整形外科感染対策における国際コンセンサス

人工関節周囲感染を含む筋骨格系感染全般

整形外科感染対策における国際コンセンサス

■編集 田中 康仁
宗本 充

定価 3,300円(税込) (本体3,000円+税)
  • A4判  462ページ  1色(一部4色)
  • 2019年9月20日刊行
  • ISBN978-4-7583-1872-3

筋骨格系の感染予防に関する652の質問に対する国際的合意に基づく推奨を掲載!

全世界から筋骨格系の感染予防に関する800人以上の専門家が集まり2018年7月に開催された第2回国際コンセンサス会議で採択された,整形外科に関連する感染症対策についての同意事項をまとめた書籍。整形外科のほぼ全領域を網羅する652題が質問形式で掲載されており,それぞれに推奨とエビデンスレベル,会議での投票結果が示されている。


序文

序文

Javad Parvizi, MD
Thorsten Gehrke, MD

 英語の辞書ではコンセンサスを「何かの事柄についての一般的な合意」と定義しています。その位置付けは,物事を決めるに当たり,完全に同意するということと,全く同意しないということの中間ぐらいであると見なされています。コンセンサスを形成する過程は,共通の価値観や同じ目的を持っている参加者の考え方によって決まります。コンセンサスは,ある特定の事柄に関する合意形成につながり,それは将来の全体的な方向性を示すことになります。整形外科領域の感染に関する第2 回国際コンセンサス会議(ICM)は,上記の目的を念頭に置いて開催されました。この会議は2013 年に開催された最初のICM会議の成功の上に成り立っており,前回会議の参加者のご意見を参考に,よりよい成果を得るという気持ちを持って開催いたしました。第2 回ICM 会議は,初回会議とは次の3 つの部分が変更になっております。

1) 今回は整形外科のすべての専門領域の専門家から参加者を募りました。股関節および膝関節(人工関節); 足と足関節; 腫瘍; 小児整形; 肩; 肘; 脊椎; スポーツ; 外傷

2) コンセンサスは再びDelphi 法に従って行われました(下記参照)。しかし今回は,以前のようにこの会議の中心メンバーが論文調査を行い,各質問に対する推奨と理論的根拠を書き出すという代わりに,世界中から選ばれた各分野の専門家が一堂に会して話し合いが行われました。各質問について,参加者には前もって入手可能な文献を評価し,現在の診療にかかわるエビデンスを抽出し,さらなる検討が必要と思われる分野を特定していただきました。また各「推奨」に関連するエビデンスレベルの特定もお願いいたしました。私たちの知る限りでは,整形外科領域の感染に関連する論文の見落としはないと考えています。

3) 今回の会議には政府機関,スポンサーや機器メーカーからの参加を認めました。これらの参加者には投票権は認めませんでしたが,将来の整形外科領域の感染に対して資金提供や支援をお願いしたり,技術を承認していただいたりするためのロードマップを作成する上で,彼らの存在は重要であると考えたからであります。

 Delphi という名前は,Oracle of Delphi から派生したもので,冷戦の初めのころに技術的な要因が戦争に与える影響を予測するためにDelphi 法は開発されました。Henry H. Arnold 将軍は米国陸軍航空隊のために,将来の戦闘に有用であろうと考えられる技術に関する報告書を作成するように命じました。しかし,この分野ではほとんど「科学的なエビデンス」がないため,利用できる予測方法,技術的アプローチおよび定量的モデルがないことがすぐに分かりました。これらの制限を克服するために,Delphi 法がRAND プロジェクトによって1950 年代と1960 年代に開発されました[1]。Delphi 法は今日でも軍によって使用され続けており,科学および医学の領域に応用されつつあります[2]。

 最初のICM 会議で使用されたDelphi 法の正確な説明は以前に公開されており[3],その文章や要約はさまざまな場所で公開されています[4–6]。2 回目のICM 会議も同様の手順で行われ,プロセスの各手順はWilliam Cats-Baril 先生の指導のもとで行われました。2016 年6 月に,世界中から多くの専門家の要請を受けて,第2 回コンセンサスミーティングを開催しようとする機運が盛り上がり,開催することになりました。その内容は下記の13 のステップからなります。

