妊娠中毒症から妊娠高血圧症候群へ
過去から未来へ

定価 9,350円(税込) (本体8,500円+税)
- B5判 320ページ
- 2005年3月25日刊行
- ISBN978-4-7583-0524-2
序文
本年は我が国での“妊娠中毒症”研究が研究会または学会のような組織を基盤として進められるようになって25年が経過した年に当たる。即ち昭和55年(1980)10月12日仙台市で鈴木雅洲当番世話人にもとで第1回日本妊娠中毒症研究会が開かれ,14回の研究会が持たれ,その後松山での第14回研究会開催時(平成5年(1993)9月5日)日本妊娠中毒症学会が発足し,現在に至り本年第25回日本妊娠中毒症学会が中林会長のもとで開催される。非常に悦ばしいことで慶賀の念に耐えない。“妊娠中毒症”研究は,産婦人科領域では中心的研究課題であり,昭和28年日産婦学会に妊娠中毒症委員会(中山栄之助委員長)が設けられ,その後委員会を中心に研究が精力的に続けられてきた。なかでも,真柄,加来教授の“妊娠中毒症”の病因論についての論戦は,我が国の“妊娠中毒症”研究のハイライトと呼べるものでその内容の高さと先見性は当時の世界の学会をリードしていた。他方,“妊娠中毒症”は昔から学説の疾患と言われてきたが,それは病態論についてもその本態の混沌さ,即ち高血圧,蛋白尿,浮腫の3徴候が同等に論じられる症候論がその混沌さを更に増幅させてきた。それは“妊娠中毒症”の定義・分類・診断が3症候を基本としたものであるためで1982年に作成されたものもその基本が遵守されていた。しかし,国際的には“妊娠中毒症”の病態本態は高血圧であるとの考えが一般化し,それを基本とした定義・分類が一般趨勢として用いられている。そのため,国際的に普遍性のある“妊娠中毒症”の定義・分類への改変を目的として日本妊娠中毒症学会に検討委員会(妊娠中毒症定義・分類小委員会:高木健次郎委員長)を設け,15回の開催の後,「新しい“妊娠中毒症”(妊娠高血圧症候群)の定義・分類試案(2004)」として日産婦学会に答申した(平成16年(2004)1月)。平成16年度第1回日産婦学会臨時理事会(平成16年(2004)7月23日)で審議承認されたので,平成17年4月2日開催予定の第57回日産婦学会総会で審議承認され学会の統一見解となる。
国際活動としては,第29回国際妊娠病態生理学会が中林会長のもとで平成9年(1997)10月14-16日箱根プリンスホテルで開催され,更に第9回妊娠高血圧症会議(ISSHP)が,望月,佐藤両会長のもとで平成10年(1998)10月26-30日神戸国際会議場で開催された。
このような我が国での“妊娠中毒症”の研究の流れを過去から未来へと鳥瞰することを目的として,25周年の節目を記念して本書が企画出版された。
終わりに,本書の刊行のため絶大なる尽力をされたメジカルビュー社の原鎮夫,清沢まや両氏に深甚の感謝を表したい。
平成16年9月吉日
第25回日本妊娠中毒症学会を前にして
日本妊娠中毒症学会理事長 佐藤和雄
国際活動としては,第29回国際妊娠病態生理学会が中林会長のもとで平成9年(1997)10月14-16日箱根プリンスホテルで開催され,更に第9回妊娠高血圧症会議(ISSHP)が,望月,佐藤両会長のもとで平成10年(1998)10月26-30日神戸国際会議場で開催された。
このような我が国での“妊娠中毒症”の研究の流れを過去から未来へと鳥瞰することを目的として,25周年の節目を記念して本書が企画出版された。
終わりに,本書の刊行のため絶大なる尽力をされたメジカルビュー社の原鎮夫,清沢まや両氏に深甚の感謝を表したい。
平成16年9月吉日
第25回日本妊娠中毒症学会を前にして
日本妊娠中毒症学会理事長 佐藤和雄
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目次
日本妊娠高血圧学会(日本妊娠中毒症学会)25周年を記念して
第1部 歴史的流れ
preeclampsia(toxemia)の病因・病態の歴史的認識と意義 日高敦夫
血圧測定の歴史 三宅良明
蛋白尿測定の歴史 山崎峰夫
症候としての浮腫の歴史的意義 関 博之
[座談会] 日本における妊娠中毒症研究の歩み:
妊娠中毒症から妊娠高血圧症候群へー過去から未来へー 須川 佶ほか
第2部 新しい定義・分類 佐藤和雄
新しい“妊娠中毒症”の定義・分類について
妊娠降圧剤療法の実態と各種薬剤の文献的考察,並びに禁忌薬に対する製薬学術部見解
「新しい“妊娠中毒症の定義・分類 試案(2004)”」の日本産科婦人科学会への提案経過
[記念講演] 日本妊娠中毒症研究会・学会の25年を回顧して
第3部 最近の研究報告
I 疫学 伊藤昌春 中本 收
1 周産期登録を用いて
2 妊娠高血圧症候群の疫学
II 病因・病態
1 総括 日高敦夫
2 遺伝的因子 小橋 元/斉藤知子
3 胎盤形成障害・胎盤機能 関沢明彦/畑 俊夫/齋藤 滋/福島恒太郎
4 母体循環動態 北中孝司/三宅良明/中塚幹也
