心疾患合併妊娠の管理

心疾患合併妊娠の管理

■編集 吉松 淳

定価 9,900円(税込) (本体9,000円+税)
  • B5判  256ページ  2色(一部カラー),イラスト30点,写真100点
  • 2018年3月26日刊行
  • ISBN978-4-7583-1752-8

心臓に病気を持つ女性の診療に当たる多くの医療者に役立つ決定版!

心疾患合併妊娠の妊婦管理は増加傾向にあり,心疾患の専門家でなく一般的な産科医においても,その知識は必須なものとなりつつある。具体的な症例,典型例を提示しながら,その経過と処置,注意点,転機と予後を時系列に追うことで解説の意味を深め,わかりにくいところはQ&A方式での記載などを用いて可能な限り平易に解説している。
産婦人科医のための心疾患合併妊娠の周産期管理指針となる一冊。


序文

刊行に寄せて
わが国の実臨床に即した,本分野稀少の実践テキスト

 医療の発達の恩恵を受け,複雑先天性心疾患を含む多くの心疾患が,妊娠出産年齢を迎え,出産を経験した心疾患婦人もみられるようになっています。
 妊娠中は,体液循環のみならず,血液学的,呼吸機能的,内分泌学的,自律神経学的な変化が生じ,心拍出量,心拍数,不整脈が増加,凝固能亢進,大動脈中膜弾性線維の断裂と大動脈拡張が生じます。出産時は,陣痛,出血,出産直後の静脈還流増加など急激な血行動態変化が起こります。さらに,育児による疲労,不眠も母体へ悪影響を及ぼします。このため,心疾患患者は,一般と異なり妊娠出産の際に心血管系の合併症を認め,妊娠中の治療を必要とすることも多くなります。流産や低出生体重児の頻度も高いとされています。心疾患婦人は,妊娠出産が可能か,妊娠出産の注意点は何か,普通分娩ができるか,子どもに遺伝しないか,など多くの不安を抱えます。しかし,日本語のこの分野に関する成書は僅かです。“Heart Disease and Pregnancy”(Steer PJ, Gatzoulis MA, Backer P eds, Royal College of Obstetrics and Gynecology Press)の翻訳である『心疾患と妊娠出産』(メジカルビュー社, 2010年)。『成人先天性心疾患の方のための妊娠出産ガイドブック』(中央法規出版,2006年)などが上梓されていますが,今回の吉松 淳先生の編集したテキスト『心疾患合併妊娠の管理』は,日本の現状に即した,まさに時宜を得た出版です。
 このテキストは,国立循環器病研究センター周産期・婦人科部の医師を中心に書かれており,当センターが長期間にわたり心疾患合併妊娠・出産管理に携わってきた経験とデータに基づいた,実臨床にそったテキストです。内容は,大きく総論と各論に分かれています。総論では,妊娠出産時の病態,妊娠時の検査法,診療体制,薬剤治療,カウンセリング,多職種診療などを多く述べています。このことからカウンセリング,妊娠のリスク因子とモニタリング,合併症の予防治療に重きをおいていることがわかります。一方,各論では,先天性心疾患,弁膜疾患,大動脈疾患,心筋症など疾患別の妊娠出産の特徴を扱っています。症例提示を幅広く取り上げ,わかりやすく,実際的な内容になっています。
 吉松 淳先生をはじめ著者の方々のご尽力により,実臨床に即した,実践的なテキストに仕上がっています。心疾患の妊娠出産の管理について丁寧に書かれたこのテキストを通して,心疾患の妊娠出産に携わる多くの方々だけではなく,研修医や学生も実際医療の苦労と楽しさの一端をつかむことができます。同時に,今後,妊娠を迎えようとする多くの心疾患患者さんにとっても,大きな恩恵が与えられることと確信いたします。