ステップ1(2016 年8 月から2016 年12 月まで):参加者の選択。 このステップは,見落とすことなく合意プロセスに役立つ専門知識を持つ方々を世界中から集めることを目的としました。参加者は,その分野での論文実績(過去5 年以内に少なくとも5 つの論文)を持っている方,専門学会からの推薦者,または整形外科感染症の多くの治療実績を持った専門家という基準で選びました。このようにして選ばれた953 人の代表者に招待状を送ったところ,招待状に返事をいただけなかった63 人と参加見合わせのご連絡をいただいた21 人を除く869 人にご参加いただくことになりました。

ステップ2(2016 年12 月から2017 年4 月):問題の特定。その後参加者には,整形外科領域の感染に関する事柄で,調査が必要だと考えられる5 〜10 の質問(問題)を考えていただくように依頼いたしました。その結果,合計3,210 の質問が寄せられました。

ステップ3(2017 年4 月から2017 年8 月):質問のランキング。その後参加者には,集められた質問を専門分野別に再度お送りし,優先順位を付けるように依頼いたしました。このプロセスでは,重複する質問を意図的に削除したり,質問の「書き方」に注文を付けたりすることはしませんでした。私たちは,おそらく「重複」が質問の優先順位の高さを表しているのであろうと考えました。

ステップ4(2017 年8 月から2017 年11 月):ランク付けされた質問の評価。ランキングの結果が帰ってくると,重複した質問を削除し,各質問の中心となるような部分はDelphi 法に従って書き直していただきました。このステップでは,「〜の役割はありますか?」や「〜の役割は何ですか」などの「示唆するような」言葉遣いを削除する必要がありました。これにより,検討すべき最終的な652 の質問が確定いたしました。

ステップ5(2017 年12 月):質問の割り当て。最終的に決められた質問は,少なくとも2 人の専門家に回答を依頼いたしました。それらの専門家を決めた基準は,論文実績や回答したいと強く希望する人ということで選びました。各質問に提示されたトピックの検討方法や回答の書き方に関する具体的なお願いを,それぞれの人にお伝えしました。

ステップ6(2017 年12 月から2018 年3 月):システマティックレビュー。質問を割り当てられた先生には,この期間で質問に対する論文を積極的に調査していただき,各質問に対する回答を準備していただきました。グループ内で討議して回答すると決めた肩グループを除き,それ以外の全ての整形外科領域の質問を割り当てられた二人の先生方には,誰からの影響も受けずに独立して回答していただくようにいたしました。また,この段階では英語で書かれた論文のなかで,見逃されているものはないと思われました。

ステップ7(2018 年2 月から2018 年4 月):参加者間の検討。一方の回答者から受け取った文書はもう一方の回答者に送られ,二人はお互いの記載内容や検討結果を共有いたしました。本部が調整し,意見の集約を行い,両方の参加者が受け入れ可能な1 つの文書ができあがりました。このプロセスだけで6,000 を超える電子メールが交換されました。

ステップ8(2018 年4 月から2018 年5 月):文書の統合/編集。受け取ったすべての文書をレビューし,文章の盗用を除去するためにチェックを行い,参考文献を更新し,英語を編集いたしました。

ステップ9(2018 年6 月から2018 年7 月):すべての参加者による文書評価。作成された文書はウェブサイト(www.ICMPhilly.com)に何ヶ月間も掲載し,参加者全員(一般を含む)から閲覧できるようにしました。一方で最終文書を参加者にも送付し,ウェブサイトに投稿されてくるあらゆる質問に対して,回答を考えていただくように依頼いたしました。私たちはこの期間に参加者から大量のコメントを受け取り,会議の前に全ての文書に適切な変更を加えました。

ステップ10(2018 年7 月):会議前の最終検討/編集。文書全体を内部の編集チームによってレビューし,さらにいくつかの変更を加えました。2018 年6 月30 日までの最新の論文もチェックし,関連するそれぞれの分野に追加いたしました。

