介護予防のためのベストケアリング

高齢者が元気にくらしていくために

介護予防のためのベストケアリング

■編集 松田 ひとみ
水上 勝義
柳 久子
岡本 紀子

定価 2,750円(税込) (本体2,500円+税)
  • B5判  208ページ  2色(一部カラー)
  • 2016年9月26日刊行
  • ISBN978-4-7583-0493-1

筑波大学の専門家たちによる,介護予防や健康生活を実現するための指南書

高齢者自身の持っている力を活用することを目指し,介護予防と健康生活実現のための「セルフケア」に役立てるための健康生活実践書。健康長寿を目指す日本の高齢者において,セルフケアの観点から,「生活リズムの変調に伴う問題と改善するためのアプローチ」「これに関連する自殺率の高さと孤独に注目した人間関係や社会的問題」を取り上げ,これらを支援する方法を「わかりやすく」「取り組みやすく」解説している。


序文

刊行によせて
 本邦は,現在急速な少子高齢化社会が進んでいます。65歳以上の高齢者人口は平成27(2015)年現在3,384万人,総人口に占める割合は26.7%となり,4人に1人以上が高齢者となりました。また80歳以上の人口が初めて1,000万人を超えました。高齢者人口の増加とともに要介護高齢者の数も増加しています。要支援を含む要介護認定者数は,平成27年で607万人となり,2000年度施行当初の256万人に比べて,およそ350万人増加しています。その一方で,少子化と高齢者世帯の増加によって家庭内の介護パワーが減少し,家族だけで介護を完結することが困難な状況となっています。介護する家族の6割以上がストレスを感じており,それは介護うつや不眠などのように精神や身体の健康問題にも波及するばかりでなく,深刻な社会問題としても注目を集めています。それと同時に介護者の健康問題はケアサービスの内容や質に関連しますから,介護を受ける側の高齢者の健康状態に影響を与えることも知られています。たとえば,認知症高齢者の行動・心理症状はその代表的なものの1つです。ケアをする側の態度やサービスの提供の仕方で,認知症の高齢者の行動・心理症状がしばしば悪化し,その結果介護者のストレスがさらに増大する悪循環につながります。
 こうしてみるとケアの仕方は介護者と要介護者の双方にとって,とても大切なことがおわかりいただけると思います。本書は「高齢者のケア」をキーワーズとして,筑波大学大学院ヒューマン・ケア科学専攻の教員をはじめとして医学,看護学,福祉学,心理学などさまざまな領域の研究者たちが,現在介護に関わりご尽力されている皆さんや,介護をこれから勉強しようとしている皆さんのために,要介護高齢者の心身の状態に関する理解を深めベストなケアを提供できるようわかりやすく解説しています。また本書は,ケアの実践的な解説に留まらず,介護予防の観点から高齢者が元気に生活するための方法についてもわかりやすく紹介されていますので,健康で自立した生活から介護を受けている高齢者まで,あるいは介護をしている方々などの健康維持にも役立つ内容となっています。
 本書が,幅広く活用され読者の皆様にケアに関する理解を深めていただく一助となれば幸いです。