2018年3月
聖路加国際病院心血管センター
特別顧問 丹羽 公一郎

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刊行に寄せて
妊娠と心疾患の交わる医療現場,必読の書

 本邦における妊産婦死亡率は,1960年では10万分娩について117 .5,1990年では8 .2であったが,2005年以降においては5以下に落ち着いている。この世界に誇るべき数字は,医学・医療が妊娠・分娩そして産褥の安全のために努力を積み重ねてきた医療関係者としても胸を張ることができるであろう。一方,これに満足せずさらに安全な妊娠管理のための努力を続けなければならない。しかし,妊産婦死亡率を現在の状態から1.0下げるには一人一人の産科医に求められるその責務は並大抵でない。
 一昔前の我が国においても,心疾患を持つ女性が妊娠することを医師から禁じられたり,健康と思われていた女性が妊娠のために重篤な状態に,もしくは死亡したりすることは珍しいことではなかった。しかし,現在においては,産科を取り扱う医師は,心疾患を持ちながら妊娠・分娩を希望する女性のリスクを正しく判断し,専門的かつ適切なアドバイスを提供しなければならない。そのためには妊娠が与える循環動態の生理学的変化を理解し,さらには個々の心疾患の病態生理,それらの診断・治療・予後だけでなく,胎児・新生児に及ぼす影響,さらには次の妊娠に与える影響までを理解することが望ましい。
 日常業務としてこれらのことを行っている施設が,国立循環器病研究センターの周産期科の医師たちである。実地第一線にある周産期医および循環器外科・内科をはじめ,関係各科医師たちの手による本教科書は,まず基本的な妊娠による心循環器系の生理学的な変化から,心機能評価のための検査,心疾患合併妊婦の一般的管理から,各論的に代表的な疾患の管理まで,症例提示を含めて詳しく記述されている。それらの予後にまで言及されているのは非常にユニークな教科書である。 多くの施設ではこれらの妊婦の管理は異なった専門医による集学的医療行為となるであろう。これを考慮して「心疾患合併妊娠のチーム医療」として章が設けられ,関係各科の医師による著述があるのも心憎い企画といえる。
 妊娠と心疾患に関して,これほどの大胆なボリュームで繊細な内容が綴られている教科書は未だ見ないであろう。産科医であろうと,循環器に携わる医師であろうと,妊娠と心疾患の交わる医療現場で活躍されている医師には必読の教科書である。

2018年3月
大阪大学名誉教授
社会医療法人生長会 ベルランド総合病院
周産期医療研究所所長 村田雄二

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 なんらかの病気を背負って妊娠することを合併症妊娠という。妊産婦の高年齢化は全体における合併症妊娠の比率を高めている。心疾患合併妊娠もその一つであり増加の傾向がみられる。さらに先天性心疾患の治療成績の向上は生殖年齢に達する女性患者の増加という形で心疾患合併妊娠の患者数を増加させている。このように産婦人科医にとって心疾患合併妊娠はこれまで以上に出会う可能性が高いといえる。
 多くの産婦人科医が心疾患合併妊娠に抱く漠然とした不安は未知の領域に対する不安である。そして,心臓という生命に直結する臓器に対する不安である。この不安は必ずしもネガティブなものとはいえない。なぜなら安易な対応は妊産婦を危機的状況に追いやる可能性があるからである。しかし,一方で妊娠可能であるにもかかわらず心臓に病気があるという理由で妊娠を止めていたり,患者自らに諦めさせてしまう不幸も内在しうる不安でもありうる。
 産婦人科医は分娩の管理については他のどの分野の専門家より熟知している。しかし,心臓のことはある程度の知識を持つことはできても循環器の医師が持つ知識や技術にはかなわない。逆に循環器の医師は心臓のことは理解していてもお産のことはわからない。お互いに自分たちのわかること,できることを持ち寄り,一人の患者を管理していく。産婦人科医の不安は循環器の医師が消すことができ,彼らの不安は産婦人科医が消すことができるのである。
 それぞれの専門分野がかけ離れているからこそ,心疾患合併妊娠ではmultidisciplinaryな管理がとても重要になる。そして,そのmultidisciplinaryな管理を行ううえで必要なことはお互いの言うことが理解できる共通言語とベースに横たわる共通の知識である。本書は我々の施設で行う心疾患合併妊娠の管理の実際とそれに臨むための考え方や必要な知識をそれぞれの専門家が執筆した「私たちはこう考え,こう診療している」という書である。共通言語と共通の知識を意識して書かれている。もちろんエビデンスやガイドラインに基づいたものである。
 私たちが書いたこの本が心臓に病気を持つ女性の診療に当たる多くの医療者に役立つものであることを,そして,それが心臓に病気を持つ女性の健康に寄与するものであることを,編者として心より願うものである。

