理学療法マネジメント

肩関節理学療法マネジメント

機能障害の原因を探るための臨床思考を紐解く

肩関節理学療法マネジメント

■監修 村木 孝行

■編集 甲斐 義浩

定価 6,050円(税込) (本体5,500円+税)
  • B5判  276ページ  2色(一部カラー),イラスト100点,写真430点
  • 2019年8月3日刊行
  • ISBN978-4-7583-1909-6

肩関節の機能障害に対する評価・解釈・治療アプローチを詳細に解説!

関節の機能障害に対する評価・解釈・アプローチ法を詳細に解説する『理学療法マネジメント』シリーズ。
本書では機能障害別に,肩甲上腕関節の動的安定性低下,肩関節の可動域制限,肩関節の不安定性,肩甲骨アライメントや運動の異常,投球動作の不良に分けて,評価法や理学療法を解説。代表的な肩関節疾患の病態や病期分類などについては医師による解説を掲載。
エビデンスをなるべく多く提示し,経験則に陥りがちな臨床思考についてなるべく客観的な記載を心掛けるとともに,ケーススタディも掲載し,読者の理解促進を図っている。
病態に対する理解を深め,限られた期間でも効果的で計画的なリハビリテーションを実施する「理学療法マネジメント能力」を身に付けられる1冊となっている。


序文

監修の序

 本書および他の『マネジメントシリーズ』の企画協力をメジカルビュー社の小松氏からご依頼を受けたときには,同じく企画協力で関わっていただいている石井慎一郎先生と「文献をもっと読もう」を1 つのテーマに掲げました。筆者が学生であった20 数年前には肩関節および運動器理学療法に関する文献や書籍は少なく,限られた情報と実際の臨床を照らし合わせたり,文献の著者である先生の臨床見学に伺ったり,試行錯誤しながら知識や技術を蓄積していくしかありませんでした。近年では,理学療法士の増加や情報化社会などを背景として文献や書籍の数はすべてを追いきれないほどに増加し,むしろどれを選択して読めばいいのか難しくなってしまうほどです。結果,目に入るものだけ読む,あるいは選択すること自体が億劫で読まない,という状況に陥りやすいことを筆者自身も感じることがあります。
 そこで,本マネジメントシリーズはエビデンスを中心とした内容にまとめることにしました。そうすることで,理学療法の評価と治療に関するエビデンスを知るだけでなく,エビデンスの基となる論文を読む機会も生まれます。また,読むべき論文も自動的に選択されて,効率よく必要な論文を読むことができるでしょう。論文を読むことによって知見が深まるのはもちろん,実際の臨床の裏付けになっていることも多々見つかります。一方で,論文によって結論が異なり,コンセンサスが得られていないことも当然あります。これは細かいレベルで母集団が異なっていたり,視点が異なっていたりするなど様々な要因が影響するからです。そのようなこともあり,本書では,評価・治療の理論からケーススタディまで極力一貫性を保つため,少数の筆者に絞りました。それぞれ肩関節障害の臨床及び研究の第一線にいらっしゃる先生方です。
 本書のもう1 つの特徴として,理学療法の評価・治療に関しては機能障害別に項目立てをしていることが挙げられます。これはより適切な理学療法を提供できる分類は何か,というもう1 つのテーマの下で採用した項目立てです。それによって肩関節の理学療法が難しいと感じている方々にも理解しやすく,かつ理学療法の効果をもたらす助けになることを期待しています。
 そのようなリクエストにお応えいただいた執筆者の先生方,本書の完成に長期間ご支援いただいたメジカルビュー社の小松朋寛氏・北條智美氏,そして何よりも本書のテーマに共感していただき根気よく目の回るような編集作業の労をとっていただいた甲斐義浩先生に深謝します。

