究める鏡視下膀胱全摘術・尿路変向術 Level up LRC, RARC

究める鏡視下膀胱全摘術・尿路変向術 Level up LRC, RARC

■監修 頴川 晋
大山 力

■編集 三木 淳
古家 琢也

定価 11,000円(税込) (本体10,000円+税)
  • A4判  160ページ  オールカラー,イラスト170点,写真100点
  • 2020年3月29日刊行
  • ISBN978-4-7583-1272-1

腹腔鏡下膀胱全摘術(LRC)とロボット支援膀胱全摘術(RARC)をエキスパートたちが解説!

膀胱全摘術において今後主流となると考えられている腹腔鏡下膀胱全摘術(LRC)とロボット支援膀胱全摘術(RARC)を,両術式のエキスパートたちが豊富なイラスト・写真とともに丁寧に解説。手術手技の項目では,冒頭に手術のポイントをまとめた囲み記事を掲載。またトラブルシューティングも充実。


序文

刊行にあたって

 2014 年の全国統計合計値によると本邦の膀胱がん罹患数は男性15,486 名,女性5,109 名となっている。人口10 万人あたりにすると各々25.0,7.8 人となる。また死亡数(2017 年)は男性6,026名,女性2,754名である。今回,膀胱がん根治術アップデートとして最新の情報収載を企画した。本誌では総論的な内容として,骨盤解剖,特に膜解剖,骨盤リンパ流,センチネルリンパ節の新概念など詳細な解説を取り挙げた。そして低侵襲手術の時代における腹腔鏡,ロボット支援下術式を各々の立場からその領域のエキスパートらが解説した。従来の手術書のイラスト解説は,いわゆる開放術式時代の記述が多く,内視鏡カメラによる開放術式では得られない視角・拡大視野による最深部の観察などに基くものではなかった。また,教科書としての解剖書は術者の視点からは著しくかけ離れ,解剖を頭のなかでつなぎ合わせるように統合して理解しようとせねばならなかった。本書は,術前シミュレーションがより簡便かつ容易にできる時代となった今日の泌尿器外科医であればだれでもが共有できる視点から外科解剖を詳細に解説しているということで特筆に値する。各々のエキスパートらは自身の豊富な経験に基いて術式の工夫を披露している。もちろんこれは,当座ここに至ったという報告であり,10 年以上の長きにわたって合併症も経験,克服しながら試行錯誤を繰り返し営々と積み上げてきた到達の記録であるとご理解いただけたら幸いである。技術としては今後とも進化が続くことは間違いない。
 骨盤外科医にとって骨盤内解剖詳細の完全理解は,対象とする臓器は違えど,泌尿器科のみならず,婦人科,消化管外科など専門領域横断的にきわめて重要である。この意味で本書構成の中心人物である三木淳准教授が担当した「II. 膀胱全摘」のパートは興味深い。およそ泌尿器科医であれば皆漠として抱いている疑問,「なぜ,他科手術により尿管が損傷されるのか」,はたいへんにおもしろい。いみじくも,自科解剖のみならず,他科解剖の体系的理解の統合がどれほど役に立ち,安全性を担保する上でも欠かせないものであるかということを示唆しているのである。読者の皆さんには大いに参考にしていただきたいところである。さらに,ところどころにコラムが挿入されている。いわゆる閑話休題ということになろうが,なかなかにうならされる。
 本書の利用の仕方はさまざまである。特に,これから泌尿器骨盤内手術を始めようという若手の医師には是非手にとっていただきたいと思う。さらにシニアとされるベテラン医師の方々もご自分の理解がさらに深まる,なかには目から鱗という方もおられるのではなかろうかと推察する次第である。自分は後者であったことは言うまでもない。本書が幅広く泌尿器外科医の愛読書となることを期待する次第である。