 2018年3月
国立循環器病研究センター
周産期・婦人科部部長 吉松 淳
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目次

■妊娠中の循環に与える生理的変化
  循環血液量と血管抵抗の変化
  血圧の変化
  心臓,血管のリモデリング
  内分泌の変化
  血液凝固の変化
  呼吸機能の変化
  分娩時の変化
  産褥期の変化

■周産期の心機能評価
 放射線検査
  放射線の胎児への影響
  妊娠中のX 線検査の要点
  心疾患合併妊娠における胸部X 線検査
 MRI 検査
  妊婦におけるMRI の安全性
  シネMRI の撮影法
  心機能評価法
  ストレイン解析
  phase contrast法による血流解析
 心臓超音波検査
  妊娠中の心臓超音波検査の特殊性
  妊娠中の心臓超音波検査の実際
  手順
   症例1 先天性筋ジストロフィーで左室機能低下
   症例2
   症例3
  妊娠中の心臓超音波検査の位置付け
 心電図検査
  標準12 誘導心電図
  ホルター心電図
  加算平均心電図(SAECG)
   症例1 心室期外収縮(PVC)多発と非持続性心室頻拍(NSVT)合併妊娠
   症例2 肥大型心筋症(HCM),洞機能不全症候群(SSS),非持続性心室頻拍(NSVT),植込み型除細動器(ICD)合併妊娠
   症例3 心房中隔欠損症(ASD)閉鎖術後,僧帽弁位人工弁置換術後(機械弁),心房粗動(AF)合併妊娠
  多様化する不整脈合併妊娠
 生化学検査,BNP
  正常妊婦におけるBNP
  成人先天性心疾患(ACHD)におけるBNP
  BNP を用いた周産期管理法および注意点
   症例
  産科合併症とBNP
 運動負荷(妊娠前)
  ACHD患者での妊娠・分娩関連合併症とその頻度
  運動への生体応答と妊娠への生体応答
  これまでのCPX 指標と妊娠に関連した合併症の知見
   症例
  ACHD患者の妊娠・分娩評価におけるCPX の役割