5 免疫 酒井正利・齋藤 滋/高桑好一/早川 智
6 降圧系:PG,NO,キニン・カリクレイン 関 博之/佐川典正
7 昇圧系 :RAA,エンドセリン 徳永直樹/松原圭一
8 代謝異常
カルシウム代謝,インスリン抵抗性および糖脂質代謝 山崎峰夫
過酸化ストレス:活性酸素ー消去系と妊娠高血圧症候群 石川睦男
9 血管内皮障害 松原圭一 鈴木佳克/若槻明彦/月森清巳/高木健次郎
10 血液凝固線溶系 小林隆夫/安達知子・中林正雄
11 レオロジー 江口勝人
III 症候
1 診断 高木健次郎
2 浮腫 関 博之
3 血圧 中本 收/三宅良明
4 蛋白尿 山崎峰夫/中本 收
5 HELLP症候群 金山尚裕/水上尚典
6 子癇 江口勝人/大野泰正
7 常位胎盤早期剥離 朝倉啓文
8 肺水腫 竹田 省
9 発症時期と重症度 中本 收/村岡光恵
IV 妊娠高血圧症候群のリスク因子 伊藤昌春
V 発症予知 福岡秀興 吉田 純/吉村寿博/甲賀かをり
VI 母体管理
1 食事療法 中林正雄
2 高血圧管理 松田義雄
3 降圧療法 日高敦夫/関 博之
4 分娩時期 鮫島 浩
VII 胎児管理 神崎 徹/井槌慎一郎
1 胎児評価法について
2 歴史的背景と今日の胎児管理のあり方
VIII 妊娠高血圧腎症の発症予防 三宅良明
IX 加重型妊娠高血圧腎症 佐川典正
X 慢性高血圧 友田昭二/三宅良明
1 慢性高血圧ー病態・診断・予後
2 慢性高血圧合併妊娠
XI 子癇と脳血流動態 大野泰正
第1部 歴史的流れ
preeclampsia(toxemia)の病因・病態の歴史的認識と意義 日高敦夫
血圧測定の歴史 三宅良明
蛋白尿測定の歴史 山崎峰夫
症候としての浮腫の歴史的意義 関 博之
[座談会] 日本における妊娠中毒症研究の歩み:
妊娠中毒症から妊娠高血圧症候群へー過去から未来へー 須川 佶ほか
第2部 新しい定義・分類 佐藤和雄
新しい“妊娠中毒症”の定義・分類について
妊娠降圧剤療法の実態と各種薬剤の文献的考察,並びに禁忌薬に対する製薬学術部見解
「新しい“妊娠中毒症の定義・分類 試案(2004)”」の日本産科婦人科学会への提案経過
[記念講演] 日本妊娠中毒症研究会・学会の25年を回顧して
第3部 最近の研究報告
I 疫学 伊藤昌春 中本 收
1 周産期登録を用いて
2 妊娠高血圧症候群の疫学
II 病因・病態
1 総括 日高敦夫
2 遺伝的因子 小橋 元/斉藤知子
3 胎盤形成障害・胎盤機能 関沢明彦/畑 俊夫/齋藤 滋/福島恒太郎
4 母体循環動態 北中孝司/三宅良明/中塚幹也
5 免疫 酒井正利・齋藤 滋/高桑好一/早川 智
6 降圧系:PG,NO,キニン・カリクレイン 関 博之/佐川典正
7 昇圧系 :RAA,エンドセリン 徳永直樹/松原圭一
8 代謝異常
カルシウム代謝,インスリン抵抗性および糖脂質代謝 山崎峰夫
過酸化ストレス:活性酸素ー消去系と妊娠高血圧症候群 石川睦男
9 血管内皮障害 松原圭一 鈴木佳克/若槻明彦/月森清巳/高木健次郎
10 血液凝固線溶系 小林隆夫/安達知子・中林正雄
11 レオロジー 江口勝人
III 症候
1 診断 高木健次郎
2 浮腫 関 博之
3 血圧 中本 收/三宅良明
4 蛋白尿 山崎峰夫/中本 收
5 HELLP症候群 金山尚裕/水上尚典
6 子癇 江口勝人/大野泰正
7 常位胎盤早期剥離 朝倉啓文
8 肺水腫 竹田 省
9 発症時期と重症度 中本 收/村岡光恵
IV 妊娠高血圧症候群のリスク因子 伊藤昌春
V 発症予知 福岡秀興 吉田 純/吉村寿博/甲賀かをり
VI 母体管理
1 食事療法 中林正雄
2 高血圧管理 松田義雄
3 降圧療法 日高敦夫/関 博之
4 分娩時期 鮫島 浩
VII 胎児管理 神崎 徹/井槌慎一郎
1 胎児評価法について
2 歴史的背景と今日の胎児管理のあり方
VIII 妊娠高血圧腎症の発症予防 三宅良明
IX 加重型妊娠高血圧腎症 佐川典正
X 慢性高血圧 友田昭二/三宅良明
1 慢性高血圧ー病態・診断・予後
2 慢性高血圧合併妊娠
XI 子癇と脳血流動態 大野泰正
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妊娠中毒症の研究の歴史を俯瞰できる1冊
“妊娠中毒症”研究が組織的に進められるようになって25年目を迎える。本邦の“妊娠中毒症”研究は世界的に見ても高い水準にあるが,「高血圧」「蛋白尿」「浮腫」の3徴候が同等に論じられ,学説の疾患といわれるように定義・分類が渾沌としているのも事実である。そこで国際的に“妊娠中毒症”の病態本態として認められている「高血圧」を基本とした定義・分類への改変を目的として日本妊娠中毒症学会に検討委員会が設けられた。委員会の答申した「新しい“妊娠中毒症”(妊娠高血圧症候群)の定義・分類思案」が日産婦学会の承認を得て,平成17年より学会の統一見解となる。
本書は“妊娠中毒症”の本格的な研究が始まってから現在までの研究成果を通して病因,病態を学べるとともに,本邦での“妊娠中毒症”研究の歴史を俯瞰できる書籍である。