2020年2月
頴川 晋
大山 力

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序 文

外科医なら誰しもが経験する,「忘れられない手術」がある。私 にとっての忘れられない手術は,医師になって6 年目に経験した70 代男性の浸潤性膀胱癌に対して執刀した,開腹膀胱全摘術,回腸導管造設である。出血約2,000mLで輸血はしたが,8時間で無事手術を終えた。はずだったが,術後回腸導管壊死により尿管皮膚瘻造設,その後腸閉塞により再々手術,さらに創離開により皮弁手術を行い,最終的に約4カ月の入院となった。
 そもそも膀胱全摘術は複雑で,泌尿器科医にとって,ハードルの高い手術の一つである。骨盤の深い部位で出血に注意し苦労して膀胱を摘出,大血管近くで慎重にリンパ節郭清を行い,慣れない腸管を用いた尿路変向が終わると,1 日がかりの大手術となる。しかも,他の泌尿器手術に比べて,感染症,創離解,腸閉塞などの重篤な術後合併症も起こりやすい。特に開腹手術では,出血が多く輸血も必須の手術で,患者さんにとってはそれこそ命がけの手術と言える。実際,私が医師になった約20 年前では,80 歳以上の患者さんに膀胱全摘術を行うと提案したら,リスクが高すぎると上級医に止められたものだ。その後,2012 年に腹腔鏡下膀胱全摘術,2018 年にロボット支援下膀胱全摘術が保険収載され,鏡視下による低侵襲手術全盛の時代となった現在,膀胱全摘術は必ずしも輸血は必要なくなり,高齢化も伴い80 代の膀胱全摘術も安全に行われるようになった。
 腹腔鏡やロボット手術の普及に伴い,開腹手術で見過ごされていた,骨盤内解剖を改めて意識することができるようになった。そもそも膀胱全摘術は症例が少ないため,なかなか系統立てて手術を学ぶことが難しい。特に開腹手術では,術者と共通の視野を確保することが難しく,誰もが実施できるような手技が普及することはなかったように思われる。
 今回,2020 年現在の時代に見合った,誰もが安心して膀胱全摘術を行えるような教科書を作りたいという意図から,ロボット手術のエキスパートである古家琢也先生,槙山和秀先生,井上高光先生にご執筆をいただいた。そして柳澤孝文先生と私が,腹腔鏡下膀胱全摘術の執筆を担当した。従来の企画に基づいた教科書では,それぞれのエキスパートによる分担執筆のため,一冊の本にすると,時にまとまりがなくなることがあるように思える。そこで本教科書では,腹腔鏡とロボットで手術の本質は変わらないという共通認識のもと,解剖,膀胱全摘,リンパ節郭清などは共同で執筆した。特に,骨盤内膜解剖に基づいた手術手技は,これまで泌尿器手術ではあまり論じられなかった内容であり,本書で最も力を入れた部分の一つである。また,ロボット手術が得意とする体腔内尿路変向の手技は,腹腔鏡手術で行う体腔外尿路変向と分けて,それぞれのコツや注意点など,別々に執筆を行った。そして最終的には,ロボットでも腹腔鏡でも,さらには開腹手術でも,膀胱全摘術を行う際には必ず目を通しておきたくなる教科書を作ることを念頭に,細部から全体にわたるまで,執筆者全員で議論を重ねて決定した。
 私は,冒頭で紹介した「忘れられない手術」を機に,手術の際に肝に銘じていることがある。それは,「常にベストの一手を目指す,そして失敗から逃げない」というものである。どんなに大きく複雑な手術も,小さな手技の組み合わせであり,それら一つ一つにベストな一手があり,そのベストな一手を目指すことで手術はより進化する。そして,明らかな失敗はもちろん,どんなにうまくいったと思った手術でも,期待を裏切る結果が起こりうるのが手術である。こうした失敗から逃げずに,常に学ぶ姿勢を取ることは,術者なら当たり前のことだが,いざ失敗を経験すると難しい。本教科書では,エキスパートの術者達が,これまでの失敗からたどり着いた,現時点での膀胱全摘術におけるベストな一手を記したつもりである。
 本書が,根治的膀胱全摘術を執刀する泌尿器科医にとって,座右の書としてお役に立てることを切に願っている。

2020年2月 
編集・執筆者を代表して
三木 淳
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目次

Ⅰ 解剖,術野の展開  三木 淳,古家琢也,井上高光
 骨盤内膜解剖の解説
 Optimal surgical view の展開
  S状結腸の授動
  尿管下腹神経筋膜を意識した直腸側腔の展開と膀胱側方靱帯の分離
  膀胱下腹筋膜を意識した膀胱側腔の展開
  [コラム]手術室におけるコミュニケーション①−理想のリーダー像とは−