■心疾患合併妊娠の一般管理・分娩様式
  妊娠前
  妊娠中
  医学的介入
  分娩時期
  分娩様式
  感染症心内膜炎予防
  分娩後

■心疾患合併妊娠の管理とその予後―Up to Date
 先天性心疾患
  妊娠・分娩における母体の生理的変化を顧慮した管理
  多職種専門家チームでのかかわり
  妊娠・分娩に伴う母体のリスク評価法
  症例提示
   症例1 心房中隔欠損症合併(未修復)
   症例2 大動脈縮窄症(修復術後)
   症例3 Ebstein 病(未修復)
   症例4 ファロー四徴症修復術後
   症例5 完全大血管転位:心房位血流転換術後(Mustard 術)
   症例6 完全大血管転位:動脈位血流転換術後
   症例7 完全大血管転位(Rastelli 術後)
   症例8 修正大血管転位(三尖弁生体弁置換術後)
 心筋症:拡張型心筋症
   症例
   Q&A 拡張型心筋症の退院後の注意点は?
 心筋症:肥大型心筋症
  病態生理
  症状
  妊娠に伴うリスク
  治療
   症例
   Q&A 紹介のタイミングは?
   Q&A 検査のスケジュールと内容は?
   Q&A 硬膜外麻酔の適応は?
   Q&A 感染性心内膜炎(IE)の予防は?
 血管疾患(Marfan症候群など)
  Marfan症候群(MFS)
   症例1
   症例2
  Ehles-Danlos症候群(EDS)
   症例3
  Loyes-Dietz症候群(LDS)
   症例4
   Q&A 高身長の妊婦を診察するうえで,Marfan 症候群を疑ったときはどのような対応をすべきか?
   Q&A 妊娠中のβ遮断薬による副作用にはどんなものがあるか?
   120
 弁膜疾患
  機械弁置換後の妊娠
  大動脈弁狭窄
   症例
   Q&A 大動脈弁狭窄症(AS)の重症度は何で判断するか?
   Q&A 機械弁置換術後の妊娠希望女性へのカウンセリングはどうすればよいか?
 冠疾患
   症例 陳旧性心筋梗塞合併妊娠,家族性高コレステロール血症(FH)
   ヘテロ接合型
   Q&A 長期間,症状なく経過している冠疾患でも,妊娠前の冠病変の評価や心機能評価が必要か?
   Q&A 冠疾患合併妊娠において,アスピリン内服は帝王切開前や分娩前に中止すべきか?
 不整脈
  不整脈の頻度
  基礎心疾患の有無
  不整脈を診断する意義
  妊娠・分娩が不整脈に及ぼす影響
  妊娠中の不整脈の治療
   症例1 心室期外収縮(PVC)
   症例2 Wolf-Parkinson-White(WPW)症候群
   症例3 心房細動(他施設から筆者らの施設に相談された症例)
   症例4 先天性QT 延長症候群(LQTS)
   Q&A PVC合併妊娠は硬膜外無痛分娩をしなくてよいか? どのような不整脈であれば無痛分娩の適応があるか?
   Q&A PVC合併妊娠について,予定日前に分娩誘発しなくてよいか?
   Q&A WPW症候群において,PSVTが起こると心配だが...
   Q&A WPW 症候群は硬膜外無痛分娩にすべきか?
   Q&A 心房細動で抗凝固療法は本当に必要か?
   Q&A 心房細動停止後の抗凝固療法はいつまで必要か?
   Q&A 先天性QT 延長症候群において,胎児管理についての注意点は?
   Q&A 先天性QT 延長症候群において,日常の産科診療での注意点は?

■心疾患合併妊娠と産科合併症
  産科合併症が心疾患に与える影響
   症例
  心疾患が産科的予後に与える影響
  心疾患と妊娠高血圧症候群

■周産期心筋症
  発症頻度と危険因子
  病因
   症例1
   症例2
   Q&A 今回の妊娠で周産期心筋症が発症した場合,次回妊娠をどのように考えるか?

■心疾患合併妊娠のチーム医療
 総論
  妊娠・分娩の可能性評価のための患者リスク階層化
  多職種専門科による集学的チームの必要性
  カウンセリングの重要性
  成人先天性心疾患総合診療施設の確立
  患者ケアのプラニング
 外科医
  産科と心臓血管外科の連携
  胎児心疾患の場合
  母体心疾患の場合
 小児循環器医
  先天性心疾患患児の成長発達と妊娠・分娩
  先天性心疾患合併妊娠のリスク評価
  胎児・新生児のリスク
  社会保障制度
 内科医
  成人先天性心疾患診療の一部は小児科から循環器内科へ
  シフトする流れ
  循環器内科医は若い女性が少し苦手
  薬を中断することのリスク
  妊娠中の至適循環血液量とは?
 麻酔科医
  心疾患合併妊娠における麻酔科医の役割
  経腟分娩での麻酔
  帝王切開適応理由と患者群
  帝王切開の麻酔方法の選択
  区域麻酔での帝王切開
  区域麻酔と抗血栓療法
  全身麻酔での帝王切開
  循環管理・輸液・モニター

■心疾患合併妊娠での薬物の使い方
  妊娠の時期と薬物の胎児への影響
  妊娠による循環動態の変化
  心疾患合併妊娠で使用する各薬剤の注意点
  妊娠と薬剤情報

■心疾患合併妊娠と授乳
  母体の変化
  循環器系の変化,影響
  注意を要する病態
  内服中の授乳

■避妊
  避妊に求められる要件
  心疾患患者の避妊の実際
  避妊にも専門的なサポートを

■妊娠前カウンセリング
  循環器疾患合併妊娠のリスク評価法
  運動耐容能と妊娠リスク
  カウンセリングの必要性
  母体心血管合併症
  母体長期予後リスク
  妊娠前カウンセリング時にポイントとなる妊娠週数
   症例

■心疾患合併妊娠の看護と育児支援
  妊娠中
  分娩時
  分娩後
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