ステップ11(2018 年7 月25 日〜26 日):投票前の議論。フィラデルフィアに来られたすべての参加者は,専門とするワーキンググループに分かれ,それぞれの分野における質問について議論しました。質問を次の4 つのカテゴリーに分けました:1)臨床的に非常に重要であるが,推奨を裏付ける証拠がほとんどないもの,2)意見の統一は得られてないが,臨床的に重要なもの,3)非常に臨床的に重要で,強力な裏付け証拠があるもの,4)エビデンスの有無にかかわらず,臨床的に重要でないもの。会議中には,カテゴリー1)と2)の質問を議論していただきました。

ステップ12(2018 年7 月27 日): 投票。すべての質問はスクリーンに映し出され,参加者にはリアルタイムでの投票を依頼いたしました。投票結果は,投票後直ちにスクリーンに表示いたしました。各推奨項目に対しては,「同意する」,「同意しない」,「棄権する」の3 つの回答のどれかに投票していただきました。投票の段取りは,投票の前にWilliam Cats-Baril 先生により参加者に明確に説明していただきました。

ステップ13(2018 年8 月以降):合意文書の配布。会議の後,投票結果を文書に反映いたしました。この文書は医学雑誌の外部編集者,特にMichael A. Mont 先生とその仲間のNipun Sodhi 先生,Thomas Bauer 先生,Adolph J. Yates 先生によってさらに査読をしていただきました。また,会議参加者には4 週間以上にわたって最終的な査読を行う機会と追加のフィードバックを提供する機会が与えられました。ご提案いただいた適切と思われる変更は,すべて文章に反映いたしました。最終的な文書は,様々な雑誌に投稿し,単行本として出版するために入稿いたしました。さらに最終文書は,現在さまざまな言語に翻訳されつつあります。

 以上の文章から分かりますように,参加者には合意文書を作成するあらゆる過程に深く関わっていただきました。しかし,上記のような複雑なプロセスであるが故に,様々な間違いをもたらす可能性があることも事実です。それらをできるだけ少なくするためにあらゆる努力を払いました。私達はまた世界中からのすべての専門家に来ていただけるように努力いたしました。しかし,この会議に参加すべき専門家を見逃している可能性は大きいと考えております。今回見逃された専門家や文書の誤りを容認しなければならない読者,意図せずに見落とされてしまった論文の執筆者,そして私たちの誤りのために迷惑したと感じる全ての人に,前もってお詫び申し上げます。今回作成された文書が,今後何年にもわたり整形外科診療のなかで役立ち,患者ケアの改善につながることを願っております。

(翻訳:田中 康仁)

参考文献
[1] Dalkey, Norman; Helmer, Olaf. An experimental application of the Delphi method to the use of experts. Management Science. 9 (3):458-467, 1963.
[2] Adler, Michael & Erio Ziglio. (1996) Gazing Into the Oracle: The Delphi Method and its Application to Social Policy and Public Health,(Jessica Kingsley Publishers Philadelphia and London, 1996).
[3] Cats-Baril W, Gehrke T, Huff K, Kendoff D, Maltenfort M, Parvizi J. International consensus on periprosthetic joint infection: descriptionof the consensus process. Clin Orthop Relat Res. 2013 Dec; 471 (12): 4065-75.
[4] Parvizi J, Gehrke T. Executive summary. J Arthroplasty. 2014 Feb; 29 (2 Suppl) : 5.
[5] Parvizi J, Gehrke T. International consensus on periprosthetic joint infection: let cumulative wisdom be a guide. J Bone Joint SurgAm. 2014 Mar 19; 96 (6) : 441.
[6] Parvizi J, Gehrke T, Chen AF. Proceedings of the International Consensus on Periprosthetic Joint Infection. Bone Joint J. 2013 Nov;95-B (11) : 1450-2.
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目次

PART Ⅰ GENERAL ASSEMBLY
PART Ⅱ HIP AND KNEE
PART Ⅲ SHOULDER
PART Ⅳ SPINE
PART Ⅴ TRAUMA
PART Ⅵ FOOT AND ANKLE
PART Ⅶ ONCOLOGY
PART Ⅷ SPORTS
PART Ⅸ ELBOW
PART Ⅹ PEDIATRICS
PART Ⅺ BIOFILM
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