2019年6月
村木孝行

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編集の序

 肩関節の運動は,胸鎖関節,肩鎖関節,肩甲胸郭関節,および肩甲上腕関節の協調的な運動によって成り立つことは言うまでもありません。肩関節の運動範囲は,人体の関節のなかで最大であるとともに,その一方で最も不安定な構造を有しています。肩関節を構成する一連の関節群で,最も広範な可動性を有する肩甲上腕関節では,上腕骨の自由な動きを担保するために,肩甲骨の関節窩は狭くて浅い,つまり骨性支持に乏しい構造となっています。その対価として生じる不安定性を補うために,関節窩に対して上腕骨頭を引き付ける腱板構成筋の働きが欠かせません。また,胸郭に浮遊する肩甲骨は,上腕骨に加わる荷重を土台として受け止め,かつ自在に動きながら上腕骨頭を追跡し続けなければなりません。さらには,肩甲骨と体幹を骨性に連結する鎖骨も,近位端と遠位端で滑膜関節を形成し,それぞれ(胸鎖関節・肩鎖関節)が三次元的な運動を求められます。つまり,肩関節理学療法では,運動性と安定性,いわばトレードオフの関係にある2 つの機能をいかに満たすかが肝要であり,さらにこれらの機能を破綻させている原因を適切に把握する必要があります。
 一方,肩関節疾患(病態)の重症度と機能障害の程度は,必ずしも一致するわけではありません。例えば,広範囲腱板断裂症例では,自動挙上が制限される偽性麻痺を呈することも少なくありませんが,仮に病態の重症度が同程度であっても自動挙上が可能な症例も数多く存在します。また,肩関節疾患の結果として生じている機能障害なのか,あるいは肩関節疾患の原因となりうる機能障害なのか,その因果関係がいまだ不明確な症例も多いのが現状です。
 そこで本書では,肩関節の代表的な「機能障害」に焦点を当てて,その機能障害と関連する病態や機能障害どうしの関連について整理し,多様な機能障害の見極め(評価)と理学療法について,わかりやすく丁寧に解説しました。また,できる限り科学的根拠に基づいて記載したうえで,執筆者の豊富な臨床経験に基づく知見を加えています。疾患別ではなく,機能障害別の理学療法をコンセプトとした本書は,他書に類をみない,ユニークでまったく新しい視点でまとめられた専門書として完成することができました。これもひとえに,本書の主旨にご賛同いただき,ご多忙のなかご執筆いただいた先生方のお力添えの賜物です。この場を借りて,心より感謝申し上げます。また,企画から出版に至るまで,ご尽力いただいたメジカルビュー社の小松朋寛氏・北條智美氏,そしてなにより,私の至らぬ編集作業を,常に力強く支えてくださった監修の村木孝行先生に深謝いたします。
 本書が,読者のみなさま方にとって「肩関節理学療法」の扉を開き,日々の臨床に少しでも役立つことを願っております。

2019年6月
甲斐義浩
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目次

Ⅰ章 肩関節理学療法の概要
 1 肩関節理学療法の考え方  村木孝行
  肩関節理学療法の変遷
  肩関節理学療法の考え方
 2 肩関節複合体の機能解剖とバイオメカニクス  甲斐義浩
  骨の形態的特徴
  肩関節複合体の機能解剖
  バイオメカニクス
  
Ⅱ章 肩関節疾患を理解する
 1 中高齢者にみられる肩関節変性疾患  山本宣幸
  はじめに
  腱板断裂
  凍結肩
  石灰性腱炎
 2 スポーツに関連する肩関節疾患  森原 徹
  はじめに
  総論
  上腕骨近位骨端離開
  インターナルインピンジメント症候群(後上方)
  インターナルインピンジメント症候群(前上方)
  肩峰下インピンジメント症候群
  胸郭出口症候群(TOS)
 3 肩関節不安定症  菅谷啓之
  はじめに
  肩関節不安定症の分類
  外傷性不安定症
  非外傷性不安定症

Ⅲ章 機能障害別マネジメント
 1 肩甲上腕関節の動的安定性低下(骨頭求心性の破綻)  上田泰之
  はじめに
  機能障害と肩疾患(病態)との関係について
  機能障害の見極め(評価とその流れ)
  機能障害に対する理学療法アプローチ
 2 肩関節の可動域制限  河上淳一
  はじめに
  基本的知識
  可動域制限の評価
  可動域制限に対する理学療法プログラム
 3 肩関節の不安定性  山内弘喜
  はじめに
  基本的知識
  理学療法評価
  肩関節の不安定性に対する理学療法アプローチ
  外傷性肩関節脱臼術後の理学療法アプローチ
  まとめ
 4 肩甲骨アライメントや運動の異常  石川博明
  はじめに
  基本的知識
  肩甲骨アライメント・運動異常の評価
  肩甲骨アライメント・運動異常に対する理学療法アプローチ
 5 投球動作の不良  坂 雅之
  投球動作と肩疾患(病態)との関係
  投球動作不良の見極め(評価とその流れ)
  臨床における投球動作の評価
  実際の理学療法評価の流れ
  病態評価
  投球動作不良に対する理学療法

Ⅳ章 機能障害別ケーススタディ
 1 肩甲上腕関節の動的安定性低下(骨頭求心性の破綻)  上田泰之
  はじめに
  症例情報
  理学療法評価
  治療および治療効果
  まとめ
 2 肩関節の可動域制限  烏山昌起
  症例情報
  理学療法評価
  治療方針および治療プログラム
  介入前後の治療効果(介入3カ月後)
  まとめ
 3 肩関節の不安定性①  穐山大輝,山内弘喜
  症例情報
  理学療法評価(リーグ戦終了後翌日介入時)
  治療および治療効果
  まとめ
 4 肩関節の不安定性②  穐山大輝,山内弘喜
  症例情報
  術前評価
  手術
  理学療法評価(術後12週)
  治療および治療効果
  まとめ
 5 肩甲骨アライメントや運動の異常  石川博明
  症例情報
  理学療法評価
  治療および治療効果
  まとめ
 6 投球動作の不良  穐山大輝,坂 雅之
  症例情報
  理学療法評価(初診時)
  治療および治療効果
  まとめ
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