「啓発的知識」の部分に加え,日常の注意を読者が転倒スコアをチェックリストとして使用し,当てはまる項目から,何に注意したらいいかを図解入りで解説した「転倒予防手帳」がCDで付録についている。
 各自治体や医療福祉関係者が,版権を気にすることなく自由に活用していただき,一人でも高齢者の転倒骨折が減るようにというのが,本ガイドライン執筆者全員の願いである。
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目次

Ⅰ.転倒リスク評価(転倒予測)
地域
 Fall Risk Index(FRI)
 Fall Risk Index(FRI):複数転倒予測
 Fall Risk Index(FRI):他の測定方法との多変量解析
 Timed“Up and Go”testと転倒スコア(FRI-21)
 歩行速度
 片足立ち時間
 タンデム歩行
 ファンクショナルリーチ
 ハンカチテスト
 重心動揺計
 足関節背屈角度(Dorsiflex meter)
 環境因子
 ビタミンD濃度
病院・施設
 入院アセスメントシート

Ⅱ.転倒を増加させる疾患と病態
 認知症/認知障害
 視力障害と転倒
 内耳障害と転倒
 脳梗塞・白質病変
 糖尿病
 高血圧
 肥満(メタボリック症候群)
 排尿障害
 骨粗鬆症
 サルコペニア
 LOH(late onset hypogonadism)
 Frail
 薬剤投与
 栄養バランス

Ⅲ.転倒予防
 啓発事業(転倒予防手帳)
 運動
 薬剤整理
 ビタミンD
 アロマセラピー

Appendix
転倒危険因子のもつ意味
 地域高齢者における転倒リスクスコアとADL、QOLについて
 地域在住高齢者における介護予防指標、転倒リスクの縦断的変化と関連性
 転倒と骨折、骨折と転倒
  高齢者の骨折に関する転倒の寄与率
  骨折後生存率
  椎体骨折による姿勢異常がもたらす転倒リスクの上昇とその管理
転倒ケアプラン
 施設:転倒ケアプラン
 入所者の転倒予防ケアプラン
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