Ⅱ 膀胱全摘
男性の膀胱全摘術
 腹腔鏡下,ロボット支援下膀胱全摘術  三木 淳,古家琢也
  膀胱全摘の手術手技
   体位,ポート造設
   最適術野(optimal surgical view)の展開,尿管の同定
   膀胱側腔の展開
   膀胱後腔の展開
   膀胱の側方靱帯処理
   膀胱前腔(Retzius腔)の展開
   前立腺の側方靱帯処理,DVC処理,尿道切断
   DVC 処理
   尿道処理
  腹膜温存膀胱全摘術
   膀胱前腔(Retzius腔)展開
   膀胱背側の剥離
  おわりに
   [コラム]閉鎖神経損傷の予防と対処法
 尿道摘除  槙山和秀
  尿道摘除のタイミング・体位
  手術手技
   会陰部からの前部尿道剥離
   会陰部からの後部尿道剥離
   腹腔内からの操作
  おわりに
   [コラム]手術室におけるコミュニケーション②−タイムアウトの重要性−
女性の根治的膀胱全摘術  三木 淳
 女性の骨盤内解剖
  女性の骨盤内広間膜
  女性の側方靱帯
 基靱帯と子宮周囲支持組織
  手術手技
  体位,皮切,ポート造設
  腹膜,広間膜の処理
  膀胱側腔の展開
  直腸側腔の展開
  側方靱帯処理
  腟円蓋部切開,傍腟結合組織処理
  尿道周囲処理
  腟壁閉鎖
  [コラム]女性の膀胱全摘術

Ⅲ リンパ節郭清  井上高光,三木 淳
  膀胱全摘術におけるリンパ節郭清の意義
  内腸骨動脈の解剖
  内腸骨領域リンパ節
  骨盤内リンパ流域(lymphatic
  骨盤内リンパ節郭清のテンプレート
  リンパ節郭清のステップごとの手技
  右外腸骨,総腸骨リンパ節の郭清
  閉鎖領域郭清
  仙骨前面〜内腸骨中枢領域の郭清
  内腸骨末梢領域(膀胱の側方靱帯処理の際,膀胱と一塊に切除)
  傍大動脈領域(下腸間膜動脈までの超拡大郭清)
  [コラム]右総腸骨〜下大静脈損傷に大量出血の対応
Ⅳ 尿路変向
回腸導管
 体腔外  柳澤孝文,三木 淳
  手術手技
   ポート・小切開創位置,ストーマサイトマーキング
   尿管の剥離
   導管部位の選定,回腸離断,回腸吻合
   導管尿管吻合
   回腸導管の後腹膜化
   ストーマ作成
  おわりに
   [コラム]術後末梢神経障害
 体腔内(ロボット手術)  槙山和秀
  トロカー位置と体位
   トロカーの留置
   体位
  ICUD の留意点:愛護的な腸管操作
  手術手技
   回腸遊離
   回腸回腸吻合
   回腸導管尿管吻合
   尿管下端処理
   右尿管回腸導管吻合
   ストーマ位置とトロカー位置の関係による2つの手順
   尿管ステント留置
   左尿管回腸導管吻合
   後腹膜化
   ストーマ作成
  おわりに
新膀胱
 体腔外 Studer法新膀胱  三木 淳,柳澤孝文
  手術手技
   ポート・小切開創位置
   新膀胱部位の選定
   新膀胱のデザイン
   脱管腔化
   パウチ後壁縫合
   内尿道口形成
   パウチ前壁縫合
   尿管新膀胱吻合
   新膀胱尿道吻合
   [コラム]新膀胱尿道吻合トラブル
 体腔内 U字型新膀胱(ロボット手術)  古家琢也
  手術手技
   腸管の選択と骨盤底への誘導
   脱管腔化
   新尿道口作成と尿道吻合
   後壁縫合
   尿管吻合
   前壁の縫合と新膀胱完成
   新膀胱の腹膜外化
   [コラム]新膀胱容量と術後排尿指導について
 体腔内 Studer法新膀胱(ロボット手術)  槙山和秀
  トロカー位置と体位,回腸長測定方法
  手術手技
   回腸遊離
   回腸脱管腔化
   パウチ後壁縫合
   パウチ尿道縫合
   パウチ前壁縫合・輸入脚尿管吻合
  おわりに
   [コラム]RARC ではICUD か?ECUD か?
尿管皮膚瘻  柳澤孝文,三木 淳
  手術手技
   ポート位置,ストーマサイトマーキング
   尿管の剥離
   豊田法
   尿管皮膚瘻造設
   尿管の完全後腹膜化
  おわりに
   [コラム]手術室におけるコミュニケーション③−手術室看護師の声−
体腔内 腸管吻合(ロボット手術)  古家琢也
  手術手技
   腸管選択
   腸管の切離
   腸管の吻合の準備
   腸管側側吻合
   ステープラー挿入口の閉鎖
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