平成28年9月
水上勝義

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本書のねらい
 日本の高齢者の多くは健康への関心が高く,普段から体力づくりや認知機能を低下させないように努力しています。それはまさしく可能な限り介護を受けないように,自らが課題を設けて取り組んでいる真摯な姿でもあります。一方,介護を受ける生活を過ごされている方もおられ,さまざまな葛藤や不安と共に日々の暮らしを営まれていることも確かです。
 本書は,そのような高齢者の方々やご家族のお役に立てるように医学,看護学,体育科学,心理学,社会福祉学の専門家が集い,より健康に,より幸福を実感できるように支援したいと考え企画したものです。
 まず本書において,複数の学問領域の専門家が,その知識と技術を結集した内容を皆様にお届けする理由(背景)をご説明します。
 超高齢社会の日本ですが,平均寿命だけではなく健康寿命が世界一であることは大変誇らしいことです。しかし,高齢者の皆様の全体像を理解するためには相反する厳しい実情を捉えておく必要があります。そこで高齢者の立場から3つの問題に注目してみましょう。1つめには,日本の高齢者の自殺率の高さです。先進諸国の中では高齢者の自殺率が高いことや,それを証明するかのように米国等に比べて高齢になるほど主観的幸福感が低くなるという特徴があります。自殺の最大の理由には,健康問題があげられます。高齢者にとっても,健康であることが,長生きの重大な条件になっている可能性があります。仮に病気になっても介護を受けないで過ごせるようにという願いがあります。この健康への願望に応えていくために,多領域の専門的な知識と技術を提供することが,自殺予防に大きく貢献すると考えられました。2つめには,高齢者の孤独と交流に関する問題です。日本では高齢者だけの世帯(ひとり暮らし,夫婦のみ)が5割以上になり,別居している家族との交流やご近所づきあいが少なくなっています。自殺や幸福感にも関連する様相ですが,近隣の人々と交流が乏しくなると,それは死亡率を高めるという報告があります。一方,高齢者の未来像を描くうえで重大な若者世代(高校生)ですが,老親扶養意識について残念な報告がありました。「どんなことをしてでも自分で老いた親の世話をしたい」の回答が5か国調査で日本は最下位です(国立青少年教育振興機構,平成27年8月28日)。高齢者の精神的な支柱ともなる若い世代を交えて,交流の基盤である会話の意味を今一度掘り下げていく必要があります。孤独やうつ,人間関係や会話の意味について,精神医学,心理学,看護学の観点から論じていく必要性があります。3つめには,高齢者の不眠症が3割以上にもおよぶことです。昔のお年寄りの特徴とされていた「早寝早起き」ではなく,現代は「遅寝早起き」の高齢者が増えてきました。つまり,睡眠時間が短くなっているのです。これに加えて短い睡眠時間であるにもかかわらず,眠れない状態が続くと,免疫力が低下したり,昼間の活動にも影響します。昼間に元気よく過ごせない状態は,学習する力を低下させて認知機能にも影響していきます。自殺やうつ症状にも不眠が関連するといわれています。このような負の連鎖を断つためにも,夜間はよく眠り,昼間は活気が出るような生活リズムの調整が必要であり,老年医学や看護学による提案が参考にできると思われました。
 以上より,本書は健康長寿を目指す日本の高齢者が,まず自分でできること(セルフケア)を探り,その観点から生活リズムを整えることの大切さを説明します。規則的なリズムで生活することだけではなく,昼間の活動と休息,夜間の睡眠の時間帯にも注目していきます。また,加齢に伴う健康問題として,主要な疾病と自殺率の高さおよび孤独に注目した人間関係や社会的問題をとりあげ,これらを支援する方法を「わかりやすく」「取り組みやすく」を基本方針として知識と具体策を提供します。
 以下の3部構成としました。
1.高齢者の生活リズムの変調に基づく問題
2.高齢者の人間関係を阻害する要因と社会的問題:孤独とうつ,自殺との関係,難聴,虐待
3.高齢者と介護家族を支援する方法と体制:会話ケアの可能性,遠隔看護システム,認知行動療法,転倒予防,家族を支えるための介護保険制度

 本書で使用する主要な語句について,既にお気づきの方もおられると思いますが,まず「老人,お年寄り」などを集約して「高齢者」という言葉に統一しました。そして,「高齢者」とは,その年齢を65歳以上として捉えることにします。このようなご理解でお読みくださいますようお願いします。

松田ひとみ
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目次

第1部 高齢者の睡眠と生活リズムを整える意味
 1.高齢者の睡眠
 2.免疫力低下からくる呼吸器感染症(肺炎、風邪)
 3.高齢者の生活習慣病と非感染性疾患
 4.高齢者の不整脈
 5.変形性膝関節症と腰椎圧迫骨折
 6.年齢によるもの忘れと認知症

第2部 高齢者の人間関係や交流を阻害する要因と社会的問題
 1.高齢者の心の問題̶—孤立、閉じこもり、うつ、自殺
 2.難聴と精神、社会的交流
 3.家族と高齢者とのコミュニケーション、精神的健康
 4.老親等への介護のために離職する家族

第3部 高齢者と介護家族のための最新健康増進法と支援システム
 1.高齢者のこころ・精神機能のアセスメント
 2.会話ケアの効果
 3.遠隔看護技術の活用
 4.バランスのとれた考え方に変え健康を増進する方法
 5.転倒の危険な状態と予防方法
 6.高齢者の健幸華齢(successful aging)に向けた体力づくり
 7.高齢者と家族が活用する社会の支